【提言】東日本大震災からの復旧・復興にむけて

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はじめに

2011年3月11日に発生した東日本大震災から1カ月余りが経過した。今回の大震災は、マグニチュード9.0という過去最大級の本震に加え、1000年に一度といわれる大津波、さらに福島第一原発における炉心溶融事故と放射能汚染の拡大という、人類がかつて経験したこともない大災害となった。4月20日現在で判明している死者・行方不明者は2万7542人に達し、いまだ所在確認ができていない人々も多数にのぼる。また、原発事故による半径20キロ圏の避難住民も含め、不自由な避難生活を強いられている人々は、約13万人に及び、制御不能となった原発からの放射性物質の放出・拡散による水道水、土壌、海洋、農林水産物汚染、さらに大規模電源喪失による東日本地域での「計画停電」と、それにともなう住民生活、産業活動への影響は、今後も長期にわたると予測されている。しかも、原発事故が未収束であるうえ、強い余震が断続的に発生しており、今後も震災被害が広がる可能性がある。

三陸沿岸地域では、大津波によって地方自治体の職員、庁舎も含め壊滅的な打撃を受けた基礎自治体も少なくなく、福島県の浜通り地域では住民とともに役場・市役所機能も移転せざるをない事態となり、不明者の安否確認、遺体収容はもとより、被害の全容の把握もできない状況が今も続いている。だが、そのなかで、被災地では、避難所で自律的なコミュニティがつくられ、がれきの整理、生活インフラの復旧、仮設住宅の建設や住民自身の手による居住環境の回復等、まちやむらの再生の取組みが、住民と自治体関係者の昼夜を分かたぬ努力と、多くの公的団体、民間団体、個人ボランティアの献身的な支援のもとで広がりつつある。とはいえ、震災から1カ月が経過した今も、住宅や生業、働く場、所得の機会を失った被災者が置かれている全体状況は、避難所における衛生状態の悪化にともなう疾病の広がりに象徴されるように、命と健康という人間として最低限の生存権を維持することも困難な深刻な事態から脱しきれていない。

他方、国や県では、復興構想会議や復興指針やビジョン策定のための委員会が設置され、復旧・復興に向けた議論が開始されつつある。だが、国の復興構想会議では、「創造的復興」をめざすとされ、宮城県の復興指針では漁港の集約化が強調されるなど、被災地の住民の思いからかけ離れた議論が展開されようとしている。菅直人民主党政権は、震災前からの懸案であった、消費税率の引き上げを基調にした税・社会保障の一体改革、TPP(環太平洋連携協定)への参加、そして道州制をにらんだ地域主権改革を、大震災を機に、自民党との大連立政権形成も視野に入れ、部分的な修正を施しながら、推進する構えである。それは、震災復興を機に「さらなる構造改革」をすすめるべきであるとか、被災地域での市町村合併や道州制導入を念頭においた広域連合をつくるべきであるとか、震災復興財源の確保のために「消費税増税」を行うべきだとする政府・与党首脳部の発言に凝縮される。その背後には、日本経団連や経済同友会など中央財界による、構造改革や道州制を求める要求があり、規制緩和によって巨額の復興事業に期待をかける経済界の思惑もある。

だが、私たちは、16年前の阪神・淡路大震災の際に、「創造型復興」のかけ声の下で、震災前から計画されていた大規模開発や区画整理事業が真っ先に行われ、被災者の生活や住宅の復興が後回しにされた苦い歴史的経験を想起しなければならない。ゼネコンや鉄鋼・セメントメーカーの市場づくりが優先されるなかで、復興需要の9割が被災地域外企業によって受注される一方で、被災地域地元での住民の生活再建、住宅再建、地域産業の再生がすすまず、10年以上経過しても「7割復興」と呼ばれるような状況に留まったのである。同様のことは、2004年の中越大震災地域でも、「創造的復旧」の言葉の下でも再現された。だが、山古志村地域では、「山古志へ帰ろう」という住民合意を広げることで、生活領域である旧村単位で、住宅を中心に生産基盤と生産活動、生活機能を一体として再生する復興計画をつくり、実施することで7割近くの住民が山古志に戻り、生活再建をなしとげた貴重な経験を生み出した。

