【関連論文】
- 施行後の状況を踏まえて、新たに寄稿した論文→
- 論点の中身と制度の概説→
全国64万人の自治体非正規職員を対象とする会計年度任用職員制度のスタートを前に、問題点の把握と今後の取り組みのため2020年3月、新潟県内の自治体を訪問し調査をしました。
◇はじめに
2020年4月から、自治体の非正規職員は会計年度任用職員となりました。この制度は官製ワーキングプアを正当化・固定化する制度であり「住民のいのちと暮らしを守り地方自治の担い手である地方公務員制度の大転換、公務運営のあり方そのものをも変質させる危険性を含んでいる」(『住民と自治』2018年5月号)ことを指摘しました。
◇なぜ、会計年度任用職員なのか?
あらためて、会計年度任用職員制度の概要を記します。
任用適正化と処遇改善
全国の地方自治体には約64万人(2016年現在)の非正規職員が働いています。
事務業務はもとより、窓口業務、給食調理、保育や病院など、正規職員と同等の仕事を任せられながら、賃金は3分の1から半分程度、通勤手当や各種手当、年休などの休暇制度でも正規職員との格差が付けられています。市民の暮らしを守る自治体が「官製ワーキングプア」を作り出しているという批判も高まり、改善のための運動も広がっています。
また、これら非正規職員のほとんどは「特別職非常勤」(臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらに準ずる者)や正規職員の欠員補充のため、臨時的に6カ月以内で任用する「22条職員」とされていました。地方公務員法が定めるこれらの職は、実際の非正規職員の任用根拠には適さないものでした。
以上のことから、会計年度任用職員制度は2つの柱①任用の適正化、②処遇の改善を目的として設立されています。
◇あらためて見えてきた会計年度任用職員制度の問題点
2020年4月からの制度変更に向けて、私たちの分会が自治体当局と交渉するなかで、以下のような問題点が把握されました。
①財政負担抑制のため、新たに期末手当を支給するための月例給(報酬)の引き下げ(2万円から3万円もマイナスに)や、フルタイムからパートへの置き換えが起きる。
②フルタイムとパートの格差が残り正当化される。(期末手当や休暇関係など)
③「公募が原則」として更新上限回数が設けられる。これにより、実質的な「雇い止め」が合法的に横行することも懸念される。
そこで、会計年度任用職員制度の実態を精確に把握し、制度スタート以降も自治体非正規職員の雇用や労働条件改善の闘いを広げるとともに、地域経済や公務サービス向上につなげていく足掛かりを作る取り組みとして、新潟県内の自治体訪問(自治体キャラバン)を実施しました。
◇自治体キャラバンの概要
キャラバンは、自治体首長(担当者)との面談による調査とし、3月3日(佐渡市は3月2日)に公務一般役員と県労連・各地区労連役員とで班を作り、7コース22自治体を訪問しました。
調査事項とポイントは表1のとおりです。
◇キャラバンで見えてきたこと(特徴点・課題)
1 任用(雇用)に関すること
ほぼ、全ての自治体で非正規職員の割合は50%前後でした。これは、自治体業務の多くが非正規によって担われていることを示しています。
【雇用不安を拡大…更新回数に上限】
会計年度任用職員の任用は公募が原則とされています。また、公募によらない再度の任用については回数(年数)上限を設けている自治体もあり、2回(3年)や4回(5年)などでした。一方で、上限を設けない自治体や、毎年公募するとした自治体もありました。
さらには、保育職や専門職については「上限なし」としている自治体もあり、人材確保に苦慮していることがうかがえました。今後、3年後や4年後にさまざまな問題が発生することが懸念されます。
また、「自治体戦略2040構想」などによる公共施設の配置見直しで、雇い止めにも利用される危険性が現実化しています。
このような更新上限は、民間労働者に適用される「無期転換ルール」(労働契約法)を意識してのことですが、住民の暮らしや権利に直結する公務にこそ安定した雇用が求められます。
2 勤務時間の設定
【職場や業務実態を無視した短時間化】
フルタイム会計年度任用職員を配置しない(制度としてはある)自治体も多く、フルタイムのパート化やパートの時間を短縮した自治体もある一方で、保育士や調理員などでフルタイムを残す、または現在の勤務時間はそのままとした自治体もありました。
短時間化の理由に財政状況をあげるところはありませんでしたが、自治体業務の多様化の状況からは、短時間化できる理由は見当たりません。また、短縮した自治体の多くは、15~30分程度の短縮となっています。
職場の実態や業務の流れを無視した短時間化がすすめられていると考えられます。公務一般の保育園分会や給食調理員分会では、職場の実態や業務の流れを組合員が訴え、パート化では業務が回らないことを当局にも認めさせパート化を阻止しています。また、交渉のなかでは、臨時・非常勤職員のサービス残業が前提にあることも明らかになりました。
今後、国による財源措置や自治体の財政状況によっては、職場の実態や業務の質を無視したさらなる短時間化も懸念されます。
3 業務・任用の適正化や正規職員化
各自治体とも、空白期間は解消しています(学期雇用による雇用中断は残されています)。
また、キャラバンの対話のなかでは、「本来であれば正規職員を配置したいのだが…」という本音も聞かれました。
4 給与関係
【月例給引き下げ、年収ベースで現給保障は少数派】
