【論文】一部事務組合に住民の意思を反映させることができるか

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一部事務組合に住民の意思を反映させることができるか

地方自治法第284条2項は、複数の地方公共団体が行政サービスの一部を共同で行うことを目的として一部事務組合を設けることができる、と規定しています。そして、一部事務組合の議会の組織及び議員、一部事務組合の管理者などの執行機関を決めています(第287条=下表)。一部事務組合はごみ処理だけでなく、消防、退職金なども一部事務組合方式で実施されています。

一部事務組合の構造的メリット・デメリット

「一部事務組合内の地方公共団体につきその執行機関の権限に属する事項がなくなったときは、その執行機関は、一部事務組合の成立と同時に消滅する」(同法284条2項)とされているため、自治体の議会でその事項を議論することはでき、影響を与えることはできるものの制約はあります。

また、一部事務組合の議会の議員は、構成自治体の議会から選出されるため、住民が望む議員が組合議員になるとは限らず、民意が間接的になるなど、直接民意が反映されなくなります。

一部事務組合は、複数の自治体の一部の事務を請け負うため、管理者と副管理者から執行者が決まりますが、それぞれ自治体の首長なので、基本は合意の上で施策は決定されます。どちらかが反対すれば決定は遅れるか、成立しません。強引に進めればその後の関係は悪化するでしょう。そこで、どちらからも反対が起きないような無難な施策になっている可能性があります。

地方自治法 第二百八十七条

一方、一部事務組合のプロパー(直接雇用職員)はその分野でほとんど異動がないためごみ焼却の一部事務組合であればその部門の知識と経験が豊富です。地域住民の感覚もわかるようになっています。その潜在力を生かせれば、より適切なごみ処理が実現できる可能性を持っています。

住民のくらしに直結するごみ問題は課題が多い

いま、気候・生態系危機の中で、持続可能な社会の実現は待ったなしです。環境は社会や経済の基盤です。

大量生産、大量消費の経済システムは、大量焼却で廃棄物を消滅させるという処理を続けています。これは資源を大量に採取し、生産に大量にエネルギーを消費し、大量にCO2を排出し、再び大量生産を必要とするという悪循環を繰り返します。この悪循環を断ち切るためには、大量消費を抑制すると同時に、徹底リサイクルで資源の採取を減らすことです。

ごみ減量には、ごみ抑制・資源への分別の徹底など直接、住民生活の見直しを迫ることから、学校教育・社会教育など行政全般の課題でもあり、ごみ行政にとどまりません。

また、ごみ処理の現場から、大量消費の実態も見えてきます。リサイクル方式もその下流を見ると問題も見えます。経済の在り方へのヒントも見えてきます。

ごみ問題を、全体的な行政の分野と切り離して行うことは、多くの情報を無にすることと同じです。従って、できるだけ一部事務組合への事務と割り切って切り離すことは問題です。

ごみ減量、生ごみたい肥化をめざす住民と労働組合による焼却炉建設問題

一部事務組合は主にごみ処理のために行われます。それは、焼却炉の建設・運転という難題に必ず、ぶつかります。この問題に住民は環境を守るためにどう取り組んだか。

〈ダイオキシンの測定をさせる〉

1992年、埼玉県にある久喜宮代衛生組合(以降、「組合」)は焼却炉の老朽化で建替えの時期に来ていました。通常焼却炉の寿命は20年と言われています。焼却炉は75トン/日が2基で、1番目の炉は1975年から稼働しています。この時、ごみが増加するとの予測から150トン/日から200トン/日に拡大する計画でした。しかし、焼却炉建設・建て替えには埼玉県の要綱では、半径500メートル以内の住民の同意を取り付けなければなりません。

この範囲には850世帯の宮代台団地があるので、自治会に対して説明会を開きました。ところがそこで猛反対にあいます。これまで、焼却炉の煙突から焼却灰が降ってきて、ベランダの手すりに灰が積もる、匂いもするというものでした。当時はようやくダイオキシンがゴミ焼却からも出てくるということがわかったばかりでしたが、そのことを勉強した住民が、情報を広め、早速ダイオキシンを測定しろということになりました。自治会からの再三の要求にもなかなか執行部は返事をしませんでしたが、炉の老朽化は進む、建て替えには住民の同意が必要という中で、ようやく行政執行部もダイオキシンの測定を約束しました。

1994年2月、測定の結果が公表されました。排ガス中の濃度は95㌨グラムと高く、当時の厚生省の新設炉のダイオキシンガイドラインの0・5㌨グラムの190倍と、新聞でも大きく取り上げられました。その年の組合3月議会ではこれが大問題となり、議員からもプラスチック分別が提案され、その年の10月から分別が始まりました。

〈ごみ問題の解決の視点からの新設炉建設検討委員会〉

焼却炉の建て替えに団地の自治会から「現在地の建て替えには反対だが、焼却炉の建設には協力する」として、住民参加の「新設炉建設検討委員会」の設置提案がされました。1996年10月、新設炉の規模、位置を決める目的で2年間の任期で第1回目が開かれました。委員会は月2回以上のペースで計64回開かれました。しかし、当初の半年間はこれまでに埋めたごみを掘り返し、ごみが周辺環境に及ぼす実態を全員