5月17日の「都構想」住民投票を前にして、大阪市をなくす「都構想」に反対し、住民自治を守ろうと広範な運動の共同が広がっています。
はじめに
昨年、大阪市議会で、自民、公明、共産、民主のすべての野党会派の反対で大阪維新の会の提案した「大阪都構想」は否決されましたが、昨年末、一挙に情勢が変化し、今年5月17日、「大阪都構想」の是非を問う住民投票が行われることになりました。
この問題をめぐっては、政党や政治団体だけではなく、さまざまな市民団体があちこちで声を上げて、従来には見られなかった新たな運動と連携が始まっています。
「大阪市をよくする会」、「明るい民主大阪府政をつくる会」
維新政治と正面から対峙してきた「大阪市をよくする会」、「明るい民主大阪府政をつくる会」の2つの団体は、今年1月から、「『都構想』百害あって一利なし」と市内100カ所での街頭宣伝活動を行い、また、維新政治と「都構想」批判の明るい会のチラシを市内全戸に配布しています。2月には、この2団体によって、「都構想」批判のパンフレット「大阪都」Q&Aが発行されました。このパンフレットを活用して「都構想」批判の学習会が各地で行われ始め、学習会の講師を養成するための講座を開催し、約240人が参加しました。よくする会は、毎週1回のペースで機関紙を発行しています。
大阪市対策連絡会議(市対連)、府民要求連絡会(府民連)の2団体は、良くする会、明るい会に対応する労働組合や民主団体で構成する運動組織です。それぞれ、大阪市や大阪府に対する要求実現のための活動をしてきた団体ですが、2月13日の大阪市議会開会日に、大阪市役所周辺で、「『大阪都』NO!カジノもリニアもいらん!くらし優先の府政・大阪市政を実現しよう」と市役所前でランチタイム集会を開催し、約200人が参加しました。
3月19日、「明るい会」と「よくする会」が呼びかけた、「大阪市なくなる!くらしこわれる!『都構想』ストップ!維新政治ノー大阪府民集会」には、会場定員800人を超える市民が集まり、『都構想』反対の熱気あふれる集会となりました。この集会では、冨田宏治さん(関西学院大学法学部教授)が講演し、都構想住民投票について、橋下・維新のポピュリズムが、非常に危険な方向に市民をリードしていることを強調しました。また、各界から、住之江区医師会会長の松島三夫さん、元大阪府小学校校長会の西林幸三郎さん、「あかん」カジノ女性アピール呼びかけ人の佐々木唯さん、喜入肇さん(東京自治体労働組合総連合書記長)、北山良三さん(日本共産党大阪市会議員団団長)、旭堂小南陵さん(府民のちから2015)らの発言がありました。
「府民のちから2015」
2月6日、「府民のちから2015」が、「躍進のつどい」を開き、各界から約500人が参加しています。自民、民主、共産、社民の各党国会議員や府連代表、府内自治体首長、議員らが多数参加し、反維新の決起集会のような集いになっています。「府民のちから2015」は、もともとは前回の大阪府知事・大阪市長同時選挙で平松邦夫氏を擁立した「元気ネット」の後継組織として、昨年12月20日、「学者・文化人、経済界・労働界、NPO、社会的企業家が賛同し、府民・市民と自治体首長・議員を広く結びつける」との趣旨で政治団体を結成したものです。今回の統一地方選でも自民党や民主党候補者を推薦しています。
「府民のちから2015」の「躍進のつどい」には、共産党からも国会議員や地方議員が出席して、共産党の辰巳孝太郎参議院議員が挨拶をしています。このようなことは以前では考えられないことです。反維新政治、「都構想」住民投票に対する共同の広がりを示しています。
「大阪市がなくなるで!えらいこっちゃの会」
