はじめに
総務省は2014年4月、地方自治体に対して公共施設などの総合的、計画的な管理を推進するため、速やかに「公共施設等総合管理計画」の策定に取り組むよう要請しました。その趣旨は「地方公共団体においては、厳しい財政状況が続く中で、今後、人口減少等により公共施設等の利用需要が変化していくことが予想されることを踏まえ、早急に公共施設等の全体の状況を把握し、長期的な視点をもって、更新・統廃合・長寿命化などを計画的に行うことにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、公共施設等の最適な配置を実現することが必要となっています」(総務省「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針について」)というものです。
これを受けて、各自治体では公共施設等総合管理計画(以下「計画」)づくりが急ピッチで進められています。すでに2015年度末までに30道府県、15指定都市、396市区町村でつくられ、2016年度末にはほぼ全自治体(99.4%)で策定されます。この計画は、これまでのような個別施設の更新、統廃合にとどまらず、公共施設全体を中長期的な視野に立って全面的に見直し、国主導で一元的に管理、再編していくものです。
いま、なぜ、公共施設の統廃合・再編か
公共施設の統廃合・再編の要請の基本的な要因として、次の3点が提起されています。
1つは、公共施設の老朽化です。自治体の公共施設は、高度経済成長期以降の1970年代から1980年代に急速に増えました。通常、公共施設は30年で大規模改修、60年程度で廃止されます。そのため現在ある施設の多くは、今後、大規模改修に加え、更新も必要になり、経費が急増します。
公共施設でも道路や橋梁(りょう)、上下水道などのインフラ施設は、事実上廃止は困難であり、維持管理や更新に向けた効率的な方法や財源確保が課題となりますが、いわゆる「ハコモノ」といわれる庁舎や学校、公営住宅、図書館、公民館、福祉施設、文化・芸術・スポーツ施設などは、すべて統廃合・再編の対象になります。
総務省が2013年に実施した自治体の「公共施設等の解体撤去事業に関する調査」によると、解体撤去の対象施設は1万2251件、その費用は約4040億円にもなります。施設別では、庁舎等、公営住宅、教育関連施設、社会福祉関係施設が多く、解体撤去理由では廃止が65%、統合が15%、移転が14%となっています。跡地利用は全体の72%が未定です。
2つ目は、自治体財政の悪化です。この間も厳しい財政運営が強いられてきましたが、いまも自治体は少子高齢化、貧困化の進展で社会保障関連費が急増し、財政が逼迫(ひっぱく)しています。ところが国は積極的な財政支援や制度改善はせず、逆に地方にさらなる行政改革や経費削減を求めています。そのため自治体では単独事業、特に経費が急増する公共施設の更新・改修費が経費削減の標的になっています。
3つ目は、人口減少・人口構成などの変容に伴う住民要求(ニーズ)の変化です。今後、少子化がさらに進み、子育て世代が減少すれば、市区町村の抱える公共施設の約4割を占める小中学校の再編が現実化します。実際に公立小中学校は、2000年代に入って毎年400校近くが廃校になっており、今後も文部科学省が58年ぶりに改訂した「公立小中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」と相まって廃校に拍車がかかっています。しかし、学校は地域・コミュニティーの中で重要な位置を占め、本来の役割に加えて、住民の絆、連帯の基礎になっています。安易な統廃合は子育て世代の流出、地域の衰退につながりかねず、慎重な対応が求められます。
計画の策定・推進に向けた政府の対応
総務省は、計画の策定に当たって、各自治体に①所有する公共施設等の現況及び将来の見通し、②総人口や年代別人口推移を踏まえた今後の見通し、③公共施設等の維持管理、修繕、更新等に係る中長期的な経費及びこれらの経費に充当可能な財源の見込みを明らかにすること、④計画の進捗(しんちょく)状況に応じて順次計画をバージョンアップすることを求めています。
そのため、政府は計画策定経費として2014年度から3年間、特別交付税を措置し、計画の推進に向けては、①公共施設等の除去(解体撤去・原状回復)費、②公共施設の集約化・複合化(延床面積減少)に係る地方財政措置(公共施設等最適化事業債)、③公共施設の転用事業に係る地方債措置(地域活性化事業債の拡充)を講じました。
