【声明】中央集権化を進める地方自治法「改正」案に反対する

政府は、地方自治法「改正」案を提出し、国会で審議が続いています。この法案は、「第11章 情報システム」と、いわゆる「補充的指示権」などを規定する「第14章 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を新設するなど、これまでの地方自治法に大きな変更を加えるものです。

まず、法案の最大の問題点は、「補充的指示権」です。それによって、各大臣が、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合に」、自ら「生命等の保護の措置」を講じ、また適切と認める自治体に対し、同措置を講じるよう「必要な指示」ができるようにするものです。しかし、当該指示の要件は抽象度が高く、法定受託事務だけではなく、自治事務にも適用可能なもので、指示の対象事務の範囲は相当広いものになります。その手続をみても、「閣議の決定」を経てとされていて、これでは、指示の政治的性格を強めるだけです。修正によって、事後に「国会に報告」するものとされましたが、権限濫用の歯止めとして十分とはいえません。また、この指示権は、自治体の事務処理を待たず、そのため事務処理が適法・違法であるを問わず、国が判断し指示することを認めるもので、住民に身近な自治体よりも、国の方が適切な判断を下せるという不適切な前提に立っています。むしろ、指示は、自治体に無用な混乱を招くものになってしまいます。武力攻撃事態法や国民保護法に定める指示権の発動要件に至らない重大影響事態に適用されることも想定され、「武力攻撃」にかかわって活用されることも排除できず、平和主義との関係でも問題があり、さらに、憲法「改正」ではなく、地方自治法「改正」によって、緊急事態条項を定めるもののように考えられます。

新設される第11章では、デジタル化の最大の目的である「効率化」が目指されています。また、デジタル化では国と協力して情報システムの利用の「最適化」を図ることが求められており、「国と協力」した「最適化」によって、個々の自治体にとっての最適化ではなく、国にとっての最適化が目指される可能性があります。さらに、第16章では、「指定地域共同活動団体」が規定されます。この前提には、市町村が独自に行政サービス・公共サービスを提供するのではなく、他の民間団体と協力してこれらのサービスを提供すれば足りるという考えが前提となっています。市町村が新しく規定される「指定地域共同活動団体」との関係で、委託について随意契約によることや、行政財産を貸し付けることができるといった優遇措置をとれることを規定し、条例の定め方にもよるものの、行政の民間化を一層推進するものになりかねません。

このように、地方自治法「改正」案は、地方自治を充実させるのではなく、反対に、地方分権に逆行し、中央集権化を進めるものになると考えられます。また、自治体行政の民間化を後押しする可能性をもち、平和主義や憲法「改正」にも重大な影響を与える危険性が高いものです。以上のことから、地方自治法「改正」案には到底賛成することはできず、この「改正」案に強く反対します。

2024年06月01日
自治体問題研究所理事会