コロナ危機の長期・深刻化のもと、「一人一人の学びを保障する社会をつくる」うえで、少人数学級実現、同時に、一番困っている人への支援策として、消費押し上げ、景気対策としての消費税率の引き下げを求める世論も高まっています。
本稿は、ポストコロナの経済社会を考えるうえで、①少人数─20人学級実現の経済効果について、実施することの重要性、有効性、かつ実現可能性を実証するとともに、②消費税率を5%に減税した経済効果の2つのテーマで、本誌先月号の「医療・福祉拡充は雇用・経済発展の力」同様、産業連関表(以下、「連関表」)を使って、統計で分類(中分類)されている①教育分野に一定の予算を投入した場合の経済波及効果─生産、GDP(国内総生産)、雇用波及効果、また、②消費税減税効果(試算は教育などと違って大分類で)を試算しました。
結果は、20人学級も計画的に実現することは十分可能であり、同時に雇用やGDPなど経済効果があり、日本経済発展の力を持つものであることがあきらかになりました。消費税率5%への減税では、1%近くのGDP効果をもつことが示され、2019年秋の消費税率10%への引き上げの消費不況を直撃した新型コロナ危機とのダブルパンチのもと、家計を助け、低所得者や経営困難を極めている中小業者への支援策として、またポストコロナへの消費押し上げ、景気対策としての消費税率引き下げの重要性を示す結果となりました。
少人数学級
国・自治体の1・3兆円の予算投入で小中高校の20人学級の教員確保は実現する─24万人の教職員雇用に
国・自治体合わせての予算1・3兆円投入で、小中高校の20人学級の教員確保実現、24万人の教職員の雇用拡大になることが、「連関表」からの試算であきらかとなります。
小中高校に教員の10万人の増員、養護教員をはじめ教職員・学習指導員などの十数万人の増員をはかれば、当面の措置としての20人学級の教職員確保が実現できます。政府が2020年6月に成立させた第2次補正予算での教員・学習指導員等の追加配置予算はわずか318億円─教員の加配は3100人で、全国の小中学校の10校に1人しか増えないひどさでした。これを当面の措置として小中高校に教員の10万人の増員、養護教員をはじめ教職員・学習指導員などの十数万人の増員をはかり、20人程度の授業ができるようにしようというものです。
今回の試算は、そのためにはどれくらいの予算(国・自治体合わせて)があれば、20人程度の授業が実現可能か、20数万人の教職員確保が可能かを、医療・福祉分析同様に「連関表」で試算したものです。1・3兆円を投入すれば、雇用効果は24万人弱となりました(表1)。
少人数学級の実施は喫緊の課題であり、同時に、必要な教員確保のためには、深刻な勤務状況にある教育現場に鑑み、処遇改善、長時間労働解消のための施策の徹底、教員免許更新制の廃止なども不可欠です。
比較対象として、本誌先月号同様、教育・研究に対応する建設(建築、建設補修、公共事業、その他の土木建設の合計)、その一分野の公共事業の効果額をも算出してみました。教育等の経済効果だけ提示しても、その効果の大きさのイメージが鮮明とならないことから、公共事業をも示したものです。試算結果は、生産効果はほぼ同じですが、GDP、雇用効果は1・1倍と教育が公共事業を上回り、教育充実の方が雇用、経済効果は大きいことが明らかとなったのです。
相次ぐ20人学級への要望
政府、自治体への少人数学級─20人学級などへの要望が最近相次いでいます。
全国知事会・全国市長会・全国町村会の3会長は、2020年7月3日、政府・与党に少人数学級実施を要請しました。全国4つの校長会(小・中・高・特別支援学校)は、同7月30日、萩生田光一文部科学相に少人数学級と豊かな学校生活の保障を求め、「少人数学級化を求める教育研究者有志」(世話人・乾彰夫・東京都立大学名誉教授、中村雅子・桜美林大学教授、前川喜平・現代教育行政研究会代表)は、「少人数学級と豊かな学校生活を保障してください」との署名運動を展開し、昨年末までに23万人弱の署名を財務省と文部科学省に提出しました。
『しんぶん赤旗』の調査によれば、国に少人数学級を求める地方議会の意見書が、すくなくとも534自治体で採択されていることが明らかになりました(2020年11月14日付)。道県議会では北海道、岩手、茨城、神奈川、新潟、山梨、長野、三重、和歌山、香川、高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島の1道15県、県庁所在地・政令指定都市では札幌、宇都宮、金沢、甲府、名古屋、京都、神戸、岡山、広島、鳥取、松江、福岡、北九州、宮崎の各市議会でもあがっています。その後、岐阜、兵庫県議会でも決議されています。