自治体問題研究所では、これまで阪神・淡路大震災、中越大震災に際して、研究会を組織して、現地調査を繰り返しながら数次にわたる提言をしてきた。今回の東日本大震災にあたり、その成果を生かしながら、昨年度から開始した「新しい時代の地方自治像研究会」のタスクグループの一つとして、東日本大震災および復興に関する調査研究・提言を行う震災復興研究会を発足させることとした。これは、今回の震災からの復興のあり方が、今後の日本の国のあり方や地方自治および地域経済の発展にとって、枢要な位置を占めるという認識によるものである。今後、この研究会での調査、研究を通して、具体的な政策提案を、震災復興の節目ごと、また被災地域の特性に合わせて地域ごとに行っていきたいと考えている。

ただし、国や一部の県ではすでに復旧・復興構想の策定作業に着手しつつあり、そのため震災研究会の設置に先立ち、震災復興に関わる基本的視点と、現時点でとくに重要であると考えられる点について絞って、自治体問題研究所として当面の問題提起と提言を行うこととした。

Ⅰ今回の災害の特徴と復興への基本的視点

東日本大震災は、岩手県から茨城県沖の南北400㎞、東西200㎞に及ぶ岩盤が破壊されるプレート型地震と、それによって発生した巨大津波や地すべり、地盤沈下による自然災害に加え、福島第一原発の放射能漏れ事故、コンビナートや市街地火災、埋立地の液状化による住宅、工場、商店、インフラ破壊等々の各種災害が、複合的に、かつ東北地方から関東にいたるエリアに広がった超広域的な巨大災害である。これらの被災地に加え、比較的強い余震が、長野県栄村を中心とする長野県北部や静岡県東部、秋田内陸部をはじめ、東日本一帯で連続的に起こっており、日本列島の広大な地域が、何らかの直接的な災害被害を受けた。

さらに福島第一原発の炉心溶融事故は、スリーマイルアイランド原発事故を上回り、チェルノブイリ原発事故に次ぐ大量の放射性物質を大気、海洋中に放出し、広範囲に及ぶ土壌や水、農産物、畜産物、水産物の放射能汚染問題を引き起こし、国際問題にも発展している。と同時に、大規模電源の喪失は、供給電力の大幅減少につながり、東京電力及び東北電力エリアの住民生活や産業活動に多大な影響をもたらし、間接被害もまた甚大である。

災害は、いつでも、その時代の社会構造の弱い環を直撃し、解決すべき社会問題を露にする。今回の東日本大震災は、経済のグローバル化と構造改革の遂行のなかで地域産業が後退し、過疎化と高齢化が進行し、コミュニティ機能が弱まり、買い物難民、医療難民、ガソリンスタンド難民が問題化していた東日本の農山漁村地域を直撃した。しかも、「平成の大合併」で基礎自治体の規模が広域化し公職員数が減少した被災地域では、災害の把握からはじまり孤立集落、家屋の確認、救援物資の配給にも困難を来しているところが多い。また、原発の「安全神話」を信じ、電源立地交付金や電力会社の寄付金等に依存した地方財政、地域経済構造をつくっていた原発立地自治体は、大量の放射能漏れ事故による強制退去という最悪の事態に陥り、原発周辺自治体に住む住民の暮らしの基盤が脆くも崩れた。さらに、経済のグローバル化の利益を一身に受け、東北や関東地域から水、空気、食料、エネルギーを得てきた東京圏の経済生活は、それらの供給がストップしたり、汚染されることにより、大きく混乱し、東京一極集中という現代日本の地域構造の弱さを一気に露呈することになった。

以上のような東日本大震災の特質は、これまでの阪神・淡路大震災や中越大震災等と比較しても、復旧・復興が容易でなく、長期にわたることを示している。第一に、北東北から関東一帯、さらに長野県北部や静岡県東部にいたる広大な地域が被災地となった。第二に、津波によってあまりにも多くの人々の命と住宅、事業所、農地や漁船、工場設備等の生産手段が失われ、生活再建、生業再建が極めて困難な地域が海岸部一帯に広がっていることである。第三に、史上最悪の福島第一原発事故による放射能汚染が、いまだ解決の目途がたたず、大気中及び海中への放射能の拡散が続いていることである。これにより、原発周辺20~30キロ圏の住民は、解決の展望が見えない避難生活を余儀なくされ、土地と結びついた農業や水産業の将来はまったく見えない状況に置かれている。加えて、放射能拡散にともなう風評被害は、関東地域の農山漁村に広がっており、現金収入機会を失った住民の生活問題が深刻化している。

