【論文】「コロナ禍」の医療崩壊を逆手に取った「地域医療」の縮小・再編を許すな!

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コロナ禍は「天災」ではありません。病床削減、病院統廃合では「地域医療」の充実・強化はできません。「助かるはずのいのちを、助かるはずだったいのちにしない」ために、住民が主人公の「地域医療」を実現しましょう。新型コロナと地域医療の実態を愛知県・岐阜県・全国の事例を通して検討します。

増える「自宅療養」

「新型コロナウイルス感染症」の「第5波」は、厚生労働省が公表している毎週水曜日時点の「現感染者数」(感染者累計-死亡者数-療養解除者数)によれば、9月1日20万7672人となり、「第4波」のピーク時─7万867人の3倍弱にまで感染爆発し、21都道府県に「緊急事態宣言」、12県に「まん延防止等重点措置」を適用する事態となりました(表1)。

表1 「現感染者数」の人数

注:現感染者数=累計感染者数─死亡者数─療養解除者数。厚生労働省発表の感染者数に基づき筆者作成。

そして、「第5波」の最大の特徴は、「医療ひっ迫・崩壊」を防ぐためとして感染急増地域の感染者は「原則自宅療養」とする「通知」が発出されて以降、「自宅療養者」が一気に拡大したことです。岐阜県は「自宅療養者ゼロ」を原則としていましたが、感染者急拡大で「宿泊療養」の確保室数も満杯状態となり「自宅療養」でやむなく対応せざるを得ない状況となり、一時、自宅療養者数が1000人近くまで増加しました。その後、入院確保病床や宿泊療養室数の増加対応を行い、再び「自宅療養者ゼロ」をめざすとして対策を強化しています。一方、愛知県の対応は、当初から「医療ひっ迫・崩壊」を防ぐためと称し、無症状者は「自宅療養」を優先したため、常に現感染者数に占める「自宅療養者」の割合が全国平均を大きく上回り5割前後となっています。「第5波」では9割近い2万人にまで増加しました。本来受けられるはずの医療が奪われるとともに、自宅療養者に対する安否確認・健康チェック、食事や療養物品の提供なども滞る事態を招いています。「自宅療養」の安上がり対応で済ませてしまおうとの意図が見え見えです。全国では、自宅療養者が自宅死・孤独死するという事例が多数報告されています。

予測の甘さが明らかに

厚生労働省は、3月までの「第3波」の感染拡大状況を受けて、新たな「病床・宿泊療養施設確保計画」の策定を都道府県に求め、6月までに計画を策定しました。計画では、「1日最大感染療養者予測」(急増時)の全国合計は13万6818人で、それに伴い「確保予定病床数」3万8301床、「確保予定宿泊療養居室数」4万1979室を準備し、差し引き「自宅療養者」は5万6000人余りの予測となっていました。7月から感染者が急拡大する「第5波」では、「現感染者数」が感染急増時「予測」を突破し、最高時20万7672人と、予測を7万人も超過しました。全国集計では、「入院者数」の最高は9月1日2万4488人、「宿泊療養者数」の最高は8月25日1万9937人で、いずれも「確保予定数」内に収まっています。しかし、それは、「自宅療養者数」が最高5万6000人予測を大幅に超過し、9月1日13万5859人と、2・4倍にも達していたことによります。結局、「1日最大感染療養者予測」を26都府県で超過する感染爆発が全国で起きてしまいました(表2)。

表2 「病床・宿泊療養施設確保計画」(2021年7月16日公表)

注:網掛け部分は予測超過。筆者作成。

本来、政治と行政は「最悪の事態」を想定し対応することが求められています。「第4波」までの感染拡大を教訓とした新たな「病床・宿泊療養施設確保計画」は、事実上の計画破綻を招いてしまい、その結果、多数の「自宅療養者」を生み出し、本来の感染者への対応ができず、感染者の放置・自己管理を拡大しました。一部には「災害級の有事」と称し、対応が後手に回っても、災害と同列視することで責任を回避しようとしていますが、災害であるならば「自宅避難・療養」を原則化することはありえません。これは政治と行政の責任による「人災」です。

