【論文】第1期地方創生とは何だったのか―静岡県にみる「地方創生」の現実

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第二次安倍政権以降、「地方創生」の名の下に、中央集権型財政システムによる集約型国土再編が加速化しています。事例をもとに、その特徴と第2期への課題を見ていきます。

はじめに

2012年に第二次安倍政権が発足して以来、中央集権型国家システムの下での、集約型国土再編と集権型財政構造の転換が図られつつあります。特に、2014年の「まち・ひと・しごと創生法」による「第1期地方創生」政策、第二次国土形成計画の下での「国土のグランドデザイン2050」による日本型コンパクトシティ政策、アセット・マネジメントによる公共施設統廃合、さらには「自治体戦略2040構想」で提起されているスマート自治体や「圏域行政」などは、集権型財政誘導による集約型国土再編の動きを加速化させる側面をもっているといえましょう。

そこで、本稿では、2019年度までの第1期地方創生政策に見られる集権型財政システムのもとでの集約型国土再編の特徴を整理し、静岡県内自治体の事例を取り上げながら、2020年度からの第2期への課題を見ていくことにします。

「地方創生」政策と集約型国土再編

「地方創生」政策の特徴は、「選択と集中」の強化によって、従来の自治システムを基本とする地方統治機構が解体していく側面をもっていることです。2014年5月の「ストップ少子化・地方元気戦略」と題するいわゆる増田レポートでは、2010年から2040年までの30年間に、若年女性人口が50%以下になる896市町村を消滅可能性都市として名指しし、地方拠点都市の建設などを提唱しました。増田プランによる問題提起を受けた形で、人口減少時代への対応として、「まち・ひと・しごと創生法」が可決・成立し、内閣府に「まち・ひと・しごと創生本部」が作られました。具体的には、中山間地域では小さな拠点、連携中枢都市圏および近隣市町村定住自立圏、地域連携やネットワークの形成、大都市圏では地域包括ケアの推進などが提案され、住民・産官学との連携や自主的な取り組みが強調されました。

2015年度は補正予算で地方創生先行型交付金あるいは地方創生加速化交付金が、2016年度からは地方創生推進交付金が導入されました。各自治体はKPI(重要業績評価指標)を設定しなければならず、結果については政府がPDCA(Plan Do Check Action)サイクルによって効果を検証していくといったシステムです。自治体間では業績を上げるために競争を余儀なくされ、結果が出せなければ、交付金を削減するという形で進められています。そこでは、意欲と熱意のある自治体に対して情報支援、人材支援、財政支援という地方財政版「三本の矢」で強力に推進し、地方創生の新展開を図るとされてきました。つまり、国主導で上からの地域間競争を促す戦略であり、自治体の集約や再編が余儀なくされる可能性が大きいといえます。

また、「地方創生」と同時並行で進められているのが、国土形成計画と都市計画です。2014年7月に閣議決定された「国土のグランドデザイン2050」と、それに続く2015年8月の「新たな国土形成計画」において、三大都市圏を結ぶスーパーメガリージョン構想が掲げられました。具体的には、ヒト・モノ・カネ・情報を三大都市圏に集中させ、それをリニア中央新幹線でつなぐことによって、国土利用の効率化を図ることとされ、すでにJR東海が実施主体であるリニア新幹線に対して3兆円の財政投融資が行われました。その特徴は、これまでの国土計画にあるような「均衡ある国土の発展」ではなく、経済のグローバル化への対応や経済成長を最優先させて、国際競争力を高めるために、中央集権型・集約型国土への再編を進めることにあるといえます。

さらに、日本型コンパクトシティの形成によって居住地域や公共サービス施設を集約化する方針も打ち出されてきました。「経済財政運営と改革の基本方針2016」においては、コンパクト+ネットワークの推進がうたわれ、2020年までに全国150の地方自治体における「立地適正化計画」の策定を達成させるといった目標が掲げられ、各省庁横断的な財政支援体制により重点化を推し進めることとされました。

こうした方針を受けて、2017年度からは、「公共施設等適正管理推進事業債」が創設され、2018年度にはその中に「立地適正化事業」が設けられました。2017年度から2021年度までの5年間で、国庫補助事業を補完し、または一体となって実施される地方単独事業が対象となっており、地方債充当率は90%、交付税算入率は30%となっています。ここでいう国庫補助事業とは、コンパクトシティの推進に特に資するよう、立地適正化計画に定められた都市機能誘導区域内または居住誘導区域内で実施することが前提となっており、これが補助率かさ上げ等の要件とされたのです。2018年度からは、さらに交付税算入率については財政力に応じて最大50%まで引き上げられることになりました。こうしたしくみは、これまでにも補助金と交付税を組み合わせた財政誘導装置として機能してきましたが、現在では、集約型国土再編や日本型コンパクトシティ形成のための手段となっていることに注目すべきでしょう。

