【論文】どこを目指す、公共施設等総合管理計画 ―基本方針の検証と本格実施に向けた課題―

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はじめに

総務省は2014年4月、公共施設等の統廃合・再編を本格的に推進するため、各自治体に公共施設等総合管理計画を策定するよう要請し、すでに98%(2017年3月末現在)の自治体で策定されています。この計画は、これまでのような自治体による個別、施設ごとの統廃合、更新にとどまらず、公共施設などを中長期的な視野に立って全面的に見直し、総量削減、経費抑制を前提に国主導で推進していくものです。 

その背景、理由となっているのは、①公共施設の老朽化、改修・更新費用などの増大、②人口減少、少子高齢化に伴う利用需要の変化、③地方財政の悪化であり、その背後には安倍政権の公務・公共サービスの民営化、産業化があります。国は計画の推進に向けて地方にさらなる行政改革、施設再編、経費削減を求め、自治体では経費が急増する公共施設の改修・更新、維持管理費が標的にされています。

なお、この計画は、国のインフラ長寿命化基本計画(2013年11月策定)の地方版行動計画と位置付けられており、国の計画は、①安全で強靭(きょうじん)なインフラシステムを構築する、②総合的なインフラマネジメントを実現しトータルコストの縮減、平準化を図る、③これらを通じてメンテナンス産業を育成するというものです。各省庁もこれを踏まえて所管分野の行動計画を策定しています。

1 策定指針の内容と実施に向けた財政措置

政府は、計画の策定に当たって各自治体に、①所有する公共施設等の現況と将来見通し、②総人口や年代別人口の推移と今後の見通し、③公共施設等の維持管理、修繕、更新等に係る中長期的な経費とそれに充当可能な財源の見込みを明らかにするよう求めています。それは人口減少、充当可能財源等から施設の総量と改修・更新・維持管理費の削減を徹底させるためです。

実施に向けては、政府は①公共施設の解体撤去に係る地方債の特例措置、②集約化・複合化(延床面積減少)に係る地方財政措置、③転用事業に係る地方債措置を講じ、2017年度からは本格推進に向けてさらに長寿命化事業、立地適正化事業、市町村役場機能緊急保全事業、2018年度からユニバーサルデザイン化事業を追加しました。

長寿命化対策は公共施設の法定耐用年数を超えて延伸させる事業、立地適正化対策はコンパクトシティーの形成に向けた長期的なまちづくりの視点に基づく事業、市町村役場機能緊急保全対策は耐震化未実施の市町村役場の建て替え事業で、期限は5年間、地方債の充当率は90%、交付税算入率は財政力に応じて30%~50%(集約化・複合化事業は50%)です。

この計画は、以上の趣旨からも明らかなように「まちをコンパクトにする、公共施設を縮小・再編する」という、自治体にとっては初めての経験となる行政計画です。すでに計画は実行段階に入っており、基本計画に沿って長期修繕計画や個別施設計画、再配置計画などが提起され、住民、地域の側も具体的な判断、選択が迫られます。

2 本格実施に向けた論点と課題、今後の取り組み

今日の人口減少、少子高齢化の進展、地方財政の状況などを勘案すれば、公共施設などの見直しは必至であり、政策的な対応が求められます。問題はその中身、進め方です。

公共施設などは、地域社会やコミュニティーの核であり、住民のライフサイクル全体を通して福祉の増進を図り、社会・経済活動を営む基盤をつくるものです。一律的な削減ありきではなく、施設の設置目的や住民の暮らし、地域の実態、将来の姿をよく見極め、まちづくりの一環として住民の参加、合意形成を図って進めるべきです。自治体の財政が厳しく管理経費が増えることは事実ですが、予算を何に使うのか、自治体の本来の役割は何か、公共施設は何のためにあるのか、それらをよく踏まえ、事務事業全体の見直し、政策選択のなかで考えることが必要です。

<実施方針の柱と実行計画>

各自治体の実施方針をみると、多くは①施設の総量を抑制(削減)する、②新規施設は原則つくらない、③複合化、集約化を図る、④予防保全・長寿命化を推進する、⑤PPP/PFIを優先活用する、⑥受益と負担の適正化を行う、⑦資産の有効活用を行う、を柱にしています。

