【論文】清掃事業を市民が見えるように捨てたごみの行方とその影響

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市民の関心が向かない清掃事業の全体像

生活で生じたごみを決められた曜日、時刻、場所に出しておけば、いつの間にかなくなり記憶からも消え去ります。よって、ごみがその後、どこに行ってどうなるのかには、それほど関心が持たれません。

以前に次のようなエピソードがありました。東京都板橋区にある筆者の本務校で同区に居住する職員の方と話をしている時にたまたまごみの話になり、排出したごみの行方について尋ねてみました。その方は、「ごみ収集車に積み込み、板橋区が運営する板橋清掃工場に持って行く」と答えました。区が運営する清掃工場ではないのですが、それはいったん置いておき、清掃工場に搬入後はどうなるのかを尋ねたところ、「ごみは燃えてなくなる」と答えました。ごみは燃えてなくならず灰として残りますので、それをどうするかと尋ねると、「清掃工場の敷地に埋め立てる」と答えました。この方は板橋区に住んで十数年ですが、この方に限らず東京23区の住民の中にも同じような回答をする人が多いと推察します。

清掃事業は、①収集・運搬、②中間処理、③最終処分、という流れで進められていきます。しかし、排出者にとって②と③は、身近でなく見えにくいので想像に及びません。よって、清掃事業全体を見渡せるようになるには、①のみならず②と③の現状や、①と②、①と③の関連についても把握する必要があります。これらを知ってこそ、清掃事業を市民が見渡せるようになります。

そこで本稿では、市民の関心がそれほど向かない一般廃棄物の排出後の行方や、排出するごみがどのような影響を及ぼすのかを述べます。そして、これらを前提として、今後市民には何が必要となるかを提示します。

清掃事業の流れ

現在の清掃事業は、可燃ごみ、不燃ごみのいずれでも、①収集・運搬、②中間処理、③最終処分、という流れで進められていきます(図)。

図表_23区のごみと資源の流れ

出典_東京二十三区清掃一部事務組合(2020:1・2)

東京23区の可燃ごみの流れを例にとると、①は、ごみの排出場所に出されたごみを収集して中間処理施設(清掃工場)に運ぶ業務です。②は、ごみをそのまま処分する(埋め立てる)とかさばって非衛生になりますので、清掃工場で焼却して無害化・減容化する工程です。可燃ごみを焼却処理すると灰となり、容積は1/20となります。③は②により生じた焼却残渣の行き先を決める工程です。最終処分場に埋立処分するか、セメントや徐冷スラグの生成のための材料として利用するかを決めます。なお、東京23区から排出されるごみの最終処分地は、東京湾にある中央防波堤外側埋立処分場およびその横の新海面処分場となっています。

東京23区では、①②③の工程を2000年3月末まで東京都が全て担ってきました。23区が東京都の内部団体から基礎的自治体として位置づけられるようにするために、2000年4月1日に清掃事業を区に移管したのを契機として、①は各23区が、②は各区からの分担金で運営される東京二十三区清掃一部事務組合(以下、清掃一組)が、③は23区と清掃一組から委託を受けた東京都がそれぞれ担う形となりました。よって、東京23区の清掃事業は、25(23+2)の地方自治体によって運営が担われる特殊な形態となっています。なお、冒頭で記述した「板橋区が運営する清掃工場に持って行く」との回答ですが、板橋区が運営する清掃工場ではなく、清掃一組が運営する清掃工場が正しい答えになります。

清掃工場の緊急停止

清掃工場に運ばれたごみは焼却処理して減容します。しかし、その際に分別ができておらず不適正排出物が混入されたまま焼却してしまうと、焼却炉を緊急停止せざるを得ないケースが生じ、近年多発しています。

東京23区の清掃工場では、コロナ禍が始まった2020年4月以降、清掃工場の受入禁止物である不燃物(金属類)により、焼却炉を停止させて取り除かなければならない事態が立て続けに発生しました。ごみの焼却炉は基本的に24時間稼働させていますが、それを停止して復旧作業を行うには、かなりの時間や費用がかかるだけではなく、日々のごみ収集にも大きな影響が及びます。その1つを挙げると、操業停止となった清掃工場にごみを搬入していた区側では、他の清掃工場への遠距離搬入が強いられ、定時収集を行うため追加で清掃車両を手配するコストが生じました。

また、水銀を使用している製品(水銀体温計、水銀血圧計)が可燃ごみとして清掃工場に搬入され、焼却炉が操業停止となったケースもあります。この水銀混入ごみによる焼却炉の停止に関わる復旧には、膨大な時間と費用がかかります。清掃一組のホームページでその状況が公開されており、2010年の足立清掃工場では約3カ月で約3億円、2014年の中央清掃工場では約4カ月で2億円もの費用が生じたと公表されています。