各自治体の計画づくりと実施方針
では、実際には各自治体の計画づくりはどのように推進されているのか。ここでは森裕之立命館大学教授と共同で訪問調査した秦野(はだの)市、さいたま市、相模原(さがみはら)市について、各市の公共施設白書、関連資料、追加調査を踏まえて、その内容と特徴を簡潔に紹介します。
(1)秦野市(神奈川県)
同市は2008年に企画総務部内に公共施設再配置計画担当を配置し、2009年に公共施設白書、2010年に再配置方針を策定するなど、早い時期から公共施設の統廃合・再編の検討を行ってきました。公共施設白書は2013年、2015年に改訂版が出されています。
市の公共施設数は2011年時点466で、延床面積ベースでみると学校施設が60%、生涯学習施設が17.2%で、教育関係施設が約8割を占めています。また、公共施設の52%は築30年以上です。
2011年度の公共施設管理運営費は約61億円で、このうち一般会計分は約55億円、一般会計歳出総額の12%を占めています。施設別では学校教育施設が38.4%、生涯学習施設が19.4%で、教育関連施設で全体の約6割になります。
同白書(平成24年度改定版)では、現在の公共施設の総量を維持し、耐用年数に応じて更新(建替え)を行うと2011年度以降40年の間で5年ごとに約10億円から200億円の建設事業費が必要になり、かつ改修費も中学校が2011年度から5年間がピークになるため年間7億円以上の費用が見込まれるなど、40年間の総事業費は758億円になると試算されています。
そのため、秦野市は2011年度から2050年度までの40年間に公共施設を31%削減するとの目標を設定しました。同時に、これは更新・改修費用であり、さらに管理・運営費が加わるため、公共施設それ自体の見直しも欠かせないとして、施設の集約化・複合化等の再配置計画も提起しています。
また、公共施設のあり方に関して4つの基本方針、①原則新規施設はつくらない。つくる場合は、更新予定施設の更新を同面積(コスト)だけやめる、②現在の施設の更新はできる限り機能を維持する方策を講じながら、優先順位をつけた上で大幅に圧縮する、③優先度の低い施設はすべて統廃合の対象とし、跡地は賃貸・売却により優先施設の整備に充てる、④公共施設は一元的なマネジメントを行うことを打ち出しました。
義務教育、子育て支援、行政事務スペースは「最優先」とし、財源の裏付けを得たうえでアンケートなど客観的評価に基づいて決定した施設は「優先」としています。学校施設を重視するのは、それが昭和の合併までの旧村のコミュニティーの中心であり、それを維持するためです。
実施に向けては、①共用面積を削減するため複合化を重視し、②跡地利用では賃貸売却を基本にしているが、高齢化社会に向けて利便性のいい場所に福祉施設が確保できるよう政策的な用地も確保していく、③今後10年間は更新・大規模改修施設が比較的少ない時期であり、住民の意識改革、合意形成、自治会対応を重視していきたいと述べています。
(2)さいたま市(埼玉県)
同市は2012年6月に公共施設マネジメント計画を策定し、それを踏まえて2014年3月に第1次アクションプランをつくり、具体化を図っています。2016年度中に「ハコモノ三原則」に基づいて施設分野別の個別方針、工程表、対策費用見積りなどの策定を目指しています。
ハコモノ三原則とは、①新規整備は原則として行わない(総量規制の範囲内で行う)、②施設の更新(建替)は複合施設とする、③施設総量(総床面積)を縮減する(60年間で15%程度)というものです。③については、予防保全への転換により20年間の長寿命化を推進することで取り組むとしています。併せて効率化も重視し、極力集約化、複合化を進めるとしています。
改修・更新にかかる将来コスト試算(一般財源分)では、2011年度予算の約128億円に対して、今後40年間(2011~2050年度)は、年平均で約283億円(約2.2倍)が必要になり、市は施設の保全(長寿命化)、更新(建替)の資金を確保していくため基金を設置しました。
個別施設計画の策定は、まだ先のことですが、それができないと総合計画はつくれない、財政との連動もできないとして、総合計画と個別計画は同時並行で進めていく方針です。具体化に当たっては、民間手法を積極的に活用していくためPFI活用指針を改定し(2015年7月)、PFIに限らず広く施設整備に係るPPP手法を導入するとしています。
