【論文】図書館で働く非正規労働者の実態と改善課題

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委託民営化の拡大や非正規労働者の増大に伴う、図書館職場の官製ワーキングプアの実態について共有し、抜本改善に向けた打開策を皆さんと考えたいと思います。

はじめに

2020年度は、自治体で働く非正規労働者にとって、これまでの臨時・非常勤職員という身分から、会計年度任用職員という新たな身分への移行と制度変更が行われ、その下で働き始める年となりました。また、自治体の委託民営化も依然として広がっています。

そのなかで、図書館で働く非正規労働者の実態と改善課題について触れ、より良い図書館職場の実現と、図書館労働者が安心して働ける雇用、労働条件を実現するための取り組みの一助になれば幸いです。

図書館業務の重要性と取り巻く環境

1 資料の貸し出しだけではない図書館業務

図書館の機能は、単に本を無料で貸し出すことだけではありません。興味はありながらもどういう本を読んでいいか分からない利用者のために、必要な本や資料を選ぶのを手助けすること(レファレンス)も図書館労働者の重要な役割の一つです。

図書館労働者は、利用者の要望や質問に応えていくことで、レファレンスの技術が向上していきます。利用者と職員との継続的な結びつきが、豊かな図書館サービスを生み出していく大切な要素になっています。

また、地域の貴重な資料を保存し、それを継続的に保管していくことも図書館の重要な機能となっています。このことから地域資料に精通した職員の存在と、その育成も欠かすことができません。

2 図書館の委託民営化

① 図書館の持つ機能と業務内容は、委託民営化と相いれない関係

他の行政サービスと同様に、図書館業務においても専門性、継続性が担保されていなければ図書館に求められている業務を担っていくことはできません。しかし、現在各地で行われている図書館の委託民営化は、専門性、継続性の担保とは逆行する流れです。

図書館に対する一部業務委託、指定管理者制度導入の問題点は、いくつも挙げられています。(1)3年や5年など一定期間しか運営が任されないため、受託業者が切り替わる可能性がある。そのため、業務の継続性が危ぶまれる。(2)図書館は無料の原則があり、利用料が徴収できないため、受託業者は利益を上げるために人件費を削らざるを得ない。その結果、非正規化と低処遇の労働者しかいなくなり、経験豊かな職員は退職してしまう。(3)不安定雇用、低処遇の下で職員が定着せず、図書館業務に必要な技術も向上しない。(4)保存されている資料の価値が分からないまま、廃棄処分される恐れがある。(5)TSTAYA図書館事件で報じられたような、受託業者による系列企業からの不適切な図書資料購入など、適切な税金の使われ方についての懸念があるなど、数々の問題点が指摘されています。

② 業界団体、議員連盟からも異論の声

日本図書館協会は、「当協会は、わが国の今後の公立図書館の健全な発達を図る観点から、公立図書館の目的、役割・機能の基本を踏まえ、公立図書館への指定管理者制度の導入については、(中略)基本的になじまないと考えます」(2016年)と業界団体として、指定管理に対し明確に反対の立場を取っています。また、民主党政権時代、片山善博総務大臣(当時)からも、図書館は「指定管理になじまない」とする発言(2011年)がありました。

近年でも、自民党細田博之氏が顧問を務める「活字文化議員連盟」が示した「公共図書館の将来─『新しい公共』の実現をめざす─(答申)」(2019年6月24日、活字文化議員連盟 公共図書館プロジェクト)で、「指定管理者制度導入による公共図書館の運営は、図書館文化の成長と発展の観点からすれば、そもそも馴染まないのである」と答申しています。

3 委託民営化が進んだ先に見えるもの

① 中央館の委託も進む

委託民営化に対する反対や異論が広がっているなかでも、現実には図書館の委託民営化は着実に進んでいます。とりわけ、当労組が活動している東京地域のなかでも、特別区(23区)の半数以上が指定管理者制度を導入しています。そのなかで中央館にも指定管理者制度を導入する自治体が広がっており、すでに中野区、板橋区、千代田区、江戸川区、大田区が導入しています。さらに、中央区でも2021年から月島図書館、日本橋図書館の2館に指定管理者制度を導入し、2022年度から中央館である京橋図書館が新館「本の森ちゅうおう」として指定管理者制度を入れてオープンする計画が進んでいます。地域住民や区議会議員からも「100年以上の歴史がある図書館が委託され貴重な郷土資料が今後も保存されるのか」など、不安と心配の声が上がっています。

② 自治体が図書館を運営できなくなる未来

図書館の委託民営化が行き着く先は、図書館運営のノウハウが自治体から受託業者に吸収され、再び自治体直営で図書館業務を行おうとしても、もはや自治体自身に運営ノウハウが無くなっている姿ではないでしょうか。

そこには、受託業者が独自に図書納入先、選書、データベース管理などのシステムを構築し、図書館に関する一切を1つの「市場」と見なし、儲けの種にしていく企業戦略が横たわっています。