給与については、ほとんどの自治体で行(一)表や行(二)表などが適用されています。しかし、初任給の格付けは、事務職で1級1号、保育職で1級9号など、総務省マニュアルが示したとおりが多く(勤務時間によって異なりますが、10万~13万円程度)、正規職員の高卒初任給以下となっています。
全国的にも問題になり、マスコミでも取り上げられているように、期末手当を支給するため月例給を引き下げ、年収では「現給保障」とする自治体も一定程度あります。その一方で、「月例給は下げない」と明言する自治体もあり、苦しい財政状況のなかでも月例給・年収とも増としている自治体もありました。
総務省通知やマニュアルは、どの担当者も承知しているようでした。年収ベースでの現給保障を取るところがあると話すと、「そんなやり方が許されるのか?」と驚く担当者もいました。
昇給(相当の加算)は「なし」としている自治体もありましたが、その場合でも「今後検討」したいと言っています。非正規公務員が担っている業務の「価値」を前面に押し出し、「一人で暮らしていける給与」の実現につなげる必要があります。
なお、国は、処遇改善のための財源措置について、国会審議や労働組合の運動と地方自治体からの意見書などを受け、今年度は地方交付税で1700億円を措置していますが、今後も引き続き財源充実の取り組みが重要です。
5 期末手当
【支給月数で正規職員との格差、週30時間以上勤務の条件も】
期末手当の支給月数を正規職員と同様としている自治体は少数でした。なお、段階的に引き上げたいとする自治体もあり、今後の課題です。
支給条件については、週勤務時間と勤務月数で設定しているところが多く、総務省マニュアルどおり週15時間30分以上としている自治体と週30時間以上としている自治体がありました。
この制度での「改善点」とされている期末手当支給ですら、正規と非正規、また、フルタイムとパートタイムの間での格差が残されています。
なお、総務省は事務処理マニュアル(第2版 2018年10月)や、その後の通知などで、期末手当の支給額は常勤職員との均衡等を踏まえて定める必要があるとしています。さらには、期末手当支給の一方で給料や報酬について抑制を図ることは適切ではないとし、各自治体へ通知しています。
6 休暇制度など
【国準拠…でも格差は残されている】
特別休暇などは、ほとんどの自治体で国準拠でした。しかし、パート職員には勤務時間による制限もあり、会計年度任用職員のなかでも休暇制度に格差が持ち込まれています。
夏季休暇については、元々臨時職員にも制度化されていた自治体もある一方で、国を上回る部分(子の看護休暇で国は未就学まで)の扱いを検討中という自治体もありました。
年次有給休暇の採用当初からの付与・日数は、総務省マニュアルの示すとおりが多くなっています。しかし、繰り越しについては期間雇用(学期雇用)などで、不十分な面が残されています。
育児休業も制度化されていますが、任用回数の上限を超える場合の取り扱いは、今回の調査では十分につかみ切れませんでした。(公募による任用後に再度取得できるとしている自治体もあります)
なお、訪問は新型コロナウイルス対策で学校一斉休校が開始された直後であり、臨時非常勤職員の休暇等についても聞き取りを行いました。すでに総務省からの通知もあり、特別休暇(出勤困難)の対象としている自治体もありましたが、臨時職員も含めて「年次有給休暇で対応」という自治体もありました。
7 その他
調査時期が3月と制度スタート目前だったので、現行の臨時・非常勤からの移行や新たな採用については、ほとんど済んでいたように思われます。しかし、事前の労働条件提示が十分になされていたかは疑問です。当事者に十分な周知や説明がないまま、制度がスタートしたことが懸念されます。
◇今後に向けて
【公務の担い手としての働き方を求める】
今回のキャラバンによる結果は、会計年度任用職員の実態把握のスタートです。この結果を運動に活かすことが求められます。4月に入り組合員以外から「事前に説明が無かった」「どうして月給が減ったのか?」などの疑問や相談が、私たちに寄せられています。会計年度任用職員が、仕事と職場の実態をもとに、処遇改善を直接自治体当局に訴えるため労働組合が必要になっています。その点では、私たちの分会交渉で、フルタイム職のパート化を阻止した経験は貴重です。
これまでも自治体の非正規職員は、小さな自治体づくりと公共サービスの産業化の流れの中で、職員削減や人件費の調整弁にされてきました。「自治体戦略2040構想」は、AI(人工知能)やロボティクス、ICT(情報通信技術)を活用し、現在の半数の職員で公務サービスを担う自治体をめざすとしています。
また、今回のコロナ禍が収束した後に、経済状況や財政危機を口実に、いっそうの地方行財政改革が進められることが予想されます。
このような公務サービスの担い手変質の犠牲は、真っ先に非正規公務員に押し付けられ、結果として住民サービスの低下につながることは明白です。全県の自治体の動向にアンテナを張り、自治体非正規労働者の「駆け込み寺」としての役割が求められていると実感します。
また、近年の相次ぐ自然災害や今回のコロナ禍などでも、自治体の住民のいのちや暮らし・権利を守る役割が鮮明になっています。その担い手である職員が「官製ワーキングプア」状態にあることを、世論に訴えるとともに、専門性や持続性、安定性が求められる公務労働のあり方を根本から問い直す運動が重要だと考えます。
【関連論文】
- 施行後の状況を踏まえて、新たに寄稿した論文→
- 論点の中身と制度の概説→