【論文】全国でくり返される米軍機低空飛行の実態―最新の事例と国内法適用に向けた課題

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全国で米軍機による異常ともいえる低空飛行が相次いでいます。各自治体や住民からは中止を求める声が噴出し、国内法適用を厳格に求めていく対応が急務となっています。

くり返される「わが物顔」の飛行

この間、東京都心上空で自由勝手な低空飛行をくり返す米軍機の実態が、『毎日新聞』の連載記事でクローズアップされてきました。同紙は、昨年7月以降、米陸軍の「ブラックホーク」(米軍座間基地配備)とみられる機体が新宿駅周辺の高層ビル群をかすめるようにして飛行する様子や艦載機「シーホーク」(米軍横田基地、同厚木基地配備)が東京スカイツリーの展望デッキ周辺を何度も旋回飛行する様子などをとらえ、日本の航空機であれば航空法違反となる飛行が首都の中心で常態化していることを告発しています。こうした飛行は、実戦訓練とも遊覧飛行とも指摘されています。

「ブラックホーク」「シーホーク」などの米軍機は、おもに港区六本木にある「赤坂プレスセンター」こと「麻布米軍ヘリ基地」に降り立ちます。要人輸送や米軍幹部の移動などのために週に数便の「定期便」が横田基地や厚木基地などの間を行き来しています。港区で基地の撤去運動に携わる「麻布米軍ヘリ基地撤去実行委員会」の板倉博共同代表は「六本木に飛来する米軍機は、150メートル程度の高さで市街地上空での低空飛行を頻繁にくり返している。首都の中心で米軍のこのような行為を許していること自体、日本が『占領地扱い』されているようなもの」と強調します。

沖縄県では、昨年末から慶良間諸島周辺で米軍の特殊作戦機などによる低空飛行訓練が相次いで目撃されています。特に、昨年12月28日には座間味村で「海抜44メートル」と書かれた標識近くの樹木の上をすれすれの高さで通過するMC130J特殊作戦機が確認されたほか、今年2月4日には国頭村辺戸岬で同機が岬に接近して海岸線をなぞるようにして飛行する様子が目撃されるなど、「超低空」での飛行が後を絶たない状況が続いています。これを受け、沖縄県議会では今年2月16日、低空飛行の中止を求める抗議決議と意見書を全会一致で可決しました。

これ以外にも、全国各地で米軍機の異常ともいえる低空飛行が増加しています。

全国での米軍機低空飛行の実態を共有しようと、日本平和委員会主催で4月24日に開かれた「米軍機の低空飛行中止を求めるオンライン全国交流会」では、住民の安全を軽視する形で全国各地の空を「わが物顔」で低空飛行する米軍の実態が続々と報告されました。

▶同じ日に多くて4回は米軍の戦闘機や輸送機が低空飛行を行っている。やっと子どもたちが寝付いた時間に保育園の真上を低空飛行し、怖くて泣き叫ぶ子もいる。(高知・本山保育所保育士、筒井太雅さん)

▶2017年12月7日に宜野湾市の緑ヶ丘保育園の園庭に米軍ヘリの部品が落下する事件があったが、現在はその時よりも低空飛行がひどくなっている。(沖縄・「チーム緑ヶ丘1207」、宮城智子さん・与那城千恵美さん)

▶牟岐町でドクターヘリの離陸直後にそのすぐそばを米軍の戦闘機が通過した。時速200キロメートル近くで飛行し、ほんの数秒差であわや大惨事になっていたかもしれない。(徳島・県南平和委員会、藤元雅文事務局長)

▶浜田市で小学校の学習発表会を中断しなければならないほどの爆音とともに米軍機が低空飛行した。測定値で、電車通過時のガード下の音響に相当する100デシベル超を記録したこともある。(島根県平和委員会、向瀬慎一さん)

いずれの報告も住民の安全を脅かす飛行実態で、危険な低空飛行が全国各地で日常的にくり返されていることを告発しています。

法的根拠のない低空飛行訓練

日本の航空法では、人口密集地で航空機から水平距離600メートル内にある建物の上端から300メートル、それ以外の場所では地面や建物、水面から150メートルの「最低安全高度」が定められています。

しかし、日米地位協定の実施にともなう航空法特例法で、航空法の最低安全高度の規定を米軍に対しては適用除外にしています(表)。2月に沖縄県議会で米軍機の低空飛行への意見書が可決された直後、菅義偉首相は衆院予算委員会で米軍機の低空飛行について、「米軍の飛行訓練は日米安保のために重要」と答弁、岸信夫防衛相も「日米間の合意に基づくもの。本来の訓練区域ではないが、日米安保の目的達成のために重要な訓練と認識している」と述べ、相次ぐ米軍機による低空飛行を追認する姿勢を示しています。

航空法特例法の内容(要約)

