あの日から間もなく7年を迎えます。本稿では岩手県の状況に基づいて、復興事業の進捗状況と被災地の現状を概観し、被災地が現在どのようなステージに立っているか、そしてどのような課題に直面しているかを見つめます。
復興事業の進捗状況
表1は、国および東北被災三県が2011年に策定した復興計画の計画期間です。国の集中復興期間はすでに終了しており、2020年度末で「復興・創生期間」が終わり復興庁も廃止されることになっています。岩手県では、16年度までが「本格復興」、17年度からは「展開」とされ、宮城県では、17年度までが「再生期」、18年度からは「発展期」とされていました。一方、福島県の場合は「計画期間10年」とだけあり、いつまでに何を実施するかまでは具体化できませんでした。したがって震災7年後の現在の時点までに、福島県を除く岩手・宮城両県では、ハード面などの復旧・復興を終え、地域の再生・発展へと進んでいくステージが想定されていたと考えられます。
では、表2で実際の進捗状況を岩手県について見てみましょう。
がれきの処理、漁業関係施設の復旧、学校施設の復旧は、9割以上が完了していますが、それ以外の事業はまだ実施途上で、なかでも、まちづくりのための「面整備事業」(防災集団移転促進事業、土地区画整理事業および漁業集落防災機能強化事業を指す)、まちの核となる「津波復興拠点整備事業」や「まちづくり連携道路」の進捗率は低いのが実情です。また、防潮堤などの海岸保全施設整備もまだまだです。
こうした状況を反映して、住宅の再建もまだ途上にあり、17年12月末時点で8093人の被災者がまだ応急仮設住宅で暮らしています。そうしたなかで、災害公営住宅の整備はかなり進んでおり、計画戸数5569戸のうち5052戸(90・7%)が完成し(内陸部に新たに整備する公営住宅を除く。岩手県調べ17年12月31日現在)、大槌町の1カ所を除いて沿岸部の公営住宅は18年度中にすべて完成予定となっています。しかし、かさ上げ工事や区画整理事業がまだ完了しない箇所があるため、民間宅地などの供給完了にはまだ時間がかかります。復興庁「住まいの復興工程表」(17年9月末現在)によれば、民間住宅等用宅地および災害公営住宅の整備が未了の岩手県沿岸市町村のうち3市町は18年度中に完了予定ですが、残る2市町(陸前高田市、大槌町)は19年度以降完成予定とされています。遅いところでは、あと2年以上かかる見通しとなっています。
震災後の地域の状況
(1)人口流出入の推移
岩手県および宮城県の沿岸市町村のうち、2015年国勢調査人口が2010年調査に比べて15%以上減少した所が5市町あります。ただ、人口減少の多くは震災死と震災前から進んでいた高齢化による自然減によります。たとえば陸前高田市の場合、震災による死亡および行方不明者は1757人と人口の8%近くにものぼりました。そこで、震災と復興過程が人口移動に与えた社会的影響を見るため、社会増減率に焦点をあててみました。
いずれの市町も震災のあった11年には大きな人口流出が生じましたが、その後の経過は岩手県と宮城県で異なります。岩手県の陸前高田市と大槌町では、社会減は一時的な現象にとどまりすぐに震災前の状況に戻りました。陸前高田市の場合は、わずかとはいえ震災後に転入超過が生じました。生産年齢人口の流入が見られたことから、震災に直面して、むしろ故郷への回帰や、被災地に移住する人が現れたためと思われます。他方、宮城県の場合は、震災前に比べて人口流出の拡大した状態が続いていました。仮設住宅の設置方法の違いや、周辺に人口を吸収する都市が存在していたことが影響したのではないかと考えられます。ところが、陸前高田市でも、16年、17年と転出超過に転じ、今後の行方が心配されます。
(2)経済状況
岩手県「第11回被災事業所復興状況調査」(2017年8月1日調査)によれば、被災事業所のうち再開済・一部再開済を合わせると83・8%になり、再開又は再開予定の事業所は、同じ市町村内との回答が91・2%にのぼります。したがって、事業所の空洞化は生じていないといえるでしょう。ただし、建物や設備の復旧の程度は、「ほぼ震災前の状態に復旧した」事業所が60・1%、「半分以上復旧している事業所」でも76・6%にとどまっています。産業別に見ると、「半分以上復旧している事業所」の割合は、水産加工業が最も高く(87・7%)、卸売小売業が70・7%と最も低いです。