跡地利用では、それを安易に売却しない、民間に売ればマンションなどが建ち市民から苦情・反発が出る、集約化・複合化で不便になる人たちも出る、壊さずほかの機能を持つ施設を入れるなど、いろいろな要素を考慮して対応する考えです。
市民との情報共有・合意形成では、この間、出前説明会、シンポジウム、市民ワークショップを行っており、2014年度の市民ワークショップは、市立与野(よの)本町(ほんまち)小学校と周辺公共施設の複合化について合意形成を行い、既に施設配置案のまとめが出されています。現在、この案件は市の内部で検討されており、最終的には議会に報告し、その上で実行段階に入ることになりますが、設置手法もその中で検討されるため、民間手法(PPP/PFI)を活用するとなれば、2016年度はそれに向けた対応が必要になり開始時期は遅れるとのことでした。この方式では市民ワークショップで提案された施設配置案や意見、提案が生かされるのか、懸念されます。
さいたま市は現在も年間1万人程度人口が増えており、各地域に満遍なく人が住み、小中学校は類似の都市と比べると学区が広いため、学校統廃合はそれほど大きな問題になっていません。
(3)相模原市(神奈川県)
同市は、1954年の市制施行以後、高度経済成長を背景に急速に都市化が進み、1960年代後半以降は全国でもまれに見る人口増となり、2010年には津久井(つくい)郡4町を合併、2016年10月現在人口は72万人を超えています。公共施設は、急激な人口増に対応して1960年代後半から1970年代にかけて集中的に整備され、現在757施設になります。そのうち築30年以上の建物は全体の4割(延床面積)を超えています。そのため、市は2011年に公共施設マネジメント取組方針を策定し、2012年3月に公共施設白書、2013年10月に公共施設の保全・利活用基本指針を公表しました。
市の試算によると、公共施設全体に要する管理運営コストは、年間で686億円(2008~2010年度平均)にもなります。内訳は維持管理費109億円、事業運営費75億円、指定管理料35億円、人件費467億円ですが、人件費には教職員などに係る県負担258億円が含まれており、市の負担は実質的には428億円です。これは同時期の市歳出総額約2300億円の2割近くになります。
これらの施設の改修・更新費は、老朽化などの進展に伴って増大し、ピークとなる2032~2041年度には事業費ベースで年平均230億円、60年平均で平準化しても179億円になります。市は近年の財政状況を勘案すれば、充当可能な財源額は年155億円と設定しており、それを前提にすればピーク時は保有施設の3分の2程度しか改修・更新ができません。
そのため市は、サービス・機能の「必要性」、提供方法の「多様性」、次世代を見据えた時間軸としての「長期性」、全体を見据えた「総合性」を踏まえて、7つの基本方針を設定しました。具体的には、①サービス提供を将来にわたって継続することの妥当性、必要性を検討し、適正化を図る、②施設の機能面を重視した多機能化・複合化を進めることにより、サービス水準を維持しながら、施設総量の削減を図る、③建物を長期にわたって安全・快適な状態に維持し、将来コストの平準化を図るため適切な予防保全を行う、④PPPやPFIなどの民間手法を活用し、効率的・効果的な管理運営を行う、⑤受益と負担の適正化(受益者負担の原則)、サービス提供における市民や地域との協働を推進する、⑥施設の統廃合、再編・再配置などにより発生する未利用資産(土地・建物など)の有効活用を図る、⑦全庁的・総合的な視点から公共施設マネジメントを実施する環境整備を行うというものです。その上で、2015年から30年間で20%の施設(延床面積)の削減を行うとの目標値を設定しています。
今後の取り組みの留意点と課題
以上、トップランナーともいえる秦野市、さいたま市、相模原市の策定状況を概括的に見てきました。また、他の自治体の計画内容を見ても、これは文字通り公共施設の総合的な統廃合・縮小再編計画であり、自治体の多くは削減(数値)目標を設定し、地域の実情を踏まえつつ財政誘導を絡めた政府の方針に沿って実施しています。削減目標は概ね15%~30%程度(延床面積)ですが、その数字の意味合いをきちんと認識しておくことが必要です。