図書館で働く非正規労働者の実態

1 いっそうの無権利、不安定雇用化が進む自治体非正規職員

① 会計年度任用職員制度が始まる

自治体の直接雇用で働く非正規労働者は、これまで臨時職員(地方公務員法第22条)、非常勤職員(地方公務員法3条3項3号、17条)という身分で働いていました。しかし、2017年5月に地方公務員法の改正を受けて、2020年度から新たに「会計年度任用職員」(改正地方公務員法22条の2)という非正規の身分に移行することになりました。

② 1年ごとのクビ切りが合法化

新たな身分制度により、これまで「原則1年」とされ明確な雇用期限の定めがなかった非常勤職員の雇用が、会計年度任用職員制度導入により「1会計年度内」と雇用期限の定めが法律に明記されました。このことにより、「1年ごとのクビ切りが合法化」されると同時に、民間労働者に適用される労働契約法による5年経過後の無期転換申し出権も、公務職場は適用除外とされ、一生涯1年ごとの細切れ雇用が固定化される身分に改悪されました。

③ 労働基本権が奪われる

さらに、特別職非常勤職員(地方公務員法第3条3項3号)は、これまで団体交渉権、ストライキ権などの労働基本権が民間労働者と同様に認められていましたが、会計年度任用職員は正規職員と同様の一般職という身分と見なされ、身分移行と同時にこれらの労働基本権が奪われる事態となりました。

このことは、これまで数々の自治体リストラに対し、ストライキ権を行使して闘い、雇用継続を勝ち取ってきた当労組の動きを封じる、労働組合に対する弾圧法ともいえます。

④ 変わらない低処遇

賃金、労働条件については、新制度により期末手当(ボーナス)が支給されることになりました。期末手当の支給は非正規労働者の悲願でした。当労組の支部のある自治体では運動によりほぼ正規職員と同等の支給水準で支給されることとなり、大きな前進といえます。

しかし、地方では期末手当を支給するために月々の報酬を削減して期末手当に充てる、「だまし討ち」とも取れる処遇引き下げ攻撃が複数の自治体で見られました。

東京都内の自治体でも、「フルタイム会計年度任用職員は置かない」、「勤勉手当、経験加算はなし」、「職の責任や専門性に応じた抜本的な賃上げはしない」、「正規と格差のある休暇制度」など、低処遇は抜本的には改善されていません。

2 委託先労働者の問題

委託先の図書館労働者の実態は、当労組としても組織化の課題であり、未解明な部分があります。ただ、委託先の組合員の実態を見ると、ある受託業者で働くパートスタッフの賃金は最低賃金すれすれです。雇用については、労働契約法に基づく無期雇用転換は認められていますが、処遇はそのままであり、図書館運営の受託契約満期後に委託替えが発生した際、雇用継続の担保はありません。

官製ワーキングプアをなくすために

① 安定雇用に向けて

会計年度任用職員については、制度が持っている不安定雇用の根源である「再任用上限を撤廃、形骸化」、「公募ではなく経験に基づいた内部選考型にしていく」などの実現により、実質的な安定雇用を実現することが重要です。また、自治体リストラに対しては、労働基本権がはく奪された身分であっても、状況によってはストライキも視野に入れて闘わざるを得ないと考えています。

中長期的には、「短時間公務員制度」の実現や、専門職制度の確立(特別区は司書職が廃止されている)により、安定的な雇用で専門性が発揮される制度作りが重要です。

② 処遇改善

自治体職場は専門職が集まっている職場です。職種職能ごとに持っている専門性や責任に応じた賃上げを求めます。東京における図書館非正規労働者の賃金相場はおおむね時間単価1500円以上です。当労組支部の図書館ユニオンでは毎年都内自治体にアンケートを送付し、図書館で働く非正規労働者の賃金実態を調べ、賃上げ交渉に役立てています。相場を把握した賃上げ交渉により、中央区で月額2万8600円(2010年度)、台東区で1万2600円(2016年度)など大幅賃上げを実現しています。図書館ユニオンは、図書館労働者の時間単価2000円をめざしています。

③ 委託労働者に対する処遇確保

自治体が直営で運営していた時と、委託した後で大幅に業務内容が変わるとは到底考えられません。そうであるならば、委託先労働者の雇用、賃金労働条件は直接雇用の自治体労働者に準じた労働条件であるべきです。

現在、全国的に公契約条例の制定が広がっています。制定された自治体のなかには委託替えの際、新規業者への雇用継続を努力義務として定めている自治体や、職種別に賃金を定めている自治体があります(千葉県野田市、東京都多摩市、千代田区)。

これら、委託先労働者の安定雇用、処遇改善につながる要素を取り入れた公契約条例の制定や、(すでに制定している自治体においては)制度内容を拡充することにより、委託先労働者の安定雇用、処遇の確保を、自治体の責任により規制していくことが処遇改善には欠かすことができません。

非正規労働者の安定雇用、均等待遇実現には、労働組合が自治体直接雇用と委託先雇用を問わず、旺盛に組織化を進めていくことが一番の近道であることは明白です。当労組も引き続き、自治体非正規公務公共関係労働者の運動発展のために、奮闘していく決意です。

松崎 真介

2007年から書記次長。2013年から現職。公共一般労組は1990年結成。自治体で働く臨時・非常勤職員の労働組合。上部団体は日本自治体労働組合総連合(自治労連)。

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