「コロナ」なしの「地域保健医療計画」

都道府県の「地域保健医療計画」は、現在「第7次計画」の途上にあり、新型コロナウイルス対応により見直しを1年延期し、今年度中の見直しで、残る2年間(~2023年度まで)の計画改定を策定中です。しかし、その「見直し」で改定されるのは、すでにある計画に記述されているデータ(人口や病床数、4疾患・5事業の指定病院名の変更など)の変更であり、計画策定時には出現していなかった「新型コロナウイルス」のこの1年半に及ぶ実態、地域医療に及ぼした影響などの記述は一切ありません。「計画」は国の方針ではあっても、県が策定する計画であり、県民と地域医療にとって、焦眉の最大関心である「新型コロナウイルス感染症」対応に一言も触れない、今後2年間の地域医療において何の対策も言及しないとは、県民のいのちと健康に責任を持った「計画」とは到底いえません。

着々と進む「地域医療構想」

「新型コロナウイルス感染症」対策においても国および都道府県の責任で対応できていない状況の中であるにもかかわらず、「地域医療構想」の具体化を粛々と進めていることも明らかとなっています。

「新型コロナウイルス感染症」の感染拡大が猛威を振るう中、その一方では、「地域医療構想」による病床削減を中心とした地域における病床運営の見直しが進んでいます。国は2019年9月末に424の公立・公的病院を名指ししたリストを公表し、再編見直しを求めました。そして、それを後押しするとして「重点支援区域」を指定し、これまでに11道県14区域44病院が対象とされ、着々と病床削減、病院再編合理化計画が具体化されています。これまでに具体化された計画だけでも7区域17病院で現行3242床が、12病院2392床へと5病院、850床も削減するという計画となっています。これらの計画が、2020年度の「新型コロナウイルス感染症」対応で全国の医療機関が危機的状況にあった最中に着々と進められていることが重大問題です。「地域医療介護総合確保基金」では、当初から病床削減・機能転換・再編等への設備補助等に優先配分され、2020年度は基金の医療分1194億円の内、約半分の560億円を「地域医療構想の達成に向けた事業」(病床削減・機能転換・再編等)に優先配分するとともに、「重点支援区域」には新たな「ダウンサイジング支援」として84億円を予算措置し、基金の補助基準の1・5倍の補助金支給や計画を進める上でのさまざまな名目補助が具体化されています。そして2021年度予算では、「病床削減法」として194億円の予算が組まれ、病床の「ダウンサイジング支援」は恒久的に保障されることとなりました。補助金は病床削減が大きな目的であり、削減1床当たりの補助単価も、病床稼働率が50%未満でも114万円、最大90%以上稼働率でも228万円の補助金となっています(表3)。そもそも、稼働率90%以上での削減補助金が50%未満の2倍もあり、削減を補助するということ自体理解できません。病院経営に四苦八苦し赤字経営脱却を図ろうとすると、病床削減で補助金をもらって減量経営していこうとする計画を後押しする仕掛けを組み込みました。これは、かつての稲作農業における「減反政策」と似通った、医療分野における「減床政策」といえます。

表3 「ダウンサイジング支援」補助金

注:「単独支援」も「統合支援」も同額。「統合支援」で国の「重点支援区域」指定は1.5倍に増額。筆者作成。

コロナ禍においても地域医療構想を進めようとする政府は、ワーキンググループで「新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた考え方」をまとめました。その中で、「新型コロナウイルス感染症対応が続く中でも、人口減少・高齢化は着実に進み、医療ニーズの質・量が徐々に変化、労働力人口の減少によるマンパワーの制約も一層厳しくなりつつある。よって、今後も質の高い効率的な医療提供体制を維持していくためには医療機能の分化・連携の取り組みは必要不可欠である」として、地域医療構想の実現を正当化するとともに、各医療機関や地域医療構想調整会議における議論の活性化、国における支援強化を結論づけました。

実際、2020年度の愛知県内の「地域医療構想推進委員会」は、コロナ禍の中でも「書面会議」を中心に名指し医療機関への対処方策や、個々の医療機関の病床運営変更の承認、さらには「ダウンサイジング支援」の適用申請承認などを行い、その大半は情報を非公開で県民に知らせることなく計画の具体化・承認手続きを済ませてきました。コロナ対応で、受け入れ医療機関の確保や医療崩壊が問題となっている矢先に、病床削減や機能転換を、補助金をもらって進めてしまうという愚策が秘密裏に進行しているということになります。