このような大震災からの復旧・復興において、何よりも重要なことは、被災地の住民の生活再建を最優先することにある。住宅と生活の再建を核に、地域経済・社会、地方自治体を再生していくことが何よりも優先されなければならない。関東大震災の折に、被災地を踏査した経済学者・福田徳三は、「復興事業の第一は、人間の復興でなければならない」と喝破した。「人間の復興」とは、生活、営業、労働の復興を指している。これは、憲法25条に基づき被災地の住民の基本的人権を何よりも重視すべきという考え方に通じるものであり、この根本的視点は、東日本大震災においても堅持されなければならない。それとは反対に、震災復興税の名による消費税増税や「さらなる構造改革」、「道州制導入」を図ることを目的とすることは、本末転倒であるだけでなく、これまで以上に被災地域を疲弊させ、住民の生活再建を困難にするだけである。

Ⅱ復旧・復興過程において留意すべき要点

東日本大震災からの「人間の復興」を果たすためには、今回の災害の特質と、これまでの大規模災害からの復興事業の教訓に照らして、少なくとも下記の点に留意すべきである。

(1)あらゆる被災地ですべての被災者の健康維持と生活再建をはかることを最優先すべき>

第一に、超広域の複合災害という特質もあり、震災後1カ月以上過ぎても、被害状況の全容が把握しきれていない状況にある。大規模な津波被害を受けた三陸海岸地域や原発周辺地域だけでなく、東北から北関東、長野・新潟・静岡県の内陸部でも甚大な被害が出ている。避難所や自宅生活者のなかには、いまだに食料・水・燃料の確保に困窮しているところも存在しており、衛生問題や高齢者や子どもの健康問題が深刻化している。一命を取り留めた被災者が、その後の避難生活、仮設住宅生活、復興過程で困窮し、命を落とすというような被害(復興災害)を生んではならない。どの被災地でも、生き残った被災者がすべて速やかに生活を再建することが、復興プロセス全体を通じる第一義的課題である。そのために必要な手立てを、国、全国の地方自治体、そしてボランティア組織が協同し、緊急にスピード感をもって、かつ、長期にわたって支援し続けることが求められている。

(2)被災者の立場に立った、住宅を中心とする生活・生業・地域コミュニティの再建こそ真の復興

第二に、復旧・復興にあたっては、阪神・淡路大震災復興事業の反省にたち、「創造的復興」の名の下での国や県からの強引な開発構想や漁港の集約化、農地の広域的集約化など、大手ゼネコンや基礎素材産業、大手外来大企業に利益をもたらすだけの復興ではなく、住民の復興の拠り所となる地域の風土と歴史、個性を大切にし、住民、中小企業経営者、自営業者、農林水産業者の意向に即したかたちで、住宅再建を中心に、生活、生業、雇用、地域コミュニティの再生を一体としてはかるべきである。災害復旧工事や仮設住宅の建設、住宅再建等も、被災地域内の企業や住民の事業・所得機会と結合するようにすすめ、地域循環型経済の再構築を図るべきである。

太平洋岸の津波被害地域では、安全性確保を考慮したうえで、住民の意向を最大限に尊重し、住宅、事業所、港湾施設、公共施設等の配置を、個々の地域ごとに検討していくべきであり、国や県が一律的に「高所移転」や「港湾の集約化」、「農地の集約・広域化」を押し付けるべきではない。

また、住宅再建資金については、阪神・淡路大震災以来、被災住民団体の運動により「被災者生活再建支援法」が制定され、住宅本体の再建資金への補助が実現したが、その水準は依然低く、実態に即した再建補助の実現が求められる。個人住宅の修理、補修、地盤補強のための支援を拡充し、高齢者、低所得者向けに、住み続けることができる復興公営住宅の整備を、コミュニティ単位で住民の合意を得ながらすすめ、あらゆる人々にとって生活再建の礎石となる住宅を確保、再建すべきである。