教員の雇用について、「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」(山崎洋介事務局長)は2020年6月7日、「感染症対策とゆとりある豊かな教育のために少人数学級の導入を」との提言を発表。そこでは、「既存の少人数学級活用可能な教員定数をすべて活用し、増学級による担任外教員も増員した場合の財政量」の試算を、教員給与単価などを駆使して示しましたが、それによると小中学校を20人学級にした場合の必要教員数は10万9000人、国・地方合わせた追加予算(人件費)は約8600億円です。同会の山崎事務局長も「20人学級実現への必要な追加人件費は8600億円~1兆円。実現は十分可能」(『毎日新聞』6月25日付)と述べ、計画的な実施を強く求めています。
この点で、同会は、20人学級編成の場合の教員給与試算を全国、各都道府県別に示していますが、負担比率は全国総計で、国が27・78%、自治体負担が72・22%となっています。
この数字から見れば、1兆3000億円の負担の内訳は、国3611・4億円、地方(全国計)9388・6億円となります。実施の決断がありさえすれば実現は十分可能ではないでしょうか。計画的実施が求められています。
少人数学級─40年ぶりに小学校全学年35人学級実現に 中高は今後に持ち越し
少人数学級実現に向けて、政府でも新たな変化が生まれ、公立小学校の1学級の人数を2025年度までに全学年35人以下に引き下げることを麻生太郎財務相と萩生田文部科学相の昨年末の会談で決めました。1980年に小中学校の学級編成基準が45人から40人に引き下げられ(小学1年のみ、民主党政権の2011年度、35人に引き下げ)て以来40年ぶりのことです。国民が声をあげれば政治が動く一つの表れとなりました。
教育関係団体をはじめとする、国民的要求の高まりがありました。新しい時代の初等中等教育のあり方を議論している中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)特別部会は2020年10月28、29日の2日間の日程で教育関係団体から聞き取りを行いましたが、各団体からは少人数学級の早期実現を求める意見が相次ぎ、全国都市教育長協議会は、「答申」では1学級30人以下など少人数学級を明記するよう要望しました。全国都道府県教育委員会連合会、全国市町村教育委員会連合会、日本PTA全国協議会も同様の認識を示し、人件費や教室整備のための財政措置を国に求めました。
国会でもしばしば取り上げられ、畑野君枝議員は2020年7月22日の衆院文部科学委員会で質問。萩生田文科相は、40人学級環境で感染症に耐えられるか考えなければならないとし、「少人数の有効性も深堀りしていきたい」と明言し、検討対象に少人数学級を含める認識を示しました。萩生田文部科学相は、11月13日の衆院文部科学委員会の畑野議員への答弁でも、少人数学級の2021年度実施について「不退転の決意で望む。勇気をもらった」「皆さんと協力しながら頑張りたい」と明言しました。
こうしたなか文部科学省は、2021年度予算概算要求で、公立小中学校での少人数学級実現のための予算を、金額を明記しない「事項要求」として、「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」の検討を明記していたのでした。
これに抗し続けてきたのが財務省です。財務省は2020年10月26日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の歳出改革部会で、全国で実現の機運が盛り上がる少人数学級に対して、「学級規模の学力への影響は限定的」と敵視する資料を提出しました。財務省は2014年10月の財政制度等審議会でも「(小学校1、2年生での)35人学級に政策効果はみられない」「40人学級に戻すべき」と書かれた資料を提出するなど、一貫して否定に躍起でした。
それが、今回、財務省の妨害を世論の力で突破し、小学区だけながらも40年ぶりの35人学学級実施へとつながったのです。