今後、それらを踏まえて実行計画が示され、施設の診断、必要性、大規模改修・更新の時期・規模、長寿命化対策、削減目標、施設の統廃合・複合化・集約化・再配置計画、機能転換、住民サービスの確保、財政運用の効率化、施設利用の有料化・値上げ、未利用資産(土地・建物)の売却、跡地利用、売却益の運用などが提起されます。ここでは、各自治体の計画内容、実施方針を踏まえて、その論点と課題、今後の取り組みについて検討します。

(1)施設総量の削減

各自治体の削減目標を見ると、おおむね今後30~40年間で15~三十数%削減するとなっています。それは主に人口減少・財政面からの試算であり、端的にいえば、国の指針に沿って今後の人口減少、充当可能財源に見合って施設総量を削減するものです。問題はそれで住民の暮らしや地域がどうなるのか、それが検証されていないことです。

神奈川県相模原(さがみはら)市の公共施設白書は「施設の床面積で80%まで削減することは、市内の全ての行政系施設と市民文化施設、生涯学習施設、スポーツ・レク施設を廃止することに相当する」と述べています(『相模原市公共施設白書』平成24年3月、65ページ5行目以下)。20%削減というのはそういう水準です。実際には削減目標がそれ以上のところも多く、それで一体人間らしい暮らしが維持できるのか、安易な統廃合で人口流出、地域の衰退、過疎化に拍車がかかっては何の意味もありません。

基礎的な公共施設は、日常生活圏に整備していくのが基本であり、とくに地域施設は、当該地域の住民、町内会、自治会、関係団体などとの協議、あり方検討が不可欠です。長野県飯田(いいだ)市では各地区に地域別検討会議が設置され、地域が主体的に検討し、あり方を決めています。そこでは地域の自治力の発揮、自主的・自律的な運営、行政との協働が基礎になっています。

森裕之氏(立命館大学教授)は、「公共施設は本来的には住民の共有財産であり、社会経済状況に合わせてそれをどのように活用するかは最終的に住民の判断に委ねられるべき事柄」と指摘し、飯田市の取り組みはその先進的な事例であり、それが可能となった歴史的な背景には「公民館活動や都市内自治を実践してきた行政としての姿勢がある」と述べています(森裕之『公共施設の再編を問う』自治体研究社、74ページ13行目以下と75ページ3行目以下)。

(2)市町村合併との関係

合併は「究極の行政改革」と言われており、平成の大合併で急速に進みました。総務省の市町村合併に関する調査結果(2012年)をみると、合併自治体が「合併効果が最も高い」と回答したのは、「職員配置の適正化(削減)と公共施設の統廃合」です。

今回の総合管理計画でも、合併自治体は合併による施設保有量の多さを指摘し、人口に見合った削減を提起しています。これでは編入された周辺地域が標的になり、実際にも公共施設が大幅に削減され、人口減少、過疎化が進んでいます。その典型は12市町村が広域合併した静岡県浜松市です。同市では、今回の計画が策定される前の2014年度末までにすでに431施設が削減され、しかも削減は合併した旧町村部の中山間地域に集中し、その地域だけで全体の約8割にもなります。

その一方、新潟県上越(じょうえつ)市や長野県飯田市では、旧市町村単位に地域自治区が設置され、地域自治を基礎にした先進的な取り組みが行われています。また、高知市などでは施設数の削減ではなく、規模(延べ床面積)の縮小に重点を置いています。

神奈川県相模原市では、旧津久井(つくい)郡の住民から「津久井(農山村)地域の相模原化(都市化)でいいのか」という疑問の声が上がり、「折衷主義では双方の良さが損なわれる」「地域の独自性、特性を活かすためには分散自立型連帯、都市内分権の拡大と地域自治組織の活用が重要である」と提起しています(2016年10月1日南足柄市合併問題学習会のレジュメから)。合併(周辺)地域の見直しは、人口を基礎にした一律的な削減ではなく、過疎化が懸念される地域こそ暮らしの質、個性、実態を踏まえた対策を講ずるべきです。