(3)震災復興の要となる被災地域の基礎自治体への支援を抜本的に強化

被災者の支援という側面にもおいても、被災地の復旧・復興計画を、住民の生活再建を第一に考慮し、総合的に策定、実施していく側面においても、基礎自治体は重要な役割を果たす。今回の震災では、三陸海岸地域においても、原発周辺地域に置いても、市役所や役場が、人的にも物理的にも大きな被害をうけた。このため、復旧・復興を行っていくためには、自治体職員の確保、増員及び国及び全国の地方自治体からの専門職員、一般職員の長期派遣という形での支援体制の抜本的強化が必要となっている。被災者の生活再建を含めた復興のために、自治体が被災者を任期付き公務員制度を活用して、雇用することも推進すべきである。

「三位一体の改革」と市町村合併の推進のなかで、基礎自治体および都道府県職員の数は大きく減少しており、派遣する自治体側でも人手不足と超過勤務が恒常化しつつある。公務員の過度な削減が、広域合併自治体での被災者の生活実態の把握と系統的な支援の障害となっているだけでなく、職員を派遣する自治体側での余力も失わせているのである。

にもかかわらず、この震災復興を機に、さらなる市町村合併をすすめるべきであるとか、道州制をすすめるための広域連合をつくるべきだという議論が政府与党および財界から提起されている。より広域的な基礎自治体や広域地方自治体の形成は、広く分散している被災集落・地域の実態把握や一人ひとりの住民の生活再建を遅らせ、さらに「コンパクトシティ」の名による公共投資の「選択と集中」によって自治体内での格差を押し広げるだけである。

しかも、国、道州政府、基礎地方政府の役割分担論を前提とした地方分権改革論や民主党政権の地域主権改革論が、今回のような大震災においては機能麻痺に陥り、国と都道府県、市町村の協力関係が、緊急時の指揮系統の点においても、人的な側面においても、支援物資の広域輸送の点においても、あるいは災害復旧用重機の活用という点においても有効に働かないことが明らかとなった。国は外交・軍事・通商政策を担当し、道州政府は開発行政を担当し、基礎地方政府は住民に近い行政サービスを「役割分担」するという考え方では、大規模災害で多数の人々の生存権が危機に陥った際には、対応できないのである。国も都道府県という広域地方自治体も、憲法25条に基づいて国民や住民の生存権を守ることが第一の責務であり、それを具現化する行政組織と政策手段を有する必要があるといえる。

震災地域においては、生活領域に近い昭和旧村単位において地域自治組織をつくり、それを基礎自治体が支援し、その基礎自治体を、県や国が強く支援する重層的な地方自治構造の形成こそが必要である。どさくさまぎれに、さらなる広域合併や道州制を念頭においた広域連合形成は、復興にとって逆効果であり、断じて推進すべきではない。

(4)原発事故の早期収束と被災地域の再生、原子力依存政策の根本的転換をはかる

福島第一原発の放射能漏れ事故については、国内外の専門機関・研究者・技術者の協力の下に、一日も早く冷却機能を回復するとともに、放射能の拡散を防止することが求められる。それまでに環境に放出される放射性物質の量を極力抑制するとともに、放射性物質のモニタリングポストを拡充し、とくに大気、水、土地、農畜産物の安全性をめぐる情報については、国と地方自治体、専門機関が協力して、正しい情報を系統的に公開する。原発周辺の避難地域の住民については、国と電力会社の責任において、避難生活を手厚く支援するととともに、経営者や従業員、農家・漁家の営業補償・雇用補償を十分に行われなければならない。また、風評被害が広がっている地域の農林水産業や工業関係者についても、国と電力会社による補償を確実に実施する必要がある。

放射能汚染の懸念が払しょくされた地域から、住民の生活と地域社会の再建を図るために、原発に依存しない地域産業づくりを、基礎自治体が住民とともに策定するよう、国や県は支援するべきである。福島第一原発の廃炉に当たっては、地域住民、作業従事者の健康と安全を最優先に作業を進めることが求められる。同時に、国は原発推進政策を転換し、再生可能エネルギーを重視し、小規模分散型のエネルギー生産の奨励を、ドイツのように地方自治体による買い取り保証政策等によって実施し、地方における雇用創出や地域資源・エネルギーの域内循環とも結合していくことが求められる。

