コロナ禍の公立保育所の実態と課題を通して、自治体職員としての役割が明らかになりました。また、労働組合の役割と連携の大事さ、そして運動の方向もみえてきました。
緊張感が続く保育現場では
2020年4月、国から新型コロナウイルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が発令され、全国の保育所はいままで経験したことのない状況に直面しました。現在もなお、保育者たちは「自分が感染したら子どもにも保護者にも迷惑をかける」という大きな不安を持ちながら、日々の保育を続けています。
保育室を常に衛生的に保ち、真夏でもマスクを外さず、一日に何度も手を洗い、手指消毒を欠かしません。保育室にはお湯が出る水道はないのですが、子どもも大人も、寒くても冷水でしっかり時間をかけて手を洗わなくてはいけません。今年ほど「お湯がでる水道がほしい」と思ったことはありません。また、子どもが昼寝している間も換気をしなければならないので、窓際に寝る子が冷えないように配慮をしています。今年ほど「窓際を避けて布団が敷けるような広い保育室がほしい」と思ったことはありません。
保育者たちは、勤務時間外でも感染対策を万全にして生活するなど、24時間緊張した日々をすごしています。一方で、国は、GoToトラベル、GoToイート等の施策をすすめ(11月末現在、停止中の地域もあります)、マスコミもそれをあおり、私たちの緊張感と国の施策との矛盾を感じます。もちろん、感染症対策をしていれば、必要以上に怖がることはないし、感染した人が責任を感じることもないのですが、身近な場所で休園や休校などの情報を聞くたびに、私たち保育者が感染した時の影響の大きさを考えずにはいられません。
感染者が出て休園になった保育所では
全国の公立保育所でも、感染者が出て休園になったところがあります。多くの自治体では、感染者の人権を守る視点から、保育所名を公表していません。もちろん職員も口止めされているので、感染への不安や感染対策への疑問等が、労働組合に伝わってくるのはごくわずかです。その中から、感染者が出て休園になった公立保育所の例を紹介します。
A市では、すでにいくつかの公立保育所が休園を経験していますが、どこの保育所が休園になっているかは、近隣の公立保育所の園長にも知らされません。そのため、休園に関わるマニュアルはあるものの、どの園長も手探りで休園業務を進めています。子どもや保護者のためにも、休園時の保護者対応や業者対応などの経験を、次に活かせるようにすることが必要だと思います。
B市では、感染した職員本人と濃厚接触者は特別休暇等を取得できても、その他の人は、有給休暇を取得して自宅待機になりました。同様なことがC市でも起きています。D市では、感染者が出ていなくても、保育所職員は「24時間の行動記録」を書いて、毎日園長に提出することになりました。その後、労働組合がすぐに動き、提出は不要になりました。
このように、全国の公立保育所では「感染防止対策」を理由にさまざまな問題が起きています。労働組合としては、できる限り各地の状況や取り組みを交流し、学びあいながら、職員の人権を守り、安全に働き続けられるようにしていきたいと思います。
ある民間保育所の園長先生から、職員が感染して休園になった経験をお聞きしました。その保育所では、感染者と一緒に仕事をしていたにもかかわらず「濃厚接触者」の定義に当てはまる人は誰もおらず、1人もPCR検査を受けることはできませんでした。すぐに自治体に対して、全員のPCR検査を要望しましたが、検査は実施されませんでした。そのため職員は感染とクラスターの不安を持ちながらの自宅待機となりました。保護者からも「保育士はみんなPCR検査を受けたんですよね」と問われたとのことです。
子どもや保護者、そして職員の安全を守り、感染拡大を防ぐためにも、感染者が出た保育所では迅速に全員のPCR検査を実施することを、私たちも要望し続けたいと思います。
他職場へ派遣された公立保育所職員たち
緊急事態宣言中、自治体職員として保育所以外の任務についた職員がいました。福岡県北九州市では、休園になった保育施設の子どものうち、仕事を休めない保護者の子どもを預かる「緊急保育(所)」が開設され、公立の保育士が保育にあたりました。大阪府の自治体でも、同様な対応がありました。京都市をはじめ複数の自治体で、公立の保育士が一時保護所に派遣されました。保育士が給付金業務に携わった自治体もあります。
私たち自治体職員は、憲法で「全体の奉仕者」と規定され、住民のために仕事をしています。緊急時に不慣れな仕事に従事しなければならないことは覚悟しています。しかし、必要な知識や研修が不十分なまま業務につくことは避けなければなりません。今回は業務に就く前に、労働組合が必要な研修等を要求し、その実施につなげた例が報告されています。
業務に追われる自治体職員たち