また、仮設店舗・事業所で事業復旧した事業所に本設再開の状況を聞いたところ、「本設再開を予定している」と回答した事業所は63・4%にとどまりました。「本設再開を予定していない」と回答した事業所の割合は28・5%で、主な理由は、「仮設の場所での営業を希望」(35・8%)、「代表者の年齢や後継者不在」(32・1%)でした。今後、被災事業者の間で選択の違いが広がっていくことが予想されます。
経済センサス調査に基づいて陸前高田市の事業所の実態を見たのが表3です。震災前の2009年センサスで従業員数の多い産業は、上から卸小売業、製造業、建設業、医療・福祉、宿泊業・飲食サービス業で、これら5つの産業で従業員総数の73・8%を占めていました。そこで、これらの業種について、事業所数、従業員数、売上の推移を見てみました。
事業所数、従業者数ともに09年から震災後の12年には大きく落ち込みましたが、その後年々回復を見せています。ただし、震災前に比べて、事業所数を減らしながら従業者数が回復していくという経過をとりました。16年には、全産業の従業者数は震災前の水準をほぼ回復しています。震災のなかで、廃業する事業者、再開する事業者、そして新規に参入する事業者という激しい変化が生じていたわけです。産業別に従業者数の変化を見ると、医療・福祉と建設業では、震災前の人数を大きく超えているのに対し、製造業、卸小売業、宿泊業・飲食サービス業は、震災前の水準を回復していません。ただ、卸小売業や宿泊業・飲食サービス業といった「まちなか産業」は、これから本格化する中心市街地の再生とともに発展することを期待したいと思います。
表3で売上の推移を見ると、どの業種も売上額が急増しているだけではなく、事業所当たり売上額も従業者一人当たり売上額も大きく伸ばしています。再開・新設事業者の努力が業績の改善につながったと考えられます。ただ、経済センサスのデータでは、14年までしか売上額を確認することができませんでした。その後の経過、そして中心市街地ができた後の動向に注意を払う必要があるでしょう。
まちづくりはどこまで進んだか、そして課題は?
(1)ようやく中心市街地が姿を見せ始めた
大規模な津波災害を受けた地域では、従前の場所にまちを再建することができず、高台移転やかさ上げ工事が行われてきました。とりわけかさ上げを伴う区画整理事業には時間がかかり、市街地の形成が遅れてきました。
そうした「面的整備」はまだ完了していない地域が多いですが、中心市街地の「まちなか」にあたる部分から優先的に工事が進められ、あちこちの市町村で商業施設が姿を見せ始めました。17年4月27日にオープンした陸前高田市の「アバッセたかた」もその一つです。商業開発協同組合による専門店街と大型店3店舗が入る建物。資金は、「まちなか再生計画」に基づく津波立地補助金と借入金によって調達しました。さらに7月20日には、商業施設に併設する形で市立図書館も開館しました。すべてが流されたまちに、再び人が集まる場ができるということの意味は大きく、図書館には開館から12月末までで、7万7263人の入館者がありました。人口約1万9千人の陸前高田市ですから、すべての市民が4回ずつ図書館に来た勘定になります。この場でお祭りも行われるようになり、周辺に新たな店舗も建ちつつあります。
(2)まちづくりの課題
ただ、まちづくりの課題もさまざまあります。
第1は、中心市街地に店舗はできても、人の住む住居がどの程度建てられるかです。商業施設の多くは、区画整理事業による減歩で生み出された市有地に建てられています。しかし、一般の宅地として換地を受けた地権者のなかには、すでに別の土地に住宅を再建した人もいます。したがって、区画整理事業で造成された区画の一部が未利用のまま空き地となる恐れがあるのです。
たとえば大槌町では、中心市街地である町方地区土地区画整理事業の地権者(602人)に土地利用意向調査を行ったところ、利用意向のない地権者が相当数にのぼることがわかりました。「利用意向なし」が87人、また「利用意向あり」の人のなかにも「時期未定」との回答が179人いました。そこで、これらを合わせた266人に対して、将来の土地利用を尋ねたところ、「自己利用」は97人のみで、「賃貸したい」「売却したい」が70人、残りは「未定」または「不明」でした。
そこで、大槌町では、区画整理区域内の土地利用見通しを図面で「見える化」した上で、土地の売買、貸し付けを町が橋渡しする制度を作りました。これはニーズに応えながら空き地問題を解決するための取り組みです。