出典:『平和新聞』2021年4月5日号から編集部作成

米国では民家の上空など市街地での低空飛行は禁止されています。米空軍が公開している低空飛行訓練についての「ファクト・シート」で、人口密集地の上空での訓練を明確に禁止し、訓練空域も制限されています。その一方で、日本では国内法の規制が米軍には及ばないため、米軍は米本土で実施することのできない実戦を想定した低空飛行訓練を日本の空を使って野放図に行っているのです。

米軍機による市街地上空など訓練区域外での低空飛行は、1980年頃から全国各地でたびたび目撃されるようになりました。この頃から米軍は、レーダーや対空ミサイルによる防空システムを回避するための低空飛行訓練を必要としたためです。

日米地位協定第5条では、米軍施設・区域の間や港と飛行場間の移動が認められていますが、米軍施設外での訓練については明確な規定がありません。1973年に外務省が作成した部内向けの解説書『日米地位協定の考え方』には、「通常の軍隊としての活動(例えば演習)を施設・区域外で行うことは協定の予想しえないところ」とする記述があり、日本政府は、公式には訓練区域外での低空飛行訓練を認めていませんでした。

しかし、米軍機の低空飛行が頻発し始めた後である1983年に出された同書の増補版では「空対地射爆等を伴わない単なる飛行訓練は、施設・区域内に限定し行うことが予想される活動ではなく」と、米軍の低空飛行訓練を日本政府として追認する解釈がとられたのです。日本政府は米軍の軍事的ニーズに合わせ、協定を拡大解釈してきたといえます。

1999年1月に「在日米軍による低空飛行訓練について」と題した日米合同委員会合意が結ばれました。公開された合意文書では、米軍の低空飛行訓練について、日米安保条約の目的を支えるのに役立つものであるとし、「戦闘即応体制を維持するために必要とされる技能が低空飛行訓練であり、日本で活動する米軍の不可欠な訓練」とする原則が確認された一方で、地元住民に与える影響を最小限にする取り決めも交わされました。

本来、日米地位協定では第16条において、航空法を含めた日本の国内法を尊重することは、米軍関係者の「義務」と規定されています。この観点から前出の合同委員会合意では、▶人口密集地や公共の安全に係る建造物(学校、病院など)に妥当な考慮を払う▶国際民間航空機関(ICAO)や日本の航空法が規定する最低安全高度を用い、訓練時は同一の飛行高度規則を適用─など6項目の内容が盛り込まれました。しかし実際には、米軍側の努力義務にとどまり、合意以降もこれを無視するように市街地などでの最低安全高度を下回る低空飛行はくり返されています。

奄美で急増する異常な飛行実態

ここからは、冒頭でふれた東京、沖縄での低空飛行以外で、最近特に大きな問題になっている事例を二つ検証します。

まず一つは、鹿児島県奄美群島での低空飛行です。奄美群島では昨年以降、米軍機による低空飛行の目撃情報が急増。市街地近くで、航空法の最低安全高度を大幅に下回る飛行が相次いで目撃されています。

昨年度に鹿児島県危機管理局が集計した軍用機などの低空飛行等目撃情報は137件(前年度比51件増)で、2006年の統計開始以来、最多を記録しました。県が九州防衛局を通じ在日米軍への照会を依頼した昨年4~12月までの目撃情報89件のうち、83件が「米軍機の可能性」と報告されるなど鹿児島県内では米軍機の低空飛行が常態化しています。

中でも奄美市では急激に増加。昨年度の目撃情報のうち、同市で確認されたものは90件と3分の2に上ります。特に、今年1~3月の目撃情報は55件を数えます。奄美市総務課危機管理室によると、市に寄せられる目撃情報の多くがオスプレイやC130輸送機など米軍機による低空飛行だといいます。

今年2月4日には、米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)に配備されているMV22オスプレイ4機が、市内にある風力発電所の風車(高さ107メートル)より低い高度で飛行する様子が確認されました(写真上)。同日には、市街地近くの山あいをすり抜けるようにして飛行するオスプレイも目撃されています。

同市で米軍機の低空飛行への抗議運動を続ける市民団体「戦争のための自衛隊配備に反対する奄美ネット」の城村典文代表は「米軍機の低空飛行はここ1~2年で急激に増え、最近では漁師の真上を海面すれすれで飛行したり、30~50メートルくらいの高度で超低空飛行することもある。住宅地の近くでは米軍機の飛行で窓が揺れるという声も寄せられ、いつ事故があってもおかしくない」と懸念します。

奄美群島周辺には、米軍によって低空飛行ルート「パープル・ルート」が設定されていますが、近年は米中の緊張の高まりなどで奄美を含む南西諸島での訓練展開が増加し、既存のルート以外での低空飛行訓練も相次いでいるとみられます。