Ⅲ具体的提言

(1)避難生活・仮設住宅

1)避難生活
  • ①支援物資、ボランティアの派遣において、「避難所格差」が生じており、あらゆる被災地と避難所に対して、食事・水・燃料等の支援物資の搬送体制を至急確立する。
  • ②避難生活が長期化するなかで、高齢者を中心に健康を害する被災者が増えており、衛生問題も深刻である。避難所における給食サービス、入浴、心身両面の健康管理等のための職員・医師・専門職員等の配置を、きめ細かく行う。
  • ③避難所生活が長期に及ぶ可能性があり、適切なリーダーやボランティアの配置と、地域コミュニティの維持につとめる。
  • ④原発周辺地域を中心に県外避難者が多数生まれている。補償や各種支援制度、仮設住宅、復興に関わる情報が県外避難者にも確実に届くよう、避難住民の台帳を作成し、避難先自治体との連携を強める。
  • ⑤公営住宅やUR住宅、社宅等の空家・空き部屋を活用し、県外避難者の受け入れを積極的にすすめる。そのために、公営住宅等に関わる廃止・除却施策を見直す。
2)仮設居住
  • ①災害救助法に基づく応急仮設住宅を速やかに建設する。仮設住宅は、できるだけ従前居住地域に近く、安全な場所に建設し、集落ごとなどコミュニティを保持することを重視する。
  • ②民間所有の遊休地をふくむ用地取得に全力をつくし、建設にあたっては、原材料や雇用の調達を通して地域経済効果が高い方法を追求する。
  • ③仮設住宅団地には、医療機関や生活支援施設、福祉施設、集会施設、小売店等も配置し、歩いて動ける範囲で人間らしい暮らしができるようにする。
  • ④高齢者や病弱者が多い地域では「ケアつき仮設住宅」を導入したり、仮設住宅の水道光熱費が負担できない世帯には減免制度など特別な措置を講じる。また、仮設住宅での「孤独死」がないよう、行政とコミュニティが協力したケアを重視する。
  • ⑤仮設住宅の管理責任を明確にするとともに、入居者自治組織の育成、集会所・事務室の設置を行う。
  • ⑥自力で、従前居住地において仮設住宅を建設する被災者にも、住宅建設(改修)補助金制度を拡充し、資金的支援を行うとともに地域経済振興に結び付ける。
  • (2)住宅復興・地域の復興

    1)住宅復興
    • ①住宅復興の基本施策となる災害公営住宅は、家屋・財産を失った被災者や低所得の被災者向けに、なるべく従前居住地域に近い、安全な場所で、地域コミュニティを維持しながら暮らせるように建設、入居を行うようにする。
    • ②災害公営住宅は、大規模な集合住宅ではなく、芦屋市若宮地区や山古志地区で建設されたような小規模、低層の住棟で、地域経済効果が大きな建築様式・公契約方式を重視すべきである。
    • ③民間住宅やUR住宅を借り上げて公営住宅として賃貸する場合は、契約期間満了にともなって被災者を追い出すことのないよう、通常の公営住宅と同等の扱いとすべきである。
    • ④被災者が自力で住宅再建する場合、現状の「被災者生活再建支援法」では全壊世帯に300万円を支援することになっている。だが、これでは不足する場合が多く、半壊世帯には適用されないという限界がある。国による支援の拡充、支援金の引き上げとともに、能登半島震災の際に石川県が創設したふるさと型住宅への支援金加算など、地方自治体による上乗せ支援金の充実が求められる。また、半壊や放射能汚染による住宅被害に対する独自の支援制度の創設も必要である。
    • ⑤自力再建支援のために、支援金支給と同時に、ローコストの住宅建設を促進することも重要である。中越沖地震の際には、柏崎市では㎡当たり10万円で住宅供給がなされ、少なくない被災者が救われた。地元建設業者と自治体との協同によって、地域経済にも大きな効果が期待できる。
    2)地域の復興
    • ①復旧が遅れている電気、水道、ガス、通信等のライフラインの整備を一刻も早くすすめる。
    • ②津波災害や原発災害を受けた地域では、市街地や集落の再建を、従前居住地で行うことができない地域も少なからずあると考えられる。その場合、どのような選択をするかは、あくまでも住民の意思と合意を尊重して、決定する。
    • ③移転の場合には、全部移転や部分移転、遠距離の移転、近距離の移転など、さまざまな類型による得失を、過去の経験(奥尻、玄海島、中越)に基づき検討し、個々の地域の実情に合わせた方法を住民が選択できるようにする。また、移転にともなう支援策も、国、地方自治体によって講じる。
    • ④従前居住地での再建の場合には、水没地や陥没地の土地・建物の資産価値を適切に評価したうえで、公的買い取りによって、住宅・市街地再建の財源とするなど、独自の法制度の整備が必要である。同時に、海岸部での安全確保のために、避難施設の整備や避難路の確保に対して特に配慮すべきである。