しかし、根本的な問題は、津波災害の復興に既存の土地区画整理事業という制度を当てはめざるを得なかったところにあります。災害復興に関する法・制度の見直しが求められます。
第2に、防災集団移転促進事業で高台に住宅を再建しようとしている人が直面している課題です。同事業では、居住に適さない元の土地を市町村が買収し、高台に整備した土地を分譲しますが、分譲価格が売却価格を上回るため移転する住民に追加費用が発生する場合が生じています。では、分譲価格はどのように決定されているのでしょう。国土交通省都市局「東日本大震災の被災地における市街地整備事業の運用について(ガイダンス)」(2013年9月改定)は、分譲価額について「基本的には分譲時における適正な時価(不動産鑑定評価額等を参考に決定した価格)とすべき」と述べており、この「適正な時価」は、主に取引事例比較に基づいて評価されています。
しかし、ここでも通常のやり方を非常時に適用する「無理」が生じています。なぜなら、多くの人が土地と家を失い宅地需要が急増している一方で、安全な土地は限られているため、被災地では地価の急激な上昇が生じており、これが「適正な時価」と見なされてしまっています。ところがこれは一時的な現象のため、元のトレンドに戻るや急激な価格低下が生じると予測されます。
こうした一時的な地価急騰が住宅再建を妨げるのは理不尽でしょう。
第3に、復旧・復興後のまちが、暮らしやすい持続可能なまちとなれるかどうかが課題です。たとえば、陸前高田市が復興計画を策定する際に実施した「今後のまちづくりに関する意向調査」で、「復興に向けて重要と思われる生活環境」として回答が多かったのは、1位「買物等が便利なこと」(75・1%)、2位「病院や介護福祉施設が近いこと」(70・2%)、第3位「通勤や仕事上で便利なこと」(41・2%)でした。幸い、商業施設が建設され、全壊した県立病院も間もなく本設が開業します。しかし、それらの施設と住宅地とを結ぶ公共交通機関は路線網も本数も極めて貧弱です。高齢化が進むなかで、高台移転が行われたのですから、交通の確保は不可欠となっています。
地域再生に向けた多様な活動と交流
(1)多様なNPO法人など
沿岸被災地では、多くのNPO法人が震災後に作られました。地元の人々が作った団体もあれば、震災を契機に他地域との交流や移住してくる人たちによって作られた団体もあります(表4)。
陸前高田市に事務所を置くNPO法人の主な活動分野は、「まちづくり」「連絡・助言・援助」「子どもの健全育成」「社会教育」「学術・文化・芸術・スポーツ」「災害救助」「保健・医療・福祉」「環境保全」などです(表5)。
たとえば、「陸前高田まちづくり協働センター」は、市民の地域づくり活動支援、災害公営住宅の自治会づくり支援などの活動をしながら、NPOなどのネットワークづくりに取り組んでいます。「桜ライン311」は、津波の到達ラインにサクラの木々を植樹することを通じて防災意識を喚起する活動をしています。「りくカフェ」は、コミュニティー・スペースを運営して、住民の健康づくりとコミュニティーの再生を目指す活動をしています。「パクト」は、子どもの居場所づくりや、市外から訪れる人に向けた宿泊施設の運営などを行っています。「きらりんきっず」は、子ども子育て支援拠点を運営し、地域とともに子育てするまちを目指しています。「高田松原を守る会」は、津波で流された高田松原の復活を目指して、苗木を育て植栽する活動に取り組んでいます。「一般社団法人マルゴト陸前高田」は、企業や大学の研修、学校教育旅行、民泊などの事業を行い、「学び」を核とした交流人口の拡大に取り組んでいます。
(2)大学のグローバルキャンパス(サテライト)も
震災前から陸前高田とつながりのあった立教大学と岩手大学は、17年4月、「陸前高田グローバルキャンパス」と銘打ったサテライト・キャンパスを共同して開設しました。ここを拠点に、両大学の研究者や学生が教育・研究活動を行うとともに、陸前高田に関わってきた全国の大学、海外の大学との交流を進めようとしています。地域の人々とのシンポジウムや音楽会、アート・クラブなども実施しています。
震災を契機に、地域の外とも、地域のなかでも、交流や新たな活動が広がっているのを感じます。地元の中学生や高校生の間でも、自分たちの地域をより良くするための活動が始まっています。こうした動きが、ハードの復旧・復興だけではなく、まちの中身を作っていくことを期待しています。