静岡県内自治体の事例

さて、そこでこのような政策が地方にどのような影響をもたらしているのか、静岡県内自治体の中から、地方創生交付金関連の特徴として伊豆地域の事例を、さらに集約型国土再編に関しては静岡市を取り上げ、具体的に見ていくことにしましょう。静岡県熱海市は人口約4万人弱の温泉観光都市です。人口の推移を見ると1965年をピークに年々減少傾向をたどっています。自然減が続いている一方で、転入超過といった状況も見られました。それは現役中に購入したリゾートマンションなどに移住する高齢者が多いためです。したがって高齢化率がきわめて高く、最近では自然動態、社会動態ともに減少に転じています。産業構造をみると、第3次産業人口が85%を占めており、そのうち観光関連の業種は半分を占めています。

熱海市では第四次総合計画(2011~2020年度)を策定していましたが、前期計画を終えた段階で、後期計画に「地方創生総合戦略」(2015~2019年度)を組み合わせました。人口ビジョンでは、合計特殊出生率を現行の1・22から1・50にまで上昇させ、2060年には2万人を維持するという計画を作りました。基本目標は観光では「温泉100選」1位、しごとでは市内就業者若年者の割合を15%にすることなどが明記され、くらし、子育て、地域づくりについても具体的な目標値を設定しています。しごとでは労働力の確保のKPIとして年間20人増加、企業支援による創業は2019年までに10件といった数値です。

こうした人口ビジョンと総合戦略に対して、以下の地方創生交付金が交付されました。具体的には、①地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)として、熱海市総合戦略・人口ビジョン作成事業(1000万円)、外国人観光客等受入環境整備事業(1701・4万円)、②地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地域消費喚起・生活支援型)として団体旅行誘置促進事業(2912・3万円):8名以上の団体旅行客を対象とした「熱海で楽しまナイト」クーポン、③地方創生加速化交付金としてリノベーションまちづくりと融合した創業支援による地域活性化(3020万円)、といった内容です。熱海市に配分された地方創生交付金は総額1億円であり、事業内容をみる限り、少額の事業が多く、KPIを達成するほどの予算は計上されていないことがわかります。

また、伊豆半島の最南端に位置する南伊豆町では、地方創生総合戦略において、CCRC推進事業を位置づけており、アクティブシニアを対象とした移住計画を進めています。地方創生交付金事業としては、共立湊病院跡地等の公有地での、東京都杉並区と連携しながら高齢者の移住を受け入れる施設整備などにあてられることとなっています。南伊豆町では従来から移住政策を進めており、人口自体は自然減となっているものの、若年層も含めて社会増を達成しており、一定の定住促進政策を独自に進めてきたのです。現在ではCCRCは高齢者だけを対象とせず、生涯学習に位置づけられるようになっていますが、独自の内発的な発展に向けた取り組みに注目する必要があるといえましょう。

次に、平成大合併期に2市2町が合併した静岡市の事例を少し詳しくみることにしましょう。静岡市は人口約70万人弱の政令指定都市です。「平成の大合併」期の2003年に旧静岡市と旧清水市が合併し、2006年に蒲原町、2008年に由比町を編入して現在に至っています。近年の人口動態をみると、国や県よりも早い1990年頃から人口減少が始まっており、社会減、自然減ともに進行していることがうかがえます。特に清水区の人口減少は顕著で、主な転出先は東京圏となっています。

市は2015年4月に「第三次総合計画」(2015~2022年)を策定し、それを組み合わせた形で「地方創生総合戦略」を策定しました。人口ビジョンによると、2060年の推計では約47万人になるとされ、少なくとも2025年には人口を70万人に維持するために、「『まち』の存在感を高め、交流人口を増やす」「『ひと』を育て、『まち』を活性化する」など6つの基本目標を掲げています。

こうした地方創生総合戦略に基づいて地方創生交付金が支出されました。2014年度補正予算では、先行型交付金として、地域活性化地域住民生活等緊急支援交付金(国全体では1400億円)が、総合戦略策定事業(1000万円)、南アルプスユネスコパークを活かした交流人口拡大事業(8870万円)、2015年度には前年度の上乗せとして、静岡型CCRC構想推進事業(2000万円)、2015年度補正予算からは海洋クラスター創造事業(4400万円)などに充当されています。2016年度からは地方創生推進交付金(国全体では1000億円)、さらに補正予算にて地方創生拠点整備交付金(国全体では900億円)が予算化され、海洋文化拠点整備事業(1275万円)や七間町賑わい創出拠点整備計画(3195万円)などに対する地方創生交付金として充当されています。

