【論文】コロナ禍2年目 地方自治をめぐる情勢と対抗軸(上)


コロナ禍2年目に入り、住民の命と暮らしを守るべき地方自治体の役割が問われています。これに対して、国は第32次地方制度調査会答申に沿った形で、デジタル化や市場化を最優先した制度や業務の改革、自治体政策を推進しつつあります。現局面における地方自治をめぐる情勢を俯瞰し、住民の福祉の向上を図るための対抗軸と展望を明らかにしたいと思います。


皆さん、こんにちは。今日は憲法と地方自治の視点からコロナ禍での今後の地方自治と地域経済・社会をめぐる対抗軸、そして展望について述べたいと思います。

Ⅰ コロナ禍の波状的拡大と失政の連続

ウイルス変異により第1波から第4波へ

まずこの1年のコロナ禍の波状的拡大の状況を確認し、それに対する国の政治、政策の失敗を鳥瞰します。

第1波の最初の緊急事態宣言の時期、安倍内閣は「アベノマスク」を配布、しかも特定企業に発注して行うという対策をとりました。あるいは世界でPCR検査が大きく展開していく中で、日本ではPCR検査の立ち遅れが問題となりました。さらに夏からの第2波のときにはGoToキャンペーンを強行したことで、感染が地方に波及しました。

さらにその後、菅内閣が発足し、財界からの要求で海外渡航の一部規制緩和を実施しました。そしてオリンピックを意識して国際的な競技会に参加するスポーツ関係者の移動規制の緩和を行いました。しかも、年末まで緊急事態宣言の発令をちゅうちょし、第3波の感染者拡大につながりました。

そして、大阪府をはじめとする自治体首長から行動規制の緩和を求める声が出たことによって第4波が訪れます。第4波の局面では、ワクチン接種が他の国と比べて大きく立ち遅れていることも発覚します。しかもワクチン接種に関しては地方自治体に丸投げし、かつワクチンの供給量に制限がありました。その中でとくに大都市圏の自治体で、オンラインでの予約ができない高齢者の皆さんが大混乱をきたしてしまい、「ワクチン難民」といわれる人々が出てきたわけです。

惨事便乗型政治の横行

このような流れを確認した上で、一体この間、安倍内閣および菅内閣が何をしてきたのかというと、惨事便乗型政治でした。2020年の通常国会で執念深く通そうとした検察庁法案は国民の強い反発で通すことはできませんでしたが、スーパーシティ構想に関わる国家戦略特区法改正案を成立させました。そして、今年の通常国会では、国民投票法の改正、デジタル改革関連法、老人医療費窓口負担2倍化法、病床削減法、重要施設等周辺土地利用規制法を通すために貴重な時間を投入しました。そしてコロナ禍への対応策に関しては時間も費用もかけませんでした。

さらに各種給付事業やアベノマスク等は、民間特定企業に丸投げし、さらに昨年の「アフターコロナ成長戦略」でも、デジタル・ニューディール推進、原発推進、中小企業淘汰策など、一部の民間企業の利益になっても、圧倒的多くの中小企業、小規模事業者にとっては不利になる政策をとってきたのです。

「コロナ失政」の根本的原因

この「コロナ失政」の根本原因は、小泉内閣以来続いてきた新自由主義的な「構造改革」の累積による公共の後退と変質にあります。中でも保健所や公立・公的病院の統廃合、そしてそれを促進した市町村合併、さらに三位一体の改革による公務員削減とアウトソーシング、市場化・民営化の促進が基底にあります。それに加えて安倍政権以降、政官財抱合体制の強まりの中で、「お友達企業」を優遇したり「忖度政治」を横行させ、その中で公共サービスの基本になる公的データ・公文書の改ざん・廃棄が行われたことです。これが政治の科学性、公平性を否定していくことになりました。