2月20日には、「大阪市がなくなるで!えらいこっちゃの会」が、約60人が参加して結成されました。この会は、「市民の為の行政を求める会」や「市役所見張り番」、「世直しオンブズマン」として、住民監査請求や住民訴訟など、大阪市政を監視してきたグループが中心となって結成されたものですが、一般市民も参加して、活発な活動を始めています。大阪弁護士会館で開催された結成総会には、自民党や共産党など各政党の市会議員も激励に駆けつけ、マスコミにも紹介されました。結成総会で、協定書が承認される市議会閉会日に市役所周辺での集会や議会傍聴などの行動を呼びかけ、5月10日、16日に、100万人の市民行動を提起しています。
3月13日、大阪市議会本会議で協定書が維新・公明の賛成多数で可決されましたが、この日、「大阪市がなくなるで!えらいこっちゃの会」が呼びかけた大阪市役所前での緊急抗議集会には約80人がつめかけました。この抗議集会では、「民意の声」の代表や「大阪市なくさんといてよ!市民ネットワーク」のメンバーらも連帯の挨拶をするなど市民レベルでの連携も進んでいます。
「大阪市なくさんといてよ!市民ネットワーク」
3月9日、「大阪市なくさんといてよ!市民ネットワーク」が、スタート集会を行い、約100人が参加しました。このグループには、わたしも関与しています。昨年、約800人が参加して「安倍政権・橋下維新はもうゴメン!10・8集会」を成功させたグループが、引き続き、大阪市の解体・消滅という維新の「大阪都構想」に反対の声をあげようとゆるやかなネットワークを発足させたものです。
橋下・維新府政・市政のもとで、国際児童文学館の廃止をはじめとする文化行政予算の削減、日の丸・君が代条例、教育基本条例、職員基本条例などによる上からの強権的な専制政治、組合事務所明渡し、思想良心の自由を侵害するアンケート調査、現在大手前にある府庁本庁舎を湾岸部の咲洲にあるワールド・トレード・センタービル(WTCビル)に強引に移転しようと、無理やり購入したことや福祉・医療制度の後退、地下鉄や市バスの高齢者無料パスの廃止など、憲法無視、住民無視の政治が続いてきました。
このような市民サービス切り捨ての強権的な橋下・維新政治に対して、地域の病院廃止に反対する住民グループ、大阪市立大学と府立大学の統合に反対する大学関係者のグループ、WTC購入は公金の違法支出だと裁判を提訴しているグループ、国際児童文学館の廃止に反対しているグループ、日の丸・君が代不起立で処分撤回を闘っているグループ、思想アンケートが憲法違反と裁判しているグループ、地下鉄民営化に反対の運動をしているグループなど(ここでは全てを記載することは紙面の都合上しませんが)、さまざまなグループが活動してきました。このようなグループが一堂に会して10・8集会が取り組まれましたが、「都構想」住民投票という新たな情勢のもとで、ネットワークを再開させようということになりました。このグループは、もっぱらホームページとフェイスブックでの発信に力を入れ、他団体の取り組みを紹介して参加を呼びかけるなどしています。また、ユニークなイラストの名刺サイズのチラシやステッカー、プラカードなども普及しています。「都構想」に関する講演動画や資料をはじめ、各団体の取り組み紹介、リンクなどが充実しています。ホームページは、「大阪市なくさんといてよ」で検索できます。
「民意の声」
3月10日、大阪の経済人が「都構想」に反対!と声をあげ、「民意の声」が旗揚げしました。決起集会には約100人が集まり、大阪市議会の自民、共産、民主系の3会派の議員、連携する市民団体のメンバーなどが参加しました。会の代表は、株式会社の社長浅野秀弥氏ですが、決起集会で、「橋下氏を府知事選挙に引っ張り出した張本人の一人で反省している」と発言しています。
また、同会のホームページでは、「大阪では一人の独裁者のために7年間も無意味な混乱に振り回され、本当に解決すべき問題は放置されたままになった。彼個人の人気に乗じた勢力争いが繰り広げられ、本来の民主主義に則った政策論議が踏みにじられてきた。彼と、彼の率いる地域政党は、多くの詭(き)弁を用いて大衆を煽動し正当な批判を封じる一方で、多くの不祥事や虚偽の説明を繰り返してきた。」と記載されています。
