コロナ禍で中小商工業者は休業や営業時間の短縮を余儀なくされ、苦境に立たされています。中小商工業者に寄り添った支援策は、雇用を維持し地域経済を守るうえで極めて重要になっています。
菅政権が固執したGo To事業の効果は、大手企業に偏るだけでなく、2度目の緊急事態宣言とその延長へとつながる感染症拡大を引き起こしました。次節で触れる通り、コロナ禍の経営危機はあらゆる業種に及び、休廃業・解散・倒産は深刻な状況となっています。コロナウイルス感染症の収束が見通せないなか、これまでの中小商工業者支援策の課題を検討することは、今後の支援策のあり方を考えるうえで大切なことだと考えます。そこで、本稿は、直接支援策─今年2月まで実施された国の持続化給付金等と、1月に発令された緊急時事態宣言下で講じられた自治体の「協力金」および国の「一時金」─の特徴と課題を検討します。次に、全国商工団体連合会(以下、全商連)が1788自治体を対象に行ったアンケート結果から、自治体独自の直接支援策の特徴と課題に触れます。そのうえで、今後求められる支援策のあり方について私見を述べます。
中小商工業者の経営危機の実態
売上DIについて見てみましょう。売上DIとは、売り上げが「増えた」と回答した事業所の割合から、「減った」と回答した事業所の割合を差し引いた値です。比較対象の時期と比べて、マイナスの値が増えている場合は「売上悪化」と判断します。
中小商工業者の売上DIは、2020年4月に緊急事態宣言が発令される直前の2020年上期(3月)の▲41・4から2020年下期(9月)には▲68・5に急落しています。コロナウイルス感染症拡大に伴う政府の緊急事態宣言による国内消費の「消失」は、中小商工業者の経営を危機的な状況に追い込んだことになります。
売上DIを業種別に見ると、宿泊・飲食業が▲93・3で過去最も悪い値でした。金属製品・機械器具製造業は▲77・6、食料・繊維・木製品・印刷関連製造業は▲74・6、サービス業は▲73・7、流通・商業は▲70・5、建設業(建築設計含む)は▲47・4、と、いずれの業種も極めて厳しい状況でした。
「持続化給付金で一時的にしのいでいる。この状況が長引けば、経営継続が難しい」(建築業)、「コロナで売り上げは戻らず、給付金も焼け石に水。月ごとに負債が増えている」(飲食業)、「呉服業界全体がコロナの影響で展示会の中止など、仕事がほとんどない状況だ。年内で廃業するかどうか迷っている」(生活関連サービス業)─など中小商工業者は、ぎりぎりの経営状況で生業を維持しています。不十分な支援策の下で繰り返される緊急事態宣言の発令は、事業継続を断念する「最後の一押し」になりかねず、休廃業・解散・倒産が今後も増え続ければ、雇用維持と地域経済の活力に深刻な影響を及ぼします。
国の直接支援策の特徴と課題
〔持続化給付金・家賃支援給付金〕
自然災害からの復旧復興を求める運動で、全商連が長年求めてきた固定費補助という考え方が、コロナ危機打開の運動を通じて与野党の幅広い合意となり、政府がかたくなに拒否してきた直接支援策(持続化給付金・家賃支援給付金)の道を開いてきたことは、画期的な前進面です。減収補填を目的とする持続化給付金はその使途を問われず、家賃支援給付金は固定費を支援するもので、いずれも有効な支援策です。民商・全商連の会員への実行件数は、持続化給付金で法人9509件、個人5万125件、家賃支援給付金で法人1027件、個人8109件に上ります(2021年1月20日現在)。
一方で、持続化給付金と家賃支援給付金の給付要件となる「売上減少基準」に該当しない中小商工業者は、そもそも対象から外され、給付を受けることはできませんでした。具体的には(図)、売り上げが「減1割以内」(15・8%)、「減3割以内」(31・1%)、「減5割以内」(12・0%)の事業者は持続化給付金の対象となりませんでした(家賃支援給付金は「減1割以内」、「減3割以内」は対象となりませんでした)。たとえ、売り上げの減少が50%未満であっても、売上減の状況が数カ月間続けば、資金繰りに行き詰まり、事業継続が困難になる可能性は十分にあります。「大手企業系の航空機関連の製造の遅れなどで、3次下請けの弊社への仕事は無くなった。売上減は30%~40%のため持続化給付金は申請できない」(一般機械)、「持続化給付金は売り上げの3割減や4割減も対象にしてもらいたい」(設備工事業)─と、中小商工業者から批判が起こったのは当然でした。
〔協力金・一時金〕