しかし、中高は盛り込まれませんでした。運動を続けてきた全日本教職員組合の檀原毅也書記長は、「私たちは20人学級を展望した少人数学級の実現を求めてきました。『5年かけて小学校のみ35人学級』では不十分です。中学校・高校でも少人数学級の実現が求められています」「国民的な要求となっている少人数学級への動きを止めてはならない。引き続き、共同のとりくみを強めます」とのべています。
心身に障がいのある児童・生徒が通う特別支援学校の実態は特別な深刻さを増しています。『毎日新聞』(12月17日付)によると、全国の公立特別支援学校で、理科室などの特別教室や会議室を普通教室に転用したり、教室を間切りで分けたりして使っているケースが少なくとも2783教室あると報じました。公立特別支援学校は1087校(2019年度)あり、単純計算で1校あたり2室以上になります。この要因は児童・生徒数の増加。文部科学省の学校基本調査によると、少子化で小中学校・高校は児童・生徒数が減少している一方、特別支援学校は2019年度14万4434人で10年間で約23%増えています。各自治体は学校の新設や増改築を進めていますが、児童・生徒数の増加に追い付いていないのが実態です。
全国特別支援学校長会は、特別支援学校にだけない設置基準の策定が中央教育審議会の「中間まとめ」に盛り込まれたことを評価しつつ、「深刻な教室不足の現状を容認する基準ではなく、豊かな学習環境を整備する観点に立って策定を」と訴えました。既存校についても「国としてどのように支援を行い、どのように最低限必要な教育条件を整備するか方針を出してほしい」と要求。特別支援学級の学級編成基準引き下げや、幼稚園などの1学級あたりの幼児数引き下げを求める声も出しています。
地方自治体─東京都、大阪府に見る
都の予算700億円投入で20人学級の教員確保は可能
国と都の予算合わせて1000億円─給与から見て都は700億円強─の予算を投入すれば、小中学校の20人学級の教員確保が実現することが、国民経済統計などから明らかになります。
今回の試算は、先の国同様、どれくらいの予算(国・自治体合わせて)があれば、20人学級の実現が可能かを、「連関表」で示している各種係数を掛けるなどして試算したものです。
国、自治体合わせて1000億円投入─教員給与への政府の補助率などから換算すれば、都の負担分は700億円強、国が300億円弱─すれば、教育・研究部門の雇用効果は8606人となります(表2)。
教員の雇用について、「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」は、6月7日、「少人数学級の導入を」との提言を発表しました。そこでは、「既存の少人数学級活用可能な教員定数をすべて活用し、増学級による担任外教員も増員した場合の財政量」の試算を教員給与単価などをも駆使して示しましたが、それによると小中学校を20人学級にした場合の東京都の必要教員数は小学校6165人、中学校1616人、合わせて7781人としています。
一方、都の「連関表」の教育・研究の従業員数(合わせて30万7000人弱)、そのなかの教育と研究の従業員数の比率(教員が78・9%)から推測すれば、20人学級のための教員の増加数は8606人の0・789倍の6790人となり、国・都合わせての1000億円投入での雇用効果8606人から見て、20人学級の教員確保は十分実現できることとなります。
1000億円投入の生産波及は1498億円、GDP(粗付加価値)は1006億円となります。1006億円は都の2016年度のGDPの0・1%に当たります。
先の国同様、比較対象として、教育・研究に対応する建設(建築、建設補修、公共事業、その他の土木建設の合計)、その一分野の公共事業の効果額も算出してみました。教育等の経済効果だけ提示しても、その効果の大きさのイメージが鮮明とならないことから、建設、公共事業についても示したものです。
結果は、教育・研究と建設の比較では、生産、雇用波及は教育・研究が若干下回りますがほぼ同じ、GDPは教育・研究が1・3倍となります。
公共事業との比較では、それぞれ3・9倍、5・4倍、3・4倍となります。
大阪府の予算360億円投入で20人学級の教員確保が実現
大阪府の「連関表」でも試算しました(表3)。
国、自治体合わせて500億円─教員給与への政府の補助率などから換算すれば、府の負担分は361億円、国が139億円弱─投入すれば、教育部門の雇用効果は6765人となりました。現在の公立小中学校の教職員数の中の教員数の比率(91%)から換算すれば、教員の雇用効果は5792人─5800人弱となります。