奄美市での米軍機低空飛行の常態化を受け、日本平和委員会と地元の奄美平和委員会などは5月18日、前出のオスプレイ4機が風車より低く飛行する画像や市内の病院の上をかすめるようにして飛行する米軍機の映像を示し、日米合意違反の低空飛行中止を米側に求めるよう防衛・外務両省に要請しました。

両省の担当者は「映像は撮影場所や角度の条件もあり、飛行高度を一概に判断できない」「パイロットの技能維持と日米安保条約の目的達成のため(訓練は)重要」と回答し、低空飛行を容認する姿勢を示しました。政府側の回答は、米軍機が明らかに風車の下を通過する画像を示しても、「住民が撮影したものは証拠にはならない」といわんばかりの対応で、米軍の訓練を保障しても住民の安全は保障しないかのような回答に終始しました。

民間地が米軍のための訓練場に

もう一つは、今年6月30日と7月1日、青森県の小川原湖(東北町)で、横田基地所属のCV22オスプレイが水面上空で超低空の飛行訓練を行っていた問題です。これは、東北町議会議員の市川俊光氏の撮影した映像などにより明らかになりました。

オスプレイは小川原湖の湖面ぎりぎりまで高度を下げてホバリングし、ホイスト訓練(ロープを用いて人員を上げ下ろしする訓練)を行いました。訓練は地元の漁民たちがウナギのはえ縄、刺し網漁を操業する時間帯に行われましたが、漁協に対して事前通告はありませんでした。小川原湖漁協組合長は「低空飛行の影響で船が転覆する可能性もあった。非常に危険な状況だ」と怒りをあらわにしています(『デーリー東北』7月6日付)。

動画投稿サイト・ユーチューブには、昨年9月以降に米軍関係者によって、小川原湖での同様の訓練の様子を撮影した動画が複数回投稿されていました(写真下)。動画の説明では、横田基地の第21特殊作戦中隊司令が「近くの淡水に行って訓練し、作戦に必要な任務に慣れていない乗組員が熟練スタッフと一緒に技術を磨く好機」などと述べ、民間地である小川原湖をまるで米軍の訓練場のように使用している実態が明らかになっています。

地位協定改定で国内法適用を

在日米軍は「日本を守る」ために駐留しているのではありません。米国の国益のための軍事行動を遂行する拠点として、日本国内に駐留し続けています。日本の空は、米軍により蹂躙され続けているといえます。

日本政府は、1999年の日米合同委員会合意における米軍機の最低安全高度基準を少なくとも遵守するよう米側に強く求めるべきです。米軍機の低空飛行を止めさせて無法ともいえる訓練を規制するためにも、全国知事会が提言した「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令など国内法を原則として米軍にも適用させること」が必要です。総選挙に向けた市民連合の共通政策の提案にも日米地位協定の見直しが含まれています。これを早期に実現することがいま求められています。

高さ107メートルの風車より低い高度で飛行する米海兵隊のMⅤ22オスプレイ4機=2021年2月4日、奄美市名瀬大熊の風力発電所で。(写真提供=「戦争のための自衛隊配備に反対する奄美ネット」)
米軍関係者がユーチューブに投稿した、オスプレイが小川原湖で訓練を行う動画。

【注】

  • 1 「特権を問う 米軍ヘリ低空飛行常態化新宿上空12回確認」『毎日新聞』、2021年2月24日付。
  • 2 2月17日、日本共産党の赤嶺政賢衆院議員の質問への答弁。国会で米軍機低空飛行に関する質問が行われるたびに同様の答弁がくり返されている。
  • 3 日米地位協定に基づく米軍の特権について、その運用が協議される機関。在日米軍には地位協定第2条で、日本の「施設及び区域の使用」が認められている。個々の「施設・区域」に関しては、地位協定第25条で定める日米合同委員会を通じて決定されている。
  • 4 2018年4月には米軍三沢基地(青森県三沢市)所属のF16戦闘機が、高森高原風力発電所(岩手県一戸町)の風車(高さ78メートル)間をすり抜けるように飛行する映像が米軍によって公開され、波紋を広げた。これについて米軍は、最低高度基準以下の飛行であったことを認め、「(今後は)日本の航空規則を守る」と地元自治体や外務省に説明した。
  • 5 米軍が日本列島に独自に設定した八つの低空飛行訓練ルートの一つ。最近は、「パープル・ルート」とともに、和歌山県から徳島県、高知県、愛媛県を結ぶ「オレンジ・ルート」周辺での低空飛行が激化している。
  • 6 2018年7月27日の全国知事会「米軍基地負担に関する提言」。
有田 崇浩

1993年生まれ。2018年より『平和新聞』(日本平和委員会発行)の編集に携わり、記者として活動。本年8月より編集長。同委員会常任理事。

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