東京都の場合、今年1月、2度目の緊急事態宣言の発令・延長下で講じられた直接支援策は、営業時間の短縮に応じる飲食店に自治体が支給する「感染拡大防止協力金」(一日最大6万円)と、売り上げの減少した中小事業者に国が支給する「一時金」(法人は最大60万円、個人事業者は最大30万円)です。「一時金」の要件は、①「緊急事態宣言発令地域の飲食店と直接・間接の取引があること」、または②「緊急事態宣言発令地域における不要不急の外出・移動の自粛による直接的な影響を受けたこと」により、「本年1月~3月のいずれかの月の売上高が対前年比(または対前々年比)▲50%以上減少していること」です。
「協力金」の一日最大6万円では事業規模によっては経営の維持は困難です。また「一時金」の1回きりの「60万円」「30万円」では多くの中小商工業者は到底たちゆきません。「一時金」の要件「直接・間接の取引」「直接的な影響」に該当する事業者の範囲は曖昧で、加えて持続化給付金と同様に売り上げの「▲50%以上減少」基準を設けたことで、支給対象は限定されます。迅速な支給が求められているにもかかわらず、「一時金」の受付開始は3月上旬予定となっています。
自治体の直接支援策の特徴と課題
全商連は2020年8月28日から9月30日にかけて、1788自治体を対象に「新型コロナウイルスの影響を受ける中小業者への支援策実施状況調査」(以下、自治体アンケート)を実施しました。1092の自治体が回答し、回答率は61・1%です。
表の通り、①休業補償(実施自治体数361、実施率33・1%、制度数424)、②固定費補助(同472、同43・2%、同584)、③雇用補助(同249、同22・8%、同300)、④観光業等への補助(同817、同74・8%、同1427)、⑤感染防止対策への補助(同629、同57・6%、同944)、⑥芸術・文化への補助(同106、同9・7%、同140)、⑦それ以外の支援策(同813、同74・5%、同1656)です。
特徴は、コロナ対応の多種多様な直接支援策や地域の実情に即した支援策を講じることで地域経済の維持発展につなげようとする自治体の努力がうかがえたことです。加えて、国の給付金の対象外となる事業者を支援する制度が相当数の自治体で講じられていました。自治体アンケートは、コロナ感染症対策の初期段階(第1波から第2波)における自治体による支援策の積極面を明らかにしています。今後、より充実した支援策を政策提案するための、手掛かりとなる貴重な資料です。以下、〔休業補償〕〔固定費補助〕〔雇用補助〕〔それ以外の支援策〕の特徴と課題に触れます。
〔休業補償〕
休業や営業時間の短縮要請に応じた事業者(飲食店、宿泊施設、理美容業など)への給付金(支援金、協力金)が目立ちます。公共施設の休館に伴い休業したテナント、バス・タクシー、学校給食提供事業者、遊興施設、遊技施設を対象とした支援策もありました。
〔固定費補助〕
自治体の家賃支援は、国の家賃支援給付金の給付を受けていることを条件に給付しているもの(上乗せ給付)がありました。一方、「国の家賃支援給付金に該当しない事業者」を対象に家賃支援を実施していた自治体は、宮城県石巻市、宮城県登米市、秋田県大館市、福島県郡山市、茨城県常陸太田市、栃木県矢板市、東京都国立市、大分県宇佐市でした。他の自治体では、休業や営業時間の短縮要請に応じた事業者への家賃支援、「旅館、飲食店、タクシー業または従業員10人未満の事業者」に家賃等賃借料補助を実施するなど独自性のある支援策が講じられていました。
〔雇用補助〕
国の雇用調整助成金の支給決定を条件に、県や市が雇用補助を行う「上乗せ補助」が多くありました。一方で、岩手県遠野市は「45歳未満の者を正規採用した、市内に事業所を有する中小企業」を対象に補助(新規雇用創出事業費補助金、上限額30万円/人)を実施。宮城県加美町は「雇用調整助成金の対象外で家族専従者がいる町内事業所」(加美町専従者雇用支援事業)を対象に上限5万円を支援していました。
〔それ以外の支援策〕
①国の制度への上乗せ
国の持続化給付金の「売上減少基準」と「同等の要件」を設けている自治体の給付金・支援金(国の持続化給付金を申請している事業者を対象に自治体が給付を行う「上乗せ給付」)は75ありました。自治体による「上乗せ給付」は、国の持続化給付金を受けることのできた事業者にとっては経営維持に有効な支援となりますが、国の給付を受けることのできない事業者(例えば、図で見た、売り上げ「減1割以内」、「減3割以内」、「減5割以内」の事業者)は「支援の外」に置かれます。給付を受けられる事業者と受けられない事業者とで「支援格差」が生じることになります。
