【論文】「断らない相談支援」が育む連携体制―座間市生活困窮者自立支援事業の実践


生活困窮者の支援には地域との連携や庁内連携が欠かせません。「断らない相談支援」を掲げ、目の前の課題に対応することからはじまった体制構築の経緯等を述べます。

生活困窮者自立支援事業について

座間市は神奈川県のほぼ中央に位置し、おおむね4キロ四方の市域に約13万人が暮らす自治体です。本市では福祉部生活援護課「自立サポート担当」が生活困窮者自立支援制度を担当しています。2015年の制度開始以来、年々実施事業を拡充し、現在は自立相談支援事業(直営窓口)(図1)への「生活困窮者自立支援制度助言弁護士」の配置、「アウトリーチ支援」(委託)の実施の他、任意事業として「就労準備支援事業」「家計改善支援事業」「一時生活支援事業/地域居住支援事業」「生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業」を実施しています。今年6月からはひきこもりサポート事業として「居場所づくり」もはじめました。また本課では生活保護制度も所管し、被保護者家計改善支援事業の実施など、生活保護制度と生活困窮者自立支援制度との一体的な実施にも取り組んでいます。

図1

現在、私たちが「チーム座間」(図2)と呼んでいる地域ネットワークは、「断らない相談支援」を掲げ、①どんな相談もまずは断らずに受け止めて課題に対応していくことで支援の実態をつくり、②課題を顕在化し、③相談支援を通じて生まれた「ご縁から形成された協働によるネットワーク」です。本稿では生活困窮者自立支援制度を活用することで形成されたネットワークの経緯と、このネットワークにおいてコロナ禍での相談支援活動がどう展開されていったかについて述べます。

図2

「断らない相談支援」と「地域連携」

生活困窮者自立支援制度の対象者は「就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者(生活困窮者自立支援法第3条)」とされています。そうした「おそれのある」状態にあるかどうかは、広く相談を受け付け、お話を聞くことからしか分かりません。また生活困窮状況の原因となる課題は複合的であり、その程度もまちまちです。このため、まずはとにかく「相談を断らない」ことを決め、できるだけ早く相談者が窓口につながること、つながった相談を受け止めることを優先に考え、相談現場で見えてきたことを次の展開に活かそうと考えました。

取り組みを進めるうち、制度の狭間に陥った相談者の複合的な生活課題を解決するには行政や制度の力だけでは足りず、地域の方々との連携が必須であることがわかってきました。以下は地域との連携体制が出来上がるまでの一例です。

制度の初年度、制度周知のために支援機関やNPO法人をローラー訪問したことがあり、その一環で「NPO法人ワンエイド」を訪問しました。この団体は当初、高齢者への生活支援を中心に活動していましたが、高齢者のさまざまな生活ニーズに応じていくうちに居住に関するサポートもはじめた団体でした。はじめてお会いしたばかりでしたが、「自分たちの団体も、これまでの取り組みを通じて高齢者や母子家庭等の生活困窮が見えてきており、できることがあればぜひ協力させてほしい」とのお申し出をその場でいただきました。当面の生活をしのぐための食料の確保について苦慮している頃でしたので、ダメもとでフードバンクに取り組んでいただけないかとお願いしたところ取り組んでいただけることになり、それからすぐにフードバンク活動がはじまりました。「NPO法人ワンエイド」との連携はここからはじまりました。

しばらくするとワンエイドと市自立サポート担当とが連携して生活困窮者の入居支援を行うことが増えてきました。生活困窮者の入居支援は、単にアパート等の入居相談を行えば済むものではなく、敷金等の入居時に必要な資金の確保、居住を継続できるための収入の確保、多重債務の解決など多岐に及びます。そうした入居支援の事例を一件一件積み重ねていく中で、支援プランの作成や就労支援等を市自立サポート担当、家計の改善に向けた相談支援を事業委託先の社会福祉協議会、入居相談等をワンエイドが担当し、互いの強みを活かし、それぞれが連携しながら複合的な困りごとを抱える相談者を包括的に支援する「チーム座間」のスタイルが出来上がってきました。

行政や制度だけでは解決できない課題について、地域の方々と連携をしながら解決を模索し、ともに成功(失敗)体験を共有することが地域連携の構築につながっていると考えています。

庁内連携体制と「つなぐシート」

地域の方々との連携により支援方法が増えてきたことで問題解決力が高まり、関係機関・部署から新たな相談が増えてくるようになりました。早期的支援のためには、市役所の機能を活かして相談をキャッチアップし包括的支援につなげることを全庁横断的な仕組みにしていくことも必要です。