「SADL(青年グループ)」
3月14日、「住民投票で大阪市解体にNOを」と青年グループが、大阪ナンバ周辺の若者が多く集まる地域で、デモを組織しました。SADL(Small Axe for Democracy and Life 民主主義と生活のための小さな斧)というグループですが、青年層を中心に「都構想」反対の声を上げています。難波(なんば)の元町中公園に集まった約50人のデモで出発しましたが、途中から続々と参加者が増えて、デモ到着地点では約120人に膨れ上がりました。
「大阪市分割解体を考える市民の会」
3月21日、大阪市分割解体を考える市民の会が主催する「どうしよう?大阪市がなくなったら、都構想・住民投票を考える市民大集合、市民による市民のための1000人大集会」が開催されました。この集会は、大阪府庁の近くにあるビルのオーナーがまったく一市民の立場で呼びかけた集会ですが、会場は1000人が入る中之島中央公会堂です。実際に1000人近い市民が集まりました。集会では「都構想の3つのキモと結果としての人の暮らし」と題してフリージャーナリストの吉富有治氏が講演し、笑福亭竹林さんが落語を披露しました。この集会には一般市民のほか、自民党、民主党系、共産党の府会議員や市会議員が多数参加していたことも特徴です。市民と議員との連携というのが、「都構想」反対の運動での大きな特徴です。
なお、この集会では、事前の告知では、基調講演を内閣官房参与で京都大学教授の藤井聡さんが行う予定でしたが、急遽、藤井氏の講演が中止となり、中止の理由について、同氏のビデオメッセージが流されました。
「都構想」反対のロゴマーク
今年2月頃から「都構想」反対のロゴマークが、ネット上やチラシで登場してきました。作成主体が特定されずに登場してきましたが、「都構想」反対のシンボルロゴとして、野党会派や市民運動団体も使用するようになって、普及し始めています。
「都構想」反対!御堂筋パレード
3月28日、「民意の声」と「えらいこっちゃの会」が呼びかけた集会とパレードには、約1000人の市民が参加しました。集会では自民・民主・共産の各党の代表があいさつし、市民といっしょに各政党ののぼりを掲げて中之島から難波までパレードしました。このような共同の行動は初めてのことです。
大阪自治体問題研究所の活動
大阪自治体問題研究所は、昨年来、「大阪都構想」問題を取り上げ、各行政区の関係者と協力して区ごとに自治体学校を草の根的に実施してきました。これまで都島区、福島区、住吉区、中央区などで開催されてきましたが、3月1日には中央区で「おおさか・中央区第2回自治体学校実行委員会」の主催で「都構想」問題の学習会を開催し100人以上が参加しました。学習会では、森裕之さん(大阪自治体問題研究所副理事長)が講演しました。
大阪維新は、昨年、議会で否決された「都構想」を強行突破しようとして、「都構想」実現のための「住民投票条例」制定の直接請求署名運動を始めました。大阪自治体問題研究所は、このような大阪維新の条例制定の直接請求運動に対抗するため、「雇用・くらし・教育の再生――大阪都構想・カジノからの転換」というブックレットを昨年12月に出版していました。これは中山徹氏(大阪自治体問題研究所理事長)を編者として出版されたものですが、時期的にはグッドタイミングで、また、30冊以上購入すれば講師料無料という宣伝で、草の根の学習会で飛ぶように普及しました。
さらに、大阪自治体問題研究所として、『「大阪市解体」それでいいのですか? 大阪都構想 批判と対策』いうブックレットを緊急出版して、現在、急速に普及しています。
自由で開かれた活発な住民投票運動を