もう1つの問題は、いまがちょうど、合併算定替の特例期間(10年)の終了、交付税の段階的削減(5年)、廃止の時期に入っており、それが公共施設の統廃合・再編に拍車をかけていることです。その影響額は約9300億円にもなり、合併市は財政が逼迫(ひっぱく)するなか、国に「合併算定替終了後の新たな財政措置」を求めてきました。政府も合併を国策として推進してきたことから、それを無視できず、2014年度から「合併後の市町村の姿に対応した交付税算定」を行い、加算措置を講じています。すべての措置が実施されれば、加算額は全体で約6700億円になります。こうしたことも踏まえ、安易な公共施設の統廃合に歯止めをかけていくことが重要です。

(3)公共施設の複合化・集約化と長寿命化対策

公共施設などの再編整備・維持管理では、複合化・集約化と長寿命化が重点です。複合化は、各地で進んでいますが、設置目的、対象、事業運営、条件等が異なる施設を財政効率化という視点で安易に一体化、混在させていいのか、実態を踏まえ、利用者を含めた検証が必要です。

施設整備では、複合化・集約化に伴う大規模化でPPP/PFIの優先活用が徹底されています。政府は財界の要望を踏まえ、公共施設の再編整備を大企業のビジネスチャンスにするため、人口20万以上の自治体に対してPPP/PFIの優先的検討規定の策定を迫り、すでに2017年3月末現在、当該自治体の99%が策定済または策定予定です。

実際の導入例を見ると、PFIは大企業本位、高規格、過剰見積もり、高負担で、施設の維持管理・運営面でも課題が多く、破綻事例もかなりあります。最近の事例では、愛知県西尾(にしお)市でPFI方式により約40の公共施設の新築や改修、解体、維持管理を最長30年間にわたって民間の特別目的会社1社に任せるという全国でも例のない、総額327億円の計画が実施され、市民ぐるみの反対運動が起きています。結果的には市長選挙で大きな争点になり、推進した市長が落選、新市長が計画の中止を通告しています。

ところが、政府は各自治体に住民・民間事業者の理解、同意、協力を得るための啓発活動を求め、導入しない場合は、その理由の公表、説明責任を果たすよう圧力をかけています。これは自治の侵害です。実施に当たっては、専門家の協力も得て、導入是非の厳密な検討、的確なチェック、歯止めが必要です。また、施設整備は、大企業本位のPPP/PFI優先方針ではなく、地元中小業者の施設維持管理能力、技術力の向上、育成・支援、関連事業の優先発注を図り、地域経済の循環、活性化、発展につなげていくべきです。

長寿命化では、計画的な修繕、耐震化など予防保全を強化し、更新時期の延長、財政の効率化を図っていくことは重要です。20年延長を目指している自治体もありますが、安全性の確保が課題になります。なお、インフラ施設は、ハコモノ施設とは異なり、事実上長寿命化に特化している自治体もありますが、必要な調査、検証を踏まえて見直しも検討すべきです。

(4)施設再編に伴う役割機能の見直し、組織改編

公共施設の統廃合・再編問題は、施設の位置づけ、役割機能の見直し、組織改編も伴います。 たとえば、公民館はこの間も首長部局移管による生涯学習センターやコミュニティセンターなどへの改編、最近は国の重点施策である地域運営組織との一体化が進行しています。

総務省の調査研究報告書(2017年)によれば、地域運営組織はすでに609市町村に3071団体が設置されており、同研究会座長の小田切徳美氏(明治大学)は、今後、同組織の担い手、人材育成、運営では公民館との関係が重要になると述べ、その活用、一体化を視野に入れています。

公民館は新憲法の交付に当たって出された通達で、「町村民に対し新憲法の精神を日常生活に具現するための恒久的施設」と位置付けられており、それは「住民の主体的な学びを通して地域に自治を築く拠点施設(公共空間)」(長澤成次著『公民館はだれのもの』自治体研究社、2016年)とされています。安易な組織改編や一体化でなく、今こそ本来の設置目的に沿った役割の発揮が求められます。