本市では庁内に「包括的支援体制構築ワーキングチーム」を設け、全庁的に複合的な困りごとを抱える市民に対して、生活全般に渡る包括的な支援を提供する仕組みを検討しています。ここでは全庁的な取組みの第1弾として開始した「つなぐシート」について説明します。

このシートは自分の相談したい内容を理解して適した相談窓口に行くことが難しかったり、自分の陥っている状況に気付くことができなかったりする相談者を市の窓口業務等で発見した場合に、職員が相談者の同意のもとで相談内容を記載し必要な行政サービスに「つなぐ」ためのシートです。

「つなぐシート」では東京都足立区での運用を参考にしました。実際に足立区に視察に伺ってみると「シート」が取り組みを触媒するツールになっていることが印象的でした。当市においても関わる全員にとってわかりやすいメッセージを伝え、取り組みを触媒するツールとしても「つなぐシート」を用いることとしました。導入後も職員研修や相談チャートの作成等新たな取り組みを実施し、市民の困り事に全庁的に向き合う体制づくりを継続しています。

『つなぐシート』の「担当者記入欄」には、相談内容の15項目が記されてあり、該当するものに〇をつける(複数可、優先度の高いものは◎)。

コロナ禍での対応と新たな展開

2020年春頃から相談現場ではコロナ禍の影響により、「(自営業の)仕事が減っている」「雇用は継続しているが、休業等による減収のため、家賃が支払えず暮らしが立ちいかなくなるかもしれない」といった相談が急増し、対応に迫られました。同時に社会保険・税務・雇用・商業振興・福祉等さまざまな領域でコロナ関連支援策が打ち出され、その情報収集にも追われました。相談支援に関して基礎自治体には、①生活不安に関する相談の受け皿になる、②多岐に及ぶ施策を包括的に市民に届けるハブとなる、③相談現場で気づいた課題から自治体独自の政策形成を行う、といったことが求められていると感じています。

本市では前記の3課題に対し、対象者の属性を問わない(困っている住民なら誰でも対象となる)「断らない相談支援」を掲げる生活困窮者自立支援制度を柔軟に活用しながら対応を進めました。

直営の自立相談支援事業を核としながら、相談に関する庁内連携ツール「つなぐシート」の活用をはじめ、広報誌やSNSを用いた相談窓口の積極的な周知、フードバンクへの相談補助員の配置、市営住宅を活用した住居喪失者の生活再建、社協・地域団体共催によるフードドライブ等、各所属や地域団体が連携し、支援を市民に届けるためのさまざまな取り組みを実施しました。これらはこれまでの「断らない相談支援」の実践の中で培われた関係性なくしては実施できなかったと思います。

*フードドライブ:家庭や事業所で余っている食品を回収し、地域の福祉団体や施設、生活困窮者などに提供する活動。

また、2020年4月には住居確保給付金について、それまで対象者を「離職・廃業後2年以内の者」としていたところ「休業等により収入が減少し、離職等と同程度の状況にある方」も対象とすることで休業による減収への支援が強化されました。本市でも4月の新規相談件数は218件とコロナ禍以前の約5倍に増え、住居確保給付金の申請も急増し、社会保障における住まいに関する支援の重要性が顕在化しました。

住まいに関する支援については、入居相談や給付、補助などによる住まいの確保といったハード面の支援と、確保された住まいでの暮らしを支援するソフト面の支援の2つが求められていることから、2021年6月に「座間市居住支援協議会」を立ち上げました。行政・社協・NPO・不動産事業者などの民間企業も参画するこの協議会をプラットフォームとしながら、対象者の属性を問わない支援について、さらに取り組みを深めたいと考えています。

先の見えない状況が続きますが、今後も一人ひとりの相談に向き合うことから柔軟に支援内容や体制を組み立てていけるかどうか、基礎自治体の姿勢が問われていると感じています。

林 星一

1971年生。東北福祉大学卒業後、社会福祉法人県央福祉会に勤務。知的障がい者の支援にあたる。1999年、株式会社ニチイ学館に入社。介護事業全般に携わる。2006年、座間市役所入庁。生活保護ケースワーカーとして9年間勤務、2015年度から生活困窮者自立支援事業を担当。2019年から現職。社会福祉士。一般社団法人つながる社会保障サポートセンター理事。