【論文】風穴を知っていますか?―第6回全国風穴サミットin東京―

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日本全国各地にみられる風穴現象。その利用は、種子、漬物、りんごの貯蔵や養蚕業などで江戸時代にさかのぼる。さる7月19・20日、第6回サミットが東京で開かれ、各地から多彩な人たちが集った。

風穴とは

山の地すべりで石が積みあがった斜面などで、そのすき間から自然の冷風が吹き出す場所のことです。その仕組みは、岩体や石のかたまりの中に熱が蓄積されることが基本にあり、冷たい空気は下方へ、暖かい空気は上方へと移動する原理によるものです(図1)。

図1 風穴のしくみ
図1 風穴のしくみ

冬季には、岩体の下方で冷熱が蓄積される一方、上方では暖気(14℃前後)が噴き出る「温風穴」といわれる現象が見られます。春先に雪解け水が蓄冷熱した岩体を通過することで地下に氷の塊を作り出し、それが夏季まで残って0~5℃の冷気を吹き出します(表1)。

表1 冷風穴・温風穴の温度観測結果(2012年9月~2013年8月 鳥潟 幸男)
表1 冷風穴・温風穴の温度観測結果(2012年9月~2013年8月 鳥潟 幸男)
出典: 清水長正・澤田 結基『日本の風穴』(2015年、古今書院)

風穴現象は日本全国各地で見られます。昔から山で仕事をする人たちは、そういう場所を知っていて、そこに腰を下ろして涼んだということです。

風穴と聞くと、富士山麓の溶岩トンネルを思い起こします。むしろ珍しい例で、日本の風穴地の大多数は地すべり地形にあります。

風穴小屋利用のはじまり

稲核村(現・長野県松本市)では、江戸時代中期に風穴を利用した「漬物部屋」で、漬物の酸化を抑え、品質を保つことが行われていました。その漬物は松本城主に献上され「稲核のかざあな」と呼ばれていました。

幕末期には、同地区の前田家が、蚕種(蚕の卵)の貯蔵に応用しました。低温貯蔵でふ化時期を人為的に調整したことをきっかけに、風穴を利用してふ化回数を調整できる「究理催青法」が確立されました。それまで養蚕は春に限定されていたのが、年間多回育が可能になったのです。この仕組みで、全国から蚕種を預かって風穴小屋で保管し、求められたら返送するビジネスが広がりました。

風穴小屋での蚕種の貯蔵方法は、厚手の和紙でできている蚕種紙(約21×25㌢㍍)に80~100匹の蚕蛾から産卵させたものを貼り付けて、棚に立てて並べます。そこで、風穴小屋での貯蔵能力は「枚数」で表します。明治期の蚕糸業の発展に伴い、各地で風穴が利用されるようになり、「風穴蚕種業」または「風穴業」と呼ばれ、日本の近代化を支えました。明治期の終り頃には全国で約300カ所以上の風穴小屋がありました(図2)。

図2
図2

大正期半ば頃からは電気冷蔵庫の普及により風穴業は衰退し、昭和初期以降は大半が廃業に至りました。一部では種子貯蔵やリンゴの貯蔵などに使われたところもありましたが、現在、ほとんどの風穴小屋は森の中に埋もれ、土地の記憶からも消えようとしています。

そうした中、日本で最大規模(110万枚)であった群馬県下仁田町の荒船風穴が、2014年6月、「富岡製糸場と絹産業遺産群」として、ユネスコの世界遺産に登録されたことは、全国の風穴仲間への朗報でした。

風穴植生

風穴がつくる涼しい環境は、その地域よりも寒冷なところに生育する植物が出現することがあり、「風穴植生」といわれています。福島県下郷町の中山風穴では、オオタカネバラ・アイヅシモツケ・ベニバナイチヤクソウなど、やや規模の大きい植物群落があり、「中山風穴地特殊植物群落」として国指定天然記念物(1964年)になっています。規模の大小はありますが、各地の風穴で、周辺とは違った植生があることが数多く知られています。私の地元・大町市では、標高900㍍のところの風穴地で、富士山五合目(標高2500㍍)などでみられるミヤマハナゴケの群生地があります。

動物もまた、フタスジチョウ(南会津)やラウスオサムシ(大雪山周辺)など、貴重な昆虫が観察されています。

全国風穴サミット

NPO地域づくり工房では、長野県大町市内に記録されていた3つの風穴小屋のうち、2つの復元・管理を行っています。猿ヶ城風穴(2005年復元)は、近くの山城とのろし台の跡地とともに、地域の歴史や環境を学ぶ場として利用しています。鷹狩風穴(2007年復元、写真)は、そば焼酎や純米原酒の貯蔵に利用し、地場産品の高付加価値化に役立てています。風穴貯蔵古酒「菜の華」は、菜の花と蓮華草を緑肥に有機栽培した酒米・白樺錦で醸した純米原酒で、貯蔵開始から5年を経ても、フレッシュ感を残しつつ、まろやかな味わいは風穴会員に喜ばれています。

鷹狩風穴(長野県大町市)
鷹狩風穴(長野県大町市)

こうした取り組みに関心を寄せて、視察に来る方々がある中で、全国に仲間や研究者がいることを知り、一度交流してみたいと思い立ちました。2014年8月、第1回サミットを大町市内で開催したところ、50人の見込みの倍を超える参加者が全国各地からありびっくり。第2回と第3回の開催地もその場で決まりました。

各サミットには、研究者や風穴の所有者・管理者をはじめ多彩な人たちが集い、シンポジウムや事例報告、ポスターセッション、現地見学、懇親会などを通じて交流しています。各地の実践地をめぐり、その地域の人たちに風穴の存在をより広く知ってもらうことを主眼に開催されました。全国各地からの参加者が地元での歓待を受けました(表2)。

表2 全国風穴サミット実施状況
表2 全国風穴サミット実施状況
筆者作成

そして、2017年10月には、本会が事務局となって、全国風穴ネットワーク(会長:伴野豊・九州大学教授)を設立し、メーリングリストなどを通して交流を重ねています。

第6回サミットを東京で開催

第6回は、風穴の存在を全国に発信することを企図して、7月19・20日、東京で開催しました。また、これまでの交流を通じて得られてきた知見や課題についてより深く学ぶために、3つの分科会を設けるとともに、風穴を初めて知る人のための講座や風穴貯蔵のお酒やりんごなどを楽しむカフェなどを盛り込みました(表3)。

表3 第6回全国風穴サミットin東京の開催概要
表3 第6回全国風穴サミットin東京の開催概要
筆者作成

九州大学の研究により、風穴小屋では、電気式の冷蔵庫と違って、蚕種がカビにくく、ふ化率が高いことが分かっていました。今回のサミットでは、島根大学の研究により、風穴内の空気には微量の元素(ラドンなど)が含まれていて、それによる殺菌効果があるのではないかという報告がありました。そのほか、風穴の冷気を家庭に持ち込む実験や実験室内で風穴現象を起こす研究、地域学習の取り組みなど、幅広く報告があり、活発に質疑が行われました。

第6回風穴サミットin東京
第6回風穴サミットin東京

第7回は、宮城県白石市で、風穴の利用と植生に焦点を当てた企画が動き出しています。

読者の皆様の近くにも風穴があるかもしれません。本会では全国風穴マップ2019年版(A1判カラー刷)を発行しています。ぜひお問い合わせください(地域づくり工房☎・FAX0261・22・7601)。

傘木 宏夫

長野県大町市生まれ。自治体問題研究所理事、長野県住民と自治研究所理事・事務局長、環境アセスメント学会常務理事。著書『仕事おこしワークショップ』他。

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