教員の雇用について、先に示した「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」の6月7日の少人数学級の導入を、との提言では、小中学校を20人学級にした場合の大阪府の必要教員数は小学校4287人、中学校1091人、合わせて5378人としています。したがって、500億円投入の教員の雇用効果5800人弱から見て、20人学級の教員確保は十分実現できることとなります。
試算による500億円投入の生産波及効果は795億円、GDP(粗付加価値額)は581億円となります。581億円は府の2017年度のGDPの0・2%強に相当します。
公共事業との比較を見れば、生産はほぼ同じですが、GDPは1・3倍、雇用効果は1・1倍です。
全国13道県に見る
全国13道県について見てみます(表4)。
「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」が6月7日、少人数学級の導入を、との提言で示した小中学校を20人学級にした場合の教員確保予算額を示しています。ここでは、一つの参考としてこれを活用し、国・自治体を含めた必要金額を投入した場合の経済効果額を試算し、同じ金額を投入した場合の公共事業の効果との比較を示しました。
13道県のうち、生産波及効果では11道県は公共事業とほぼ同じです。GDP効果は1・3~2・8倍と教育の効果が大きく、雇用効果では多くの県では1・4~2・0倍と教育が大きくなっています。少人数学級実現は、経済効果でも、特にGDP、雇用効果では抜群の力を持っていることを示しました。
消費税率5%への減税
GDP1%弱の押し上げ効果 54万人余りの雇用拡大に
「連関表」を活用し消費税率を5%に引き下げた場合の経済効果を試算した結果、少なくともGDP(国内総生産)1%弱の押し上げ効果を持ち、深刻さを増している雇用効果でも抜群であることがあきらかとなりました。
最新版の「連関表」に、可能な経済実態を考慮した投資金額─2020年度の消費税収見通しの金額、「連関表」の関係係数を投入すれば、その生産、GDP(国内総生産─「連関表」では粗付加価値額を試算。粗付加価値額がGDPにほぼ相当するとされている)、雇用への波及効果が試算できます。政府の2020年度経済見通しの消費税収─1%で約2兆2000億円をもとに、消費の落ち込みが10%減(9月の家計調査統計によると2人以上世帯の消費支出が実質10・2%減)であることを考慮した税収金額(5%で約10兆円)に「連関表」の係数の一つの最終需要(民間消費支出)の生産誘発係数を活用、また、所得のうちどれだけを消費にあてるかを示す割合である消費性向をも加味して、政府も認める算出方法で試算しました。
*生産誘発係数:ある最終需要部門で1単位の最終需要があった場合、どの産業の県内生産額がどれくらい増えるかを示すもの。
結果は、
- 生産波及効果
- 15兆6490億円(億円未満は四捨五入)
- GDP(粗付加価値額)波及効果
- 4兆5909億円(同)
- 雇用波及効果
- 57万4037人(同)
となりました。
このGDP効果4兆5909億円はどれほどのGDP押し上げ効果に相当するか見てみましょう。「連関表」の2015年度のGDP(532・8兆円、名目)の0・9%、近年2018年度のGDP(548・4兆円、同)の0・8%に相当します。
政府は、2020年度の政府経済見通しで当初、2020年度のGDP見通しを570・2兆円(同)としていました。しかしコロナによる落ち込みの結果、国際通貨基金(IMF)が2020年10月13日に発表した日本の同年度のGDP見通しは前年度比マイナス5・3%とし、日銀は10月29日の金融政策決定会合で、2020年度の実質GDPの成長率見通しは前年度比マイナス5・5%と発表しました。内閣府が11月16日発表した最新の2020年7-9月期のGDP速報値の年換算の実質GDP508兆円を考慮すると、消費税率5%への引き下げによるGDP波及効果4兆5909億円は2020年度予測のGDP約0・9%に相当します。いずれにしても、消費税率5%への引き下げは、GDPを1%弱引き上げる効果を持つ大きなものであることを試算結果は示しました。
雇用効果も絶大で、57万人余りの雇用拡大効果を持ちます。コロナ危機は深刻な雇用危機をももたらしており、消費税減税が「新型コロナ」から日本社会を考える対応としても重要であることを明瞭に示しています。