失政は地方自治体でも

この失政はじつは地方自治体でも広がっています。その典型が大阪府・大阪市です。大阪府における感染者、とりわけ死亡者の累増が際立っており、感染者の県別構成比を死亡者の県別構成比が大きく上回っています。10年近く続いた維新政治の結果として、保健所あるいは公的・公立病院の統廃合が進行し、救える命も救えない状況が大阪では広がっていったのです。さらに徹底的な公務員の削減と民営化を推進してきた結果、持続化給付金の給付やワクチン接種の遅れが、顕著でした。他方、住民投票によって「大阪都構想」が二度否定されたにもかかわらず、開発行政の推進のために大阪府と大阪市の都市開発組織の一元化を、強行しています。それはカジノや万博を誘致しスーパーシティ構想を実現することが最大の狙いだからです。

Ⅱ アべ・スガ政治は、どのような社会、国と地方自治体像をめざしてきたのか

「自治体戦略2040構想研究会」第2次報告の骨格

最初に、2018年7月の「自治体戦略2040構想研究会」第2次報告の骨格を確認したいと思います。この報告は、増田レポートの「人口減少」「地方消滅」論をもとに、地方自治体あるいは地方自治のあり方の「パラダイム転換」を提起しました。パラダイムとは基本的考え方という意味です。

その第1の柱は、AI(人工頭脳)等の活用で従来の半分の職員で運営できる自治体を作ることです。これを「スマート自治体」と呼びました。このために自治体ごとにバラバラな自治体行政の中身の標準化・共通化を進めるべきだと提起しました。

第2の柱は公共私による暮らしの維持です。あらゆるサービスを供給する「サービス・プロバイダー」から、公共私が協力し合う場を提供する「プラットフォーム・ビルダー」に自治体を変えるというものです。

第3の柱は、圏域マネジメントと都道府県・市町村の二層制の柔軟化です。都道府県や市町村に代わるものとして圏域単位での行政をスタンダードなものにしていくといっています。都道府県の県境を越えた市町村連携も想定しており、これは道州制への一歩と捉えることもできます。

第4の柱として、「東京圏のプラットフォーム」づくりも提起しました。例えば医療・介護、防災に関しては、圏域全体でマネジメントを支えられるようなプラットフォームとなる一つの行政体を作っていくべきではないかというのです。

第1波「収束」局面で登場した政府・財界の「ポストコロナ」戦略

その後2020年6月、第1波が収束したかに見えた局面で、政府・財界は早くも「ポストコロナ戦略」を打ち出しました。ここで、経済財政諮問会議「骨太方針2020」案に対する民間4議員、日本経団連や経済同友会の代表およびそれを代弁する学者委員の提案を見てみましょう。

そこでは第1波でおきた公衆衛生・医療・地方行政における混乱は、デジタル化の推進が遅れていたからだという認識に立っています。そして、デジタル・ニューディールを進め、テレワークの導入による多角連携型経済社会を構築して、とりわけ地方の政令市、中核市で「スマートシティ」を作っていくべきだという提案をしました。一方では、首都圏や関西圏で通勤圏を想定した広域的な行政サービスをさらに展開する必要があるということや、国と地方自治体とのデータ統合とマイナンバーカードをさらに普及・加速化して給付金がすぐに支払えるような仕組みにすべきであるということも打ち出しています。

ただしそのような形で行政投資を肥大化していくと財政的な困難にぶつかります。だから、「経済・財政一体改革」の方針を堅持して資源配分にいっそうメリハリをつけるべきだとも述べています。この帰結が、老人医療費窓口負担2倍化や病床削減です。

経済同友会は昨年6月16日に「新型コロナウイルス問題に対する中長期的な対応方針についての意見」を出しています。ここではさらなるデジタル化の追求で経済成長を図っていく、その際に民間企業の活用を図るべきだと述べています。これこそが惨事便乗型経済政策の推進役である経済界の論理です。

第32次地方制度調査会答申(2020年6月26日)

ほぼ並行して策定された第32次地方制度調査会の答申では、圏域行政の法制化に関しては全国町村会等からの強い反対で、法制化は断念した形になっています。しかし、継続的にこの問題を取り扱うという文言も残されています。それよりも重視したのは第1の柱に相当する行政のデジタル化つまりスマート自治体づくりです。これを進めるために標準化・共同化・効率化のための施策を具体的に提起しました。そして広域連携を推奨し、その中に民間企業の計画段階からの参画を推進すべきであるということも盛り込みました。