これらの復旧費用はどこから出ているのかを認識しておく必要があります。当然ながら私たちの税金です。一部の人が分別ルールに従わずに排出したため、住民福祉の向上に回せていた原資を、支払わなくてもよかったものに使ってしまった形となりました。

ごみの排出と最終処分場

環境省が公表した「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和2年度)」によると、2020年度におけるごみの総排出量は4167万トンで、東京ドーム112杯分にも及びます。そのうち、家庭から排出される生活系ごみが3002万トン、事業から生じる事業系ごみは1165万トンで、私たちの生活から出るごみが全体の約70%を占めています。

それらは中間処理により803万トンまで減容され、そこからセメントやスラグ等で処理後再生利用される476万トンを控除した327万トンと、直接最終処分されるごみ37万トンを合わせた364万トンが、最終処分場に送りこまれる総量となります。これは、一人一日当たりに換算すると79グラムであり、その分だけ最終処分場の残余容量を使い果たしていると見積もられます。

一般廃棄物の最終処分場は全国に1602施設存在していますが、現状の条件の下で埋立てが続いていけば、全国平均で22・4年しかもたない計算になります。この数字だけを見ると、22・4年後にはごみを処分する場所が無くなるため、ごみ収集を含む清掃事業が機能しなくなることを意味します。

なお、東京23区の最終処分場は、今後50年以上の埋め立てが可能と推計されています。全国平均よりも長期間の埋め立てが可能ですが、新海面処分場が最後の埋立処分場であり、その後は23区で処分場を確保するようになっています。しかし、それを23区内に確保するのは現実的に不可能ですので、最終処分場の延命化が現実的な唯一の手段となります。よって、最終処分場へのごみの搬入量を減らすしかなく、ごみの排出量の削減と清掃工場から搬入される焼却灰の削減が処分場の延命に大きな効果を及ぼすようになります。このことをわが事として受け止め、積極的にごみの削減に取り組む必要があります。

最終処分場の延命化策

最終処分場の延命化策として寄与しているのが焼却灰の資源化です。これには3つの方法があり、東京23区では清掃一組によって取り組まれています。

第1は、セメントの原料化です。ごみの焼却処理後には、焼却炉の底に燃えがらとなって残る焼却灰である主灰と、排ガスの中に含まれる煤塵を濾過式集塵器で補集した飛灰が生じます。このうちの主灰を利用してセメントの原料となる粘土の代替原料とし、国内で消費される最も一般的で汎用性の高いポルトランドセメントを製造します。この取り組みは2015年度から本格実施され、2021年度は5万9785トンの焼却灰を資源化し、2022年度は6万300トンの減量化を計画しています。なお、これらのセメントの製造は、全国に所在する11カ所のセメント工場でなされていますので、そこまでの輸送費もかかります。

第2は、徐冷スラグ化です。焼却後の焼却灰(主灰、飛灰、不燃物)を高温で溶融してその後2~3日かけてゆっくりと冷却(徐冷)すると大きな岩状のスラグが製造され、それを粉砕して粒子形状を整える(分級する)ことで、路盤材やコンクリート用資材等に幅広く利用します。この取り組みは2018年度から実証確認を開始し、2020年度から本格実施されています。2021年度は8818トンを資源化し、2022年度は7950トンの徐冷スラグ化を計画しています。なお、徐冷スラグの製造は福島県、茨城県、栃木県、神奈川県、愛知県に所在する5カ所の資源化施設で行われていますので、こちらも輸送費がかかります。

第3は、焼成砂化です。焼却後の焼却灰を資源化施設に運搬し、約1000℃で焼成して無害化した後に粉砕・造粒を行い、人工砂を製造します。この人工砂は下層路盤材や雑草抑制資材として利用されます。この取り組みは2020年度から実証確認を開始し、2022年度から本格実施しています。なお、焼成砂化は埼玉県に所在する資源化施設で行われています。

これらの取り組みに伴って相応のコストが発生します。セメント原料化の予算については、2019年度の約18億円が2022年度には約36億円となり約2倍に膨れ上がっています。最終処分場の延命化には、さらなるセメント原料化が必要になると考えられますので、追加で費用負担を求められる心積もりをしておく必要があります。

清掃事業の「一貫性、統一性・一体性」とその欠如の影響

前述のとおり、清掃事業は①収集・運搬、②中間処理、③最終処分と続いていきますが、これらは事業の特性上、それぞれが単独では存在しません。3つの業務には一貫性が求められ、まとまった一つの事業にならない限り良質な事業にはなりません。その意味で、清掃事業には、一貫性、統一性・一体性が担保される必要があります。