①愛知県の場合

愛知県は、今年度の「基金」の予算要求約38億円の内、16億円を「地域医療構想の達成に向けた病床数又は病床の機能の変更に関する事業」として要求しています。病床削減法による病床削減への補助金を1床当たり159万6000円(病床稼働率60~70%)と仮定し試算すると、約1000床を削減する予算規模となります。ましてや、各医療機関が届け出ている「病床機能報告」(2020年度報告)は県全体で5万5786床となり、病床削減を目的とする「地域医療構想」における愛知県の「2025年必要病床数」=5万7773床と比べると1987床も病床が足りないという計画となっているにもかかわらず、約1000床もの病床を、税金を使って削減するという計画となっているのです! 本末転倒な医療施策といわざるを得ません(表4)。

②名古屋市の場合

表4 愛知県の「必要病床数」と2020年度「病床機能報告」との比較表

注:「不明」は休床等。筆者作成。

名古屋市は、2つの市立病院を2021年4月に名古屋市立大学法人の附属病院化する計画を昨年秋の市議会で決定し、市民病院としてコロナ感染対策に専念しなければならない時期に、病院経営本体の大きな変更を準備させられました。市直営病院から大学法人へ移行するということは、職員にとっては、地方公務員の身分から非公務員の公立大学法人職員へ移行させられる重大問題であり、コロナ感染対策で忙しい時に「意向調査」など自らの人生設計にも関わる重大事項の決断を迫られました。利用する患者さんや市民の意見も聞くことなく、「大学病院へランクアップするのだから何の問題もない」という姿勢です。さらに、指定管理者運営されているもう1つの市民病院を、契約期間終了後に市立大学附属病院へ移行させる計画や、市が運営する「厚生院」(高齢者の医療・介護複合施設)の解体を計画する中で、その附属病院を市立大学附属病院化する計画を打ち出しています。市内のコロナ感染対策で病院も保健所も大混乱している最中に、市立病院の経営、運営をどさくさに紛れて市民の議論抜きに進めてしまうという暴挙です。高度急性期医療を基本に運営している大学病院が、現在の附属病院と共に急性期・回復期・慢性期の機能を持つ病院までを附属病院化し、1病院800床を5病院2200床とする大規模化が模索されています。愛知県内の4つの大学医学部は、それぞれが地域へ進出し大規模化競争が起きています。この一連の動きは、目前に迫っている医師の「働き方改革」における労働時間規制の問題や、国も推進している「地域医療連携推進法人」に通じる課題があるように考えます。

③岐阜県の場合

岐阜県では、土岐市にある市民病院と隣接する瑞浪市にある厚生連東濃厚生病院を経営統合する第3地点での再編新病院建設計画が進み、コロナ禍のなかでも「第3地点」の土地の決定や新病院の建設計画具体化を進めています。地域医療構想を踏まえて、両病院の現有病床数は大きく削減される予定であり、市街地から遠くなる未開発の丘陵地への移転に対し、市民からは反対や不安、不便の声が上がっているにもかかわらず、計画決定を強行しました。その経過のなかで、国の支援・補助金が付く「重点支援区域」の指定となりました。

これからの地域医療のために

「第5波」のピークを過ぎ感染が減少傾向を示し始めた中、「第6波」に備え、今こそさらに態勢を立て直し、確保病床も宿泊療養室数もさらに増やし「原則自宅療養」を撤回させ、ゼロにすることが重要です。政府が決めた「骨太方針2021」(6月)での「感染症対応の医療提供体制を強化し、相談・受診・検査~療養先調整・移送~転退院・解除まで一連の対応が目詰まりなく行われ、病床・宿泊療養施設が最大限活用される流れを確保する」という新型コロナウイルス感染症の対策強化方針は何一つ達成できていません。コロナ感染対策の陰に隠れて国民の知らないところで病院・病床を削減する「地域医療構想」の実現はいったんストップし、新型コロナウイルス感染症をはじめとする「新興感染症」に対する地域医療・医療提供体制のあり様も含めて検証できるデータを開示して、地域住民や医療機関の意見を十分反映させた地域医療の計画を、丁寧に時間をかけて策定していくことが重要と考えます。

長尾 実

1959年岐阜県生まれ。愛知県社会保障推進協議会地域医療委員。全医労愛知地区協議会書記長。「424公立公的病院等再編・統合阻止愛知共同行動」事務局長。

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