  • *CCRC構想推進事業:CCRCは1970年代の米国で始まった概念だが、「日本版CCRC」は、健康で主体的に地域コミュニティーに参加して活動的に暮らし、健康長寿をめざすものとされる。
  • *海洋クラスター創造事業:静岡市の清水地区を対象に、地域の産学官が連携し、海洋・水産関連産業において、研究開発、人材育成、新事業創出から、新たな企業・研究機関・人材の呼び込みにつなげる事業。

市へのヒアリング調査によれば、既存の事業に上乗せする形で申請しているものが多く、金額的にも少額であり、細分化されているなど、使い勝手という点では問題の多い補助事業であるといえます。熱海市の事例でも指摘したとおり、わずかな期間でKPIにもとづいて成果をあげなければならず、総合的な地域づくりを行う財源としては問題があると言わざるを得ません。

また、アセットマネジメントアクションプラン(第1次:2017~2022年度)では、総資産量の適正化や施設の長寿命化に取り組んでいくとされています。具体的には、2017~2022年度までに約3万平方メートルの公共施設面積を縮減する計画となっています。その領域は、福祉、教育、文化施設、庁舎など多岐にわたっており、公共施設の統廃合や民営化が計画されるなど、市民生活に及ぼす影響は計り知れません。人口減少時代に入り、既存の施設が老朽化し、統廃合などが求められているのは事実ですが、性急な事業計画の実施は市民の生活権を脅かす可能性があります。また、共働きやひとり親世帯が増加している現在において、少子化対策に必要不可欠な施設も多く含まれています。さらに庁舎や拠点病院の集約などは、地域経済や市民生活にも影響を及ぼすため、行政のみならず地域住民も含めた議論が、今後とも引き続き必要となるといえましょう。

また、第3次静岡市総合計画では、都市計画マスタープランにおいて集約連携型都市構造が掲げられ、立地適正化計画においてコンパクトなまちづくりを進めていくとされています。国土交通省の立地適正化計画においては、集約化拠点形成区域、利便性の高い市街地形成区域、ゆとりある市街地形成区域の設定を行い、2015年度に基本方針、2016年度に集約化拠点形成区域の公表を行い、5年ごとに数値目標に沿って計画が進められているかの点検が行われることとなっています。こうした期限付きの計画と地方財政措置による財政誘導も影響していると考えられます。

静岡市では、こうした国の政策を受けて、6つの拠点に都市機能を集約させる計画を進めています。この中で最も議論を喚起しているのが、清水駅周辺地区の開発計画です。具体的には、東燃ゼネラルLNG火力発電所3基を清水駅前に誘致するとともに、津波浸水区域に静岡市清水庁舎と独立行政法人桜ケ丘病院を移転させ、集約させるという計画になっていました。火力発電所を清水駅前に誘致する計画に対しては、地元住民が6つもの組織を立ち上げ、積極的に学習型住民運動を展開し、現時点では計画は中止となっています。清水庁舎移転の是非を問う住民投票条例制定を求める直接請求は市議会で否決されましたが、新型コロナ対策の影響で、財政調整基金が底をつくなど市財政が逼迫し、開発計画の一部は見直されつつあります。

静岡市における清水駅周辺地区への都市機能集約過程をみると、庁舎や病院等の津波浸水区域への移転問題が浮上した時期は、地方創生政策、立地適正化計画、アセットマネジメント政策による集約型国土再編が進められた時期とほぼ重なっていることがわかります。憲法に保障されている基本的人権、生活権という観点から見ても大きな問題であるといえましょう。

おわりに

これまで見てきたように、少子高齢社会への転換と財政危機を背景に、地方創生交付金による成果主義、「国土のグランドデザイン2050」と立地適正化計画による日本版コンパクトシティ政策、拠点地域への都市機能の集約といった政策が進められていますが、これらは集権型国家システムのもとでの集約型国土再編とみることができます。市民生活における災害リスクをさらに高める側面を持っており、基本的人権の尊重といった面から見れば多くの課題を抱えているといえます。さらには、これら一連の諸政策は、行政部門を縮小させ、トップダウンによる統治機構への再編を促す側面を持っており、住民自治を基本とするボトムアップ型のシステムに転換する必要があります。

2020年度からは「第2期地方創生」に入ることになり、各自治体では第1期を踏襲する形で第2期総合戦略が策定されています。現在では、新型コロナウイルスの影響から軒並み、9月補正予算において「新型コロナウィルス感染症対応地方創生臨時交付金」活用への流れが顕著になっています。これについては別稿に譲りますが、改めて市町村のもつ機能を重視し、地方財政権の確立と住民主権の必要性が強調されるべきだといえましょう。

【参考文献】

川瀬 憲子

専門は財政学、地方財政。地方自治学会理事、自治体問題研究所副理事長。著書に『集権型システムと自治体財政』自治体研究社、『「分権改革」と地方財政』自治体研究社、『アメリカの補助金と州・地方財政』勁草書房など多数。

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