1つの地方自治体が①②③を一貫して担っていれば、②と③を意識したごみの排出が住民に促されていきます。しかし、地方自治体によっては、①のみを担い、②と③は他の地方自治体(一部事務組合)に任せているところもあります。そうなると、自らの受け持つ範囲の適正化が最優先され、また、地方自治体間に組織間の壁も生じるようになり、連絡・調整や連携が十分になされにくくなります。結果、他の工程で問題が生じていても、市民や業務に従事する人々には十分に知らされず、わが事として受け止められなくなっていきます。冒頭で述べたごみの行方がわからない人がいるのも、この点に起因した現象であると考えられます。

一方、分業によって運営される清掃事業からは数々の歪みが生じています。①と②が同じ地方自治体で運営されていれば、清掃工場での緊急停止を防止するようなごみの分別排出を住民に促しながら、清掃職員は注意深くごみを収集していくような取り組みが積極的に推進されていくでしょう。また、不十分な分別に起因する清掃工場の緊急停止でどれぐらいの損失がかかるのか、広報紙等を通じて直接的に住民に伝えられるようになるでしょう。これを東京23区で確認すると、清掃一組は清掃工場の計画外停止の情報を各区に提供していますが、各区側では積極的に区民には伝えていない様相を呈しています。よって、清掃工場の計画外停止・復旧費用と徴収される税金とが直結していると区民には実感されにくくなっています。

また、最終処分場の残余年数を各区が積極的に伝えているとは言い難く、区民の認知度は低いと言えます。各区の広報誌においてごみ減量やリサイクルについては取り上げられますが、最終処分場の延命化の視点から取り上げられるケースはそれほど見受けられません。

一方で、①②③が同一自治体で運営されていれば、最終処分を意識したごみの減量や分別が住民に積極的に周知されるでしょう。また、住民も最終処分場の有限性を前提としたごみの削減を積極的に行う必要性に気づくでしょう。今後は、①②③を一貫して運営するように、清掃事業を広域的に展開していく事業形態が期待されます。現実的な手段としては、近隣自治体同士で一部事務組合を結成して、①②③を一貫して広域的に展開していく形が考えられます。ただしその際に最大限気を付けるべきことは、住民、基礎的自治体、一部事務組合間のコミュニケーションが十分に取られるような事業形態を構築していく必要があります。住民や基礎的自治体の声が事業体に届き、また、清掃に関する情報がしっかりと事業体から住民に伝えられていく仕組みづくりが伴わなければなりません。

清掃事業への市民参加の必要性

清掃事業を市民が見えるようにするためには、当然ながら地方自治体が担当する業務についての情報をしっかりと伝えていく必要があります。しかし、全ての地方自治体が清掃事業の一貫性、統一性・一体性を担保していませんので、断片的な情報しか得られない場合もあります。

よって大切になるのが、自らが排出したごみの行方に関心を持ち続け、清掃事業の全体像の把握に努めていくことです。すなわち、「清掃事業への市民参加」を進めていくことです。清掃事業の全体像が分かれば、排出したごみのその後も分かり、自らの排出行為がどのような影響を及ぼすのかが理解できるようになります。そうすると、今後自らがどのような行動を取るべきか(排出行為をすべきか)が自ずとイメージできるようになります。そして、自治体によって呼びかけられている「ごみの減量と分別」の意味が理解できるようになります。

清掃事業は私たちが衛生的な生活をおくる上で必要不可欠なサービスです。それがいつまでも継続していくように、清掃事業に関心を抱き続け、積極的に参加し続けることが求められています。

    【参考文献】
  • 東京二十三区清掃一部事務組合「平成31年度予算のあらまし」2019年。
  • 東京二十三区清掃一部事務組合「ごみれぽ23 2021」2020年。
  • 東京二十三区清掃一部事務組合「令和4年度予算のあらまし」2022年。
  • 東京二十三区清掃一部事務組合「事業概要 令和4年度版」2022年。
  • 成田有佳「最終処分場の現状と延命化への課題」後藤安田記念東京都市研究所編『都市問題』Vol.113,No.7 2022年 30-38ページ。
  • 藤井誠一郎「エッセンシャルワークとしてのごみ収集」後藤・安田記念東京都市研究所編『都市問題』Vol.113,No.7 2022年 4-12ページ。

  • 【参照WEB】東京二十三区清掃一部事務組合のHP
  • 「清掃工場で受入れできないごみ」
  • https://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/kanri/haiki/kumiai/oshirase/futekise.html
  • 「焼却灰の資源化事業について」
  • https://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/kanri/haiki/kumiai/oshirase/sementogenryouka.html
  • 東洋経済オンライン 藤井誠一郎「ごみを分別しない人に教えたい焼却停止の大損失」
  • https://toyokeizai.net/articles/-/578021
藤井 誠一郎

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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