大阪市では、今回のような住民投票ははじめての経験となります。「住民投票運動」はどこまで許されるのか、投票の方式はどうなるのか、など未知な世界でのはじめての運動です。「大都市地域特別区設置法」には、住民投票運動については定めがなく、政令のなかで、公職選挙法の規定が準用され、そこで選挙運動に関する規制の一部が準用されるという仕組みになっています。これによりますと、公務員や教員の運動制限など一部は準用されていますが、文書配布などほとんどの運動は自由にできることになっています。
但し、集会の会場が公共の建物を使用できないとか隊列を組んで気勢をあげる行為すなわちデモでのシュプレヒコールはダメなど、想定外の障害もあります。これらは公選法に定められており、今回の住民投票運動に対しても適用されるのです。前述しました「民意の声」と「大阪市がなくなるで!えらいこっちゃの会」が共同主催した3月28日のデモで、主催者は、シュプレヒコールはダメなので、どのようにするか議論し、歌を歌おうなどという議論をしました。
新聞やテレビなどのマスコミの報道はどうでしょうか。放送法四条の関係から、中立公正な報道姿勢を貫かねばならないことはいうまでもありませんが、これまでのところ、住民投票に対する市民運動はほとんど報道されていないという状況です。「賛成」・「反対」の運動を報道することを意図的に避けていると思います。
ある市民団体が、都構想反対の意見広告を出すことを準備してきましたが、新聞社の広告担当者から、内容面、表現面でも厳しいチェックが入り、何度も修正させられるという「検閲」のようなこともなされています。
前述の「大阪市分割解体を考える市民の会」の集会で、基調講演を予定していた藤井聡氏の直前のキャンセルは、特定政治勢力による圧力が背景にあったと言われています。
藤井氏は、インターネットや集会などで「都構想」について、ご自身の見解を発表してきた学者ですが、 橋下氏は、2年以上も前に藤井氏がインターネット動画で、橋下氏の政治家としての資質を風刺して、大阪ミナミの道頓堀のヘドロの比喩を用いながら描写したことに対して、ツイッター上で、「バカな学者の典型」などと執拗に藤井氏を攻撃しました。さらに、橋下氏は京都大学総長宛に藤井氏の処分を求める趣旨の申し入れを行い、総長が学外での個人の表現の自由の問題だと回答したところ、京大の対応に、維新の議員が国会で質問をしています。さらに、維新の党幹事長名で、放送局各位宛に、藤井氏を名指しして、住民投票が終了するまで報道姿勢に留意してほしいと圧力をかけました。
政治的な圧力やマスコミの自粛というのは、自由に賛否に関する意見を闘わせ、大阪市の未来を決定するという開かれた住民投票において、あってはならないことです。
住民自治を守る壮大な運動を
現状、多くの大阪市民には、「都構想」についての十分な情報が提供されていないと思います。そのような状況のもとで「賛成」と考えている市民は、「二重行政がなくなって無駄がなくなる」、「都になれば、東京都のように経済がよくなる」と期待しています。しかし、政令指定都市である大阪市が消滅し、5つの特別区になるということはどのような意味を持つのか、市民のくらしはどうなるのか、について十分な情報にもとづく「賛成」であるとはとても考えられません。橋下氏や維新の人気投票となってしまえば、「賛成」派は投票所に足を運ぶでしょうが、よくわからないという人は、わざわざ投票所には行かないでしょう。
特別区設置のための今回の住民投票には、投票率の最低限は定められていないので、低投票率でも成立します。橋下氏や維新の人気投票にさせない取り組みが求められます。
住民自治の担い手はまさに市民ひとりひとりです。「大阪都構想」の危険な内容を広げ、広範な市民が声をあげ、政党や議員とともに、大阪市の住民自治を守ろうという草の根の運動が、いま、求められています。
「大阪都構想」は大阪市民の住民自治だけの問題ではありません。大阪府民さらには全国民の住民自治の問題です。憲法と地方自治を守るために、全国からのご支援をお願いしたいと思います。