相模原市の公共施設白書は、「施設の床面積で80%まで削減(20%削減)することは、市内のすべての行政系施設と市民文化施設、生涯学習施設に加えスポーツ・レクレーション系施設を廃止することに相当する」と述べており、その意味の重大性がよくわかります。総務省も各地の「先進事例」を喧伝しながら自治体に実施を迫っています。
今日の地域、自治体を取り巻くさまざまな要素を勘案すれば、公共施設の見直しは避けられず、政策的な対応は必要ですが、問題はその中身、進め方です。公共施設は、地域社会やコミュニティーの核をなすもので、住民のライフサイクル全体を通して福祉の増進を図り、社会・経済活動を営む基盤をつくるものです。その意味では自治体の仕事の根幹をなすものです。一律的な総量規制、統廃合・再編ありきでなく、住民の暮らしや地域の実態、個性、将来をよく見据えて住民参加で行うべきです。財政が厳しく、管理経費が大幅に増えることは事実ですが、何に予算を使うのか、自治体の本来的な役割、政策選択も含めて考えるべきです。
森裕之氏は、「公共施設は本来的には住民の共有財産であり、社会経済状況に合わせてそれをどのように活用するかは最終的には住民の判断に委ねられるべき事柄」(森裕之『公共施設の再編を問う』2016年)と指摘し、その具体的、実践的な先進例として、飯田市(長野県)の「地域ごとの下からの(自治)計画づくり」を紹介しています。
内容は、公共施設を全市的施設と地域施設に分類し、後者には地域別検討会議を設置し、そこに市は「公共施設のデータを提供し、市民が主体的にそれらの利用方途を検討する」ものです。実際の検討内容を見ると、民営化や統廃合、複合化・集約化・多機能化が多く、住民、地域は厳しい選択を迫られています。森氏は、政策的な対抗軸として「賢い縮小(スマート・シュリンク)」を提起し、住民の合意、納得、信頼の構築のもとに進めるべきと述べています。詳しくは森裕之前掲書をお読みください。
さて、公共施設の統廃合・再編問題は、計画づくりから実行段階に入ります。基本的な観点を押さえつつ、個別・具体の検討、要求対置、提案が必要です。
まず、地域の実態や人口動態、住民要求(ニーズ)、公共施設の配置状況、サービスの提供実態、満足度、老朽化の程度などを住民・利用者目線で調査・把握し、それに基づいて大規模改修や更新(建替え)、統廃合、施設の複合化・集約化の必要性、それに伴う財政負担、充当財源、除去債や最適化事業債の活用、跡地利用、売却益の運用、基金設置などの必要性を明らかにしていくことが必要です。
具体の取り組みでは、①住民説明会や住民・利用者アンケート、専門家の意見聴取、ワークショップ、地域別住民検討会設置など住民参加を徹底させていくこと、②議会対応も重視し、計画段階、実施段階など重要な節目で議会に報告させ、十分審議し、必要な修正、チェック、歯止めをかけていくこと、③各地の先進事例を調査し、情報交換を行い、取り組みの成果、教訓を交流し、その地域、自治体に即した内容での対置政策を出していくことが重要です。
なお、集約化・複合化した大規模施設の建設・維持管理では、多くの自治体は経費節減と称してPPPやPFI を積極的に導入し、国も「骨太方針2015」でも公共サービスの産業化、公共施設等の整備におけるPPPやPFI実施の原則化を提起しています。実際には高規格・高負担、施設の維持管理・運営面でも課題が多く、破たん事例も各地で報告されており、的確なチェックと歯止めが必要です。
また、公共施設の統廃合・再編問題は、この計画の策定後からのスタートではありません。すでに各自治体、地域では、地方創生総合戦略や市町村合併、公務の市場開放・産業化、公の施設の指定管理者制度など、さまざまな施策や方針、手法に基づいて進められています。こうしたこととの関連もよく見極め、的確に対処していくことが必要です。
参考文献・資料
- さいたま市『さいたま市公共施設マネジメント計画・第1アクションプラン』、2014年
- 相模原市『相模原市公共施設白書』、2012年
- 総務省『公共施設等総合管理計画の策定にあたっての方針について』、2014年
- 角田英昭『公共施設の統廃合・再編問題にどう取り組む』(「公共施設等総合管理計画」学習ブックレット)自治体問題研究所、2016年
- 秦野市『秦野市公共施設白書(平成24年度改訂版)』、2013年
- 森裕之『公共施設の再編を問う』自治体研究社、2016年
- また、2014年6月30日に秦野市課、さいたま市課、相模原市課にヒアリング調査を行った。ここに記して、感謝の意を表します。