(5)歳入の確保~有料化・値上げと資産活用

このことでは施設使用料の有料化・値上げと未利用資産(土地、建物)の活用が重点です。

施設使用料は、この間、各地で有料化や値上げが提案され、議論になっています。千葉市は独自の使用料等設定基準を示し、各施設の公的必要性、収益可能性を軸にして受益者負担率(0~100%)を決め、利用料を設定しています。すでに一部の施設ではこの基準を踏まえて値上げされていますが、公民館はいまも条例で無料とされています。

相模原市は、2017年2月に公民館の有料化案を提示、PTAや自治会、社会福祉協議会などには減免措置を設けるとしましたが、利用者・市民から反対や懸念の声が相次ぎ、館長で組織する公民館連絡協議会も無料の継続を求める要望書を提出しましたが、同年9月に「改正」しています。

行政側は有料化や値上げの根拠として「受益者負担」を強調していますが、利用者団体からは「住民主体で運営され、コミュニティー活動を推進し、地域に還元される活動をなぜ有料とするのか」「受益とは何か」との基本問題が提起されています。本来、公民館などは設置目的、活動の趣旨からして、収益事業以外はすべて無料にすべきです。有料化された場合でも、住民、地域、教育、福祉団体などの自主的活動には減免規定を設け、無料を原則に活動の維持・発展を図るべきです。

資産の活用では、売却に特化せず、今後の高齢化社会や地域振興に備えて、適切な場所に政策用地を確保することも必要です。売却してしまえば再度購入するのは財政的に困難になります。また、売却益は将来の施設整備に向けて基金の設置・積立等に活用すべきです。

(6)今後の取り組み

この計画は、まだ住民には十分周知されておらず、その狙い、目的、内容を早急に知らせ、学習していくことが急務です。また、住民自らが地域や暮らしの実態、公共施設の配置状況、利用実態、管理運営のあり方などを調査、検討し、課題を明らかにして改善策を提案していくことも重要です。

利用料の問題では、当初はどこも有料化・値上げ反対が運動の中心でしたが、次第に「本来、公民館などは何のために設置されているのか」など、利用者・市民が自らの学びを通して公共施設の意味、役割を再認識し、確信を持ち、運動を広げています。これは重要なことです。

自治体に対しては、実行計画づくりへの住民参加、地域ごとの説明会、住民・利用者アンケート、再編・再配置地域でのワークショップの実施、住民の合意形成を図って進めることなどを要請していくことが重要です。議会でも計画の審議、調査、改善提案を行うこと、東京都武蔵野(むさしの)市や岐阜県高山(たかやま)市では特別委員会が設置されています。

国の財政支援措置については、2017年度から拡大された長寿命化、立地適正化、市町村役場機能緊急保全対策も含め必要なものは有効に活用し、かつ実際の使い勝手や内容を事実に即して精査し、改善を図っていくことが重要です。

問題は、国が2016年度から導入した交付税算定に行政改革や民間委託の実績を反映して交付税を減額し、PPP/PFIの導入促進を図るトップランナー方式です。現在、18業務に導入され、それに伴う交付税の基準財政需要額の減少は、2016年度は441億円、2017年度は約470億円、2018年度までの3年間累計では1380億円にもなります。図書館、博物館、公民館、児童館などは、この方式の適用はなじまないとして2017年度は導入が見送られたが、予断を許しません。

最後に

公共施設等総合管理計画は、住民の暮らし、地域のあり方に直結しています。その意味では、自治体の姿勢、計画内容、進め方が問われ、住民・地域の側の自治力、提案力も試されます。

この問題を単なる施設再編問題に矮小(わいしょう)化せず、将来を見据え、住民自治と自治体の民主的な発展と一体的に取り組み、安心と豊かさが実感できる暮らし、持続可能な地域を目指して運動をさらに強めていくことが必要です。

  • 2018年1月15日
  • 書き下ろし
角田 英昭

1944年生まれ。1967年に神奈川県庁入庁。退職後、自治労連・地方自治問題研究機構、自治体問題研究所で調査研究活動等に従事。

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