どの自治体も福祉関係の本庁職場や保健所は特に大変でした。名古屋市でも、感染症対策や給付金業務などの部署では、わずかな定員増と100人を超える応援職員の配置で対応しました。応援職員を出した職場もギリギリの人員体制だったために、職場運営に困難が生じていました。今回の感染症対策を通じて、自治体職員が少なすぎることをあらためて実感しました。
公立保育所でも、年々正規職員が減少しています。自治労連愛知県本部が事務局を担って行った「2020年春の自治体キャラバン」事前アンケートの中間集計では、県内21自治体の公立保育所の非正規率は平均約55%でした。中には非正規率76%の自治体もありました。さらに正規保育士のうち20代の占める割合は平均47%でした。
私たち公立保育所の職員は、子どもの発達支援と保護者支援をしながら、さまざまな保育要求を自治体の担当部署に伝え、ともに保育施策を考えていく役割を持ちたいと思っています。今回のような緊急事態の時にこそ、その役割を発揮するべきだと思います。そのためには、業務に責任を持つ正規職員を増やすべきです。
待ちに待った国からの補助金
緊急事態宣言が出されていた頃は、保育所の衛生用品が少なくなり、購入することも困難で、不安な日々を過ごしました。また、衛生用品の購入により、おもちゃや絵本を購入する予算が少なくなることも懸念していました。
そんな中、国が2020年度の補正予算で「保育環境改善等事業」として1カ園上限50万円、第2次補正予算で「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」として1カ園上限50万円を補助することを決定しました。自治労連保育部会の役員に補助金の活用状況を聞いたところ、いくつかの自治体で有効に活用されていることが報告されました。空気清浄機や消毒薬等を自治体で一括購入して配ったところ、避難車を購入したところ、各保育所に全額配当してコロナ対策で必要なものを購入できるようにしたところなど、使い方はさまざまでした。しかし「そんな補助金の話は聞いたことない」という役員もいました。私も、補正予算の存在を知ったのは、自治労連愛知県本部の会議で、他の自治体が特別予算で物品を購入しているという話を聞いたからです。その後、市当局に確認し、網戸や換気扇の補修など、各保育所で有効に活用できるようになりました。
今回のことで、自治体が国に補助金をどのように申請し、どのように活用しているかを確認することも、労働組合の重要な役割だと再確認できました。そのためには、自治労連の組織間の情報交換や連携はとても大切だと実感しました。
守り続けてきた児童福祉法第24条が力を発揮
児童福祉法第24条1項には、保育を必要とする保護者が保育所入所を希望すれば、それに応じなければならない義務が市町村に課せられていると書いてあります。それゆえに、感染者が出て休園せざるをえない場合でも、保育が必要な子どもがいれば、自治体が責任をもって保育する必要があるのです。
また、休園や登園自粛で登園児が減少する状況になっても、在園児童数に基づく運営費が通常通り国から給付されました。保育料などの保護者負担も日割りで返金されるなどの措置がとられました。これらも、児童福祉法第24条1項があったおかげといえるでしょう。
児童福祉法第24条1項は、国によりこれまで何度も廃止の危機に直面しました。そのたびに、私たち保育関係者が、粘り強く運動を積み重ねて守り抜いたことが、このコロナ禍で、子どもや保護者、保育者を守ることにつながったのです。今後も児童福祉法第24条1項を守りぬく運動を継続していかなければなりません。
最低基準改善のチャンス到来
緊急事態宣言中、多くの公立保育所では、1クラスあたりの子どもが少なくなり、私たちは最低基準を上回る職員配置と面積基準での保育を経験しました。
保育者たちからは、「子どもたちの声に丁寧に応えることができた」「発達支援が丁寧にできた」「けんかが少なく、保育室内が落ち着いていた」などの声が多くきかれました。
私は2歳児を担当していますが、今の面積基準ではお昼寝時に布団を敷くスペースが狭く、子どもの布団が重なってしまい、子どもたちがもめてしまうこともあります。寝ている間にコロコロ動くので、気がつくと隣の子と接近して寝ていることもあります。そういうことも緊急事態宣言中はありませんでした。
いま、保育の質を懸念する声が大きくなり、マスコミも注目しています。教育分野で少人数学級の実現に向けた運動が広がっているように、保育分野でも最低基準改善の実現にむけた運動を広げるチャンスです。できるだけ幅広い人たちとも対話しながら、取り組みを一緒に進めていきたいと思います。
【注】
児童福祉法第24条1項 市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所において保育しなければならない。
*『ちいさいなかま』10月号と一部重複する部分があることをお断りいたします。