けれども、地方創生政策で東京一極集中が加速化し、合計特殊出生率が四年連続対前年比を下回っている問題は全く議論されていません。さらにコロナ対策においての自治体の対応の根本的弱点である、大幅な職員削減による保健所等の機能麻痺、大規模自治体での給付金の遅れ、小規模経営や生活困難者への補償財源の不足問題については何も議論せず、政策的検証もしていません。

菅内閣の下で、デジタル庁設置案をはじめとするデジタル化推進の動きが加速

そして菅内閣の下で、デジタル庁設置法案をはじめとするデジタル化推進の動きが加速しました。デジタル庁はトップダウン的なデジタル集権制を推進する官庁だといえます。トップは内閣総理大臣ですが、事務方のトップは民間出身のデジタル監とされ、500人近くの職員のうち100人以上が民間企業社員で、民間企業に籍を置きながらこの仕事をするという体制を考えています。「行政の私物化」の土壌が形成されていくことは目に見えています。しかも各省庁に指示を出せる地位が与えられ、総務省を通して地方自治体もデジタル庁の管理のもとに置かれます。

さらに、マイナンバーカードと各種カードを結合して、あらゆる個人情報をデジタル庁が集約して、そして民間企業に流通させることによって新たな市場創出を図ることが最優先されています。また、自治体の広域連携を情報基盤や書式の標準化・共通化によって推進し、デジタル化をテコにして地方自治体を国の従属物にする方向になっています。

第32次地方制度調査会答申の具体化

そしてこの1年、第32次地方制度調査会答申の具体化が進行しています。国と自治体の情報システムの共同化・集約化はデジタル改革関連法の一つである自治体情報システム標準化法によって規定されているわけですが、デジタル庁が策定する方針に適合した情報システム、主要17事務のうちじつに14事務が自治事務です。これを2025年度までにガバメントクラウドに移行することが決められています。それによって、各自治体独自の個性的な施策をやろうとしても、それに合わせたカスタマイズが事実上できないようになっていきます。

さらに、マイナンバー制度の普及を図り、個人情報として民間企業が活用しやすくするために、自治体の個人情報保護条例の骨抜きを図る動きが顕在化しました。マイナンバーカードを普及し、マイナポータルによって各種保険、資格、金融関係のデータと結合しながら展開、ありとあらゆる個人情報を一元管理するシステムができます。そして各自治体の個人情報保護条例がいったんリセットされ、国による個人情報活用のための法制に一元化されていく法案が通ってしまいました。

そしてもう一つ、第32次地方制度調査会答申で「地域の未来予測」づくりが提起されました。圏域マネジメントの法制化とも関係しますが、各市町村単位だけではなく連携中枢都市圏および定住自立圏などの広域的な単位で長期にわたる将来推計づくりを求めています。さらに「公共私の参画が不可欠」とし、都道府県や国の補完も強調しています。

経済財政諮問会議における民間4議員の政策提案

今年5月25日には、経済財政諮問会議の場で、先ほどの民間4議員が新たな政策提案を行いました。

提案の第1は、国と地方および地方自治体間の役割分担の見直しと広域連携です。そこでは、検査体制と病院の調整で都道府県や市町村の動きがスムーズに進まなかったので、国の権限を高める方向を地方制度調査会で議論すべきだと明記しています。そして「自治体戦略2040構想」にあった大都市圏における圏域マネジメントの議論が不十分だったと批判し、さらに市町村の広域連携、都道府県による補完に関わる法整備をもっと進めるための議論を進めるべきだとも述べています。

第2は地方財政についてです。地方創生臨時交付金の効果が現れているかどうかを検証すべきだとした上で、感染症収束後には早期に地方財政の歳出構造を平時に戻し緊縮方向に転換すべきだと書いています。

第3に、リモートワーク、テレワークでの二地域居住等に対応した地方行政のあり方の検討ということで、住民票と紐づけた公共サービスのガイドラインを策定すべきだとしています。そして「関係人口」の拡大ということで、テレワークを活用した地方移住促進ももっとやるべきだとも述べています。

そして第4に防災・減災、国土強靭化を見据えた社会資本整備の計画的執行を図るべきとしています。

注目すべきは、第5として、社会資本整備の効果的推進という項目を立てて、デジタル先端技術をさらに活用して、官民一体となってインフラの海外展開を図るべきとだとし、またPPP官民連携事業やPFIが大変遅れているので、大胆なKPI(重要業績評価指標)を掲げて積極的に取り組み、世界のトップランナーになるべきだとした点です。