    (3)生活保障・雇用保障と産業の復旧・復興

    1)地域住民の生活再建を何よりも重視し、優先する
    • ①当面の生活支援と個人補償の抜本的拡充を図る。とくに原発事故被災地域と風評被害地域には、国と電力会社が責任をもって、速やかに補償と支援策を講じる。
    • ②地域住民、とくに子どもの健康保持、高齢者ケア、さらに精神的ケアなどの体制を整える。
    • ③学校など教育施設の復旧、代替施設の確保などを急ぎ、児童・生徒の学習の場を早急に確保する。
    • ④復旧・復興過程で懸念される住民の粉じんやアスベスト等による健康被害を防ぐために万全の措置をとる。
    • ⑤被災地における保健・医療・福祉の一貫システムの早期確立を図る
    2)被災地住民の生業と雇用の再建、コミュニティの再生のための支援制度を整備する
    • ①被災地域の産業の担い手は、圧倒的に中小企業、農家、漁家であり、その事業再開に向けて、生産手段や雇用維持に対して、国の責任で必要な補助金、特別融資制度を拡充する。
    • ②風評被害、「計画停電」など、震災の間接的影響も含めて、失業・休業等で収入を失った人々に対する失業給付や雇用保障の体制を整備する。
    • ③被災者である経営者、従業者の 税や社会保険料の減免制度の新設、拡充、整備を図る。また、住宅・事業所の再建にあたって「二重ローン負担」を軽減するよう、金融機関と連携して特別の措置をとる。
    • ④震災復興を口実にした大型開発の推進をやめ、地域産業・地場産業、農林漁業の再建と振興を基本に産業の復興、再生を図る。
    • ⑤地域住民の要求・要望を最大限尊重して、地域の農林漁業の復興、再生に必要なインフラの整備を進める。その際に、安易な「集約化」「効率化」の押し付けは行わない。
    3)エネルギー政策の抜本的な見直し
    • ①福島第一原発の放射能漏れ事故を、国内外のあらゆる専門家と技術を合わせて、早急に収束させる。事故原発で働く作業員の労働安全衛生を確保し、重層下請構造を是正し、労働条件の改善を図る。
    • ②原発事故に関わる情報を、自主・民主・公開の原則に立って、地域ごとに、正確に、系統的に公表する。
    • ③福島第一原発の廃炉に当たっては、地域住民、作業従事者の健康と安全を最優先に作業を進める。
    • ④老朽化した原子炉の運転を停止するとともに、原発増設計画を廃棄し、原子力依存型のエネルギー政策を根本的に転換する。
    • ⑤原発及び電気事業者に対する、原子力安全委員会及び地方自治体による規制・監視体制を強化する。
    • ⑥地方自治体の原子力防災計画を、今回の原発事故を教訓に抜本的に見直す。
    • ⑦国、地方自治体が主導して、再生可能エネルギーの生産を奨励し、買い取り保証制度をつくり、原発、化石燃料依存からの脱却をはかるとともに、エネルギー生産の分散化と地方における雇用創出を図る。