②国の制度を補完する支援策
一方、国の持続化給付金の「売上減少基準」に該当しない事業者を対象にしている自治体の給付金・支援金は277に上りました。具体的には、「売り上げが前年同月比較で20%から50%未満減少」などの緩和要件を設けることで、国の持続化給付金を受けられない事業者を支援するものです。
なかには、「売り上げが前年同期比5%以上減少している市内小規模事業者・個人事業主(フリーランス含む)」(「行田市小規模事業者緊急支援給付金」:上限額10万円、埼玉県行田市)や、「売上高5%以上減」(「新型コロナウイルスに負けるな事業継続応援給付金」:法人20万円、個人10万円、岡山県美作市)、「1カ月の売上高が前年同月比10%以上減少している町内事業者」(「城里町中小企業等継続応援給付金」:上限額20万円、茨城県城里町)と「売上減少基準」を低く設定し、広範な中小業者を支援している自治体もありました。
③社会保険料負担の軽減
島根県川本町は、国の雇用調整助成金を受給した事業者を対象に社会保険料の事業主負担分を補助しています。町の担当者は「社会保険料の事業主負担分が経営者の負担になっている。コロナ禍で社員を維持する事業者にどういう支援ができるのか、検討した結果、設けた制度だ」と述べています。社会保険料の事業主負担の軽減の必要性は、小規模企業振興基本法の付帯決議に定められており、国に先んじて、基礎自治体で負担軽減のための直接支援策が講じられたことになります。他の自治体には見られなかった画期的な支援策といえます。
おわりに─求められる支援のあり方─
コロナウイルス感染症対策は長期間にわたる人の移動の抑制を伴うため、消費を大きく減退させます。このような経済危機時に最も必要な支援策は、減収に見合った給付金や固定費を支援する給付金です。「持続化給付金」や「一時金」のような画一的な「売上減少基準」を設けて「支援の線引き」をするのではなく、全ての中小商工業者を対象とした直接支援策を迅速に行うべきです。そうすることで「自治体の直接支援策の特徴と課題」で指摘した「支援格差」の解消につながると考えます。給付要件の緩和や給付額の増額など自治体の直接支援策を充実させるために、政府による自治体への財政措置の拡充は欠かせません。自治体アンケート結果からは、少なくない自治体で、中小企業・小規模企業振興基本条例が制定されていることが分かります。中小企業・小規模企業振興基本条例を生かした持続可能な地域経済づくりに向けて自治体と中小商工業者の協力共同が大切だと考えます。
【注】
- 1 東京商工リサーチによると、2020年(1~12月)に全国で休廃業・解散した企業は、4万9698件(前年比14・6%増)で、調査開始以降最多(2020年「休廃業・解散企業」動向調査)。また、2020年(1~12月)の負債1000万円未満の企業倒産は630件(前年比23・0%増)と急増、2000年以降で年間最多(「負債1000万円未満の倒産」調査)。
- 2 中小商工業研究所が実施している営業動向調査の売上DI。同調査はモニター登録をしている民主商工会会員を対象に年2回〔上期(3月)、下期(9月)〕に実施。2020年下期(9月)は〔有効回答〕750事業者、〔有効回答率〕61・3%、〔業種構成〕建設業(建築設計含む)26・8%、食料・繊維・木製品・印刷関連製造業9・3%、金属製品・機械器具製造業15・0%、流通・商業20・1%、宿泊・飲食業8・3%、サービス業20・4%。
- 3 持続化給付金(給付額:法人200万円、個人事業者100万円)の売上減少基準は、「ひと月の売り上げが前年同月比で50%以上減少」。家賃支援給付金(給付額:法人最大600万円、個人事業者最大300万円)の売上減少基準は、「5~12月のいずれか1カ月の売上高が前年同月比で50%以上減少」「連続する3カ月の売上高が前年同期比で30%以上減少」。
- 4 主な要件は、「東京都における緊急事態措置等」により、営業時間短縮の要請を受けた都内全域の中小企業、個人事業主が運営する飲食店等。東京都ホームページhttps://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/attention/2021/0107_14118.html
- 5 経済産業省資料によると、「直接・間接の取引」とは「農業者・漁業者、飲食料品・割り箸・おしぼりなど飲食業に提供される財・サービスの供給者を想定」、「直接的な影響」とは「旅館、土産物屋、観光施設、タクシー事業者等の人流減少の影響を受けた者を想定」。