Ⅲ デジタル改革で住民は救われるか

デジタル改革で潤うのは誰か

このようなデジタル改革で住民が果たして救われるのでしょうか。第1に、デジタル改革で潤うのは内外の情報技術系大企業です。ハード・ソフトの個別情報関連商品の市場拡大をこれらの企業は目指しています。会計検査院が5月末に発表した2018年度の調査結果によると、政府の情報システムの競争入札のうちじつに7割が1社応札でした。つまり、特定企業しかその恩恵を受けないことになってしまっているのです。さらにマイナンバーシステムの稼働率はわずか5%です。

これらの企業群は、国だけではなく地方自治体の公共サービスを大きな市場として捉えています。さらに、TPPや日米FTA、とりわけ後者においてデジタル貿易分野が協定として結ばれました。例えば外資系の情報系企業のアルゴリズムの論理式に不都合があったとしても、日本の公権力、国や地方自治体は介入して公開を求めることすらできない不平等条約です。地方自治体の情報システム分野でも、こういうことが起こってきます。

「儲ける自治体」論と住民サービスの後退

二つ目の柱として「儲ける自治体」づくりがいわれます。「地方創生」の根幹思想でもあるこの「儲ける自治体」づくりによる開発や市場化・民営化の推進で、住民サービスの後退が顕著になりました。これがコロナ禍の中、とりわけ大阪府・大阪市で明確に矛盾として現れたのではないかと思います。維新政治の中で行財政のリストラが保健所、病院等々でも行われ、一般の行政職員も大幅に削減されました。その中で特別定額給付金の給付の立ち遅れが問題となりました。大阪市が給付業務を委託したのは凸版印刷とJTBのジョイントベンチャーですが、この両社は大阪スーパーシティ構想の推進役でもあるのです。

地方自治の破壊

三つ目に、地方自治の破壊という問題があります。

地方自治の規定は戦後憲法で初めて明記されました。明治憲法の下でも都道府県や市町村はありましたが、それらは国の下部組織でした。戦争をするためには大変便利な垂直的な構造です。それで、二度と戦争ができない国を作るということで憲法9条と併せて国民主権と地方自治の規定を盛り込んだわけです。どんな小さな自治体でも国と対等な関係にある、これが団体自治です。そしてその自治体の主権者は住民である。これが戦後の地方自治制度の最も大事なポイントです。

ここで問題なのは「自治体消滅論」を提起した元総務大臣の増田寛也氏が「自治体戦略2040構想」が出た際に『自治実務セミナー』2019年7月号で団体自治の否定論を展開したことです。彼は「住民にとって必要な行政サービスが一元的に提供されれば、その主体は国だろうが、自治体だろうが、あるいは公的な民間組織だろうが、一向にかまわない」。「GaaSが実現すれば、国から独立した地方公共団体が自らの意思と責任の下で自治体運営を行うことを目的とした『団体自治』はほとんどその役割を終えることになる」と述べています。

*GaaS(ガバナンスアズサービス Governance as a Service):移動サービスにおけるMaaS(マース Mobility as a Service AI等を活用して公か民かの運営主体を問わず一元的に運行管理するシステム)の考え方を行政サービス分野にも応用すべきとした山田啓二前京都府知事の造語。

住民自治も歪曲して否定

また、増田寛也氏は、「これからは『住民自治』をいかに機能させていくかが重要となろう。コミュニティ機能を強化し、自分たちで支え合いながら地域を良くしていく」ということが大事だという趣旨の表現をしています。行政サービスを情報化によって効率化していけば、自治体も「団体自治」も「住民自治」も必要がない。そういう形で意図的な混同をし、「住民自治」をコミュニティ活動に限定しています。私は住民主権、国民主権論の実質的な否定ではないかと考えています。

そして、国やデジタル庁が地方自治体を飛び越えて、国民一人一人の個人情報を管理して一元的統治をはかることができる中央集権的な国家体制をつくる。これはまさに戦争ができる国づくりの一環ではないでしょうか。