    (4)復旧・復興の推進体制のあり方

    1)復旧・復興計画の策定に当たっての国と地方との関係
    • ①復旧・復興計画の策定にあたっては、国や県が、被災地域の住民の意向を無視して、国や県が無理やり押し付けてはならず、被災地域住民や現地の基礎自治体の要望・要求を踏まえた計画策定と事業の遂行を保障すべきである。
    • ②市町村復旧復興対策本部の位置づけを明確にすべきである。伝えられているところでは、市町村の対策本部の位置づけがはっきりしていない。被災自治体の体制が十分でないのであれば、地方6団体と国とが連携して、その支援体制を強化すべきである。
    • ③市町村での復旧・復興計画の策定を最優先し、県、国の計画は主として総合調整に当たることを基本とする。
    • ④復旧・復興総合事務局(現地対策本部)を設ける場合、被災県・市町村の関係者の参加を保障し、県・市町村の対策本部からの要望・要求を踏まえ、被災現地の自治体と一体となって復旧・復興を進める体制を確立する。
    2)基礎自治体での住民の要望を踏まえた復旧・復興計画の策定と実施
    • ①基礎自治体の復旧・復興計画に当たっては、地域住民の意向を最大限に尊重しながら策定し、その実施をはかる。
    • ②地域住民の意向を反映するための、恒常的な住民参加の仕組みを工夫する。
    • ③復旧・復興計画の策定は、原則として住民の参加と合意に基づく積み上げ方式により行う。
    • ④復興計画の策定にあたっては、「避難所→仮設住宅→公営住宅・自力住宅再建」という居住環境の中長期的な整備プロセスの展望を示すようにし、住民の安心を取り戻す。
    • ⑤国と県は、基礎自治体の復興業務を支援するために、専門職員や計画策定・推進のアドバイザーの派遣を行う。
    3)被災自治体の組織再建・拡充と自治体間連携の強化
    • ①被災した基礎自治体の業務を回復するために、職員の拡充、自治体職員OBの任用、他市町村・、都道府県からの長期的な職員派遣を強化する。また、被災者を任期付き公務員制度を活用して直接雇用する。国は、役場ごと避難している自治体に対して特別支援を行う。
    • ②国は、職員を派遣する基礎自治体への財政的支援を行う(派遣費用の全額国庫負担あるいは交付税措置)。
    • ③震災を理由にした市町村合併を推進する動きがあるが、これは本末転倒であり、むしろ広域合併自治体周辺部での地域自治組織の創出や被災地の基礎自治体間の連携を強め、住民の生活領域からの重層的な自治構造の再構築をはかるべきである。また、震災を口実にした道州制導入の動きも、被災地や被災住民のきめ細かな復興という点に照らして、全く逆の方向を向いているといわなければならない。
    4)広域連携のあり方
    • ①被災県の広域連携組織を作り、連携して復旧・復興計画の策定・事業の推進に当たるとともに、全国の自治体からの支援の受け皿とする。
    • ②復旧・復興総合事務局(現地対策本部)は被災県の広域連携組織による復旧復興事業の事務局としての役割を果たす。
    • ③伝えられる道州制ねらいの広域連合の構想は、屋上屋を架するものであり、導入すべきではない。むしろ、県のレベルで対応できない課題については、水平的広域連携及び国の地方出先機関との垂直的連携を強化することで対応すべきである。

    (5)復旧・復興財政のあり方

    1)復旧・復興財政の規模

    復旧・復興財政の規模については、上記に示した被災地の復旧・復興を実現するために十分な財政規模と財源を確保することを基本とする。今後、被害の直接・間接の影響や原発事故の影響などによって必要な財政規模が増える可能性があり、財政規模について適宜見直しを行う。

    2)被災自治体への財政支援制度の新設や大幅な拡充
    • ①復旧復興のための時限的な新しい国庫補助制度や一括交付金制度を新設する。
    • ②被災自治体の地方債発行に対する国の支援を強化する。
    • ③相当規模の「大震災復旧復興基金」を設立し、被災自治体・住民への支援を行う。
    • ④被災自治体への地方交付税の大幅な加算。
    3)復旧復興財政計画と財源の確保
    • ①2011年度予算を大幅に組み替える大規模補正予算を数次にわたり組む。最低5年間の「集中復旧復興期間」の中期的な復旧・復興のための財政計画を明らかにする。
    • ②臨時的に大幅な財源を確保するためには国債発行が必要となるが、「大震災復旧復興国債」として他の国債と区別して発行する。
    • ③増税による場合も、法人税の5%引き下げを中止したうえで、時限的な「復旧復興支援税」を国民の納得を得て実行する。その際、社会的弱者への負担増となる消費税増税は厳につつしみ、所得税の累進の強化、資産課税の強化など、担税力に応じた負担を求める。
    • 2011年4月22日
    • 書き下ろし
    岡田 知弘

    1954年富山県生まれ。京都大学大学院経経済学博士後期課程退学。岐阜経済大学講師を経て2019年3月まで京都大学大学院経済学研究科教授。専攻は地域経済学、農業経済学。主な著書に『地域づくりの経済学入門 増補改訂版』『公共サービスの産業化と地方自治』(共に自治体研究社)など多数。

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