公務・公共の労働者は、AI・情報技術やシェアビジネスによって代替できるか

「自治体戦略2040構想」では、AIや情報技術が入れば今の公務員の数の半分で行政サービスを行うことができる、あるいはシェアビジネスを活用してやればいいとも書いていました。本当にそういうことは可能でしょうか。日本は小泉構造改革以来の行財政改革の結果として、人口1000人あたりの公務員数は国・地方公務員合わせて先進国中最低の36・7人です。例えばドイツ59・7人、アメリカ64・1人、イギリス69・2人、フランス89・5人です(2016年、アメリカは2013年。内閣人事局調べ)。その結果はコロナ禍やあるいはこの間度々起こる自然災害の現場対応で明らかになりました。しかもAIは過去のデータが蓄積されていなければ役に立たず、さまざまな課題を抱えた人たちがやってくる窓口対応はAIが最も不得意とする分野でもあります。AIの研究者として有名な新井紀子さんや公務労働におけるAI情報技術のあり方を実証的に研究されている黒田兼一さんによりますと、コミュニケーションと現物サービスの提供が公務労働の基本であり、AIや情報技術はあくまでも補助手段で、けっして代替できるものではありません。

また、シェアビジネスを活用するアウトソーシングは別の形の新たな官製ワーキングプアを作り出すだけです。命に関わる公務公共サービス現場においてその時限りの働き手の組み合わせだと、事故が起こる可能性が十二分にあり、公共サービスの質的低下の危険性が高まります。じつはこのシェアビジネスはアメリカにおいてもけっして成長産業ではありません。逆にヨーロッパ諸国は、一度アウトソーシングにした公共サービスを、インソーシングで公共の中に再び取り込む流れにあります。日本のこの間の公共サービスの改革方向は周回遅れも甚だしいものがあります。

国民・住民の基本的人権の侵害

もう一つ、未成熟な技術による国民・住民の基本的人権の侵害という大きな問題が存在しています。AIとかICT(情報通信技術)が完成したものかというと、むしろ未成熟であると考えるべきです。とりわけ個人情報は基本的人権の基礎要件です。これがいったん外に流出すると人権あるいはその人の生涯にわたる生活も破壊してしまうようなことが起こり得る問題領域でもあります。経済成長や生産性を最優先する現在のデジタル改革の基本姿勢は、事故を想定しないですすめて「トイレ無きマンション」建設と批判された原発建設推進政策と同じものです。

第32次地方制度調査会答申に盛り込まれていた各個人データ流通の阻害要因である自治体の個人情報保護条例の改正を、今後強制できるような法律がデジタル改革関連法の一つとして通ってしまいました。

また、日本における個人情報保護についての企業の側の能力が極めて低い、あるいは経営意識が低いことが問題です。今世界で最も個人情報保護ルールが厳しいといわれるのはEの「一般データ保護規則」ですが、このEの個人情報保護ルールをクリアしている日本の主要企業は、日本経済新聞の2019年の調査によるとわずか55%です。さらに、2019年度の政府の個人情報保護委員会年次報告によりますと、個人情報の流出・漏洩案件がマイナンバー関係だけに絞ってもわずか1年で217件に達しています。

私は、個人情報保護は基本的人権と民主主義の前提だと思っています。これをないがしろにするような政治をアベ・スガ政治はずっと続けてきました。アメリカでは個人情報がネックになりローンを組めない「バーチャルスラム」が問題になっています。これを許さない体制を作ることが必要です。

*バーチャルスラム:AIによる信用度などのスコアリング(数値化)によって一度低評価を受けた人が、その後就職や住宅ローンなどで不利益を被ってしまい、結果として社会的に排除されてしまう問題。

(次号につづく)

*本稿は、第63回自治体学校の特別講演を収録したDVDから文字起こしし要約した原稿を、講師が一部補正したものです。

岡田 知弘

1954年富山県生まれ。京都大学大学院経経済学博士後期課程退学。岐阜経済大学講師を経て2019年3月まで京都大学大学院経済学研究科教授。専攻は地域経済学、農業経済学。主な著書に『地域づくりの経済学入門 増補改訂版』『公共サービスの産業化と地方自治』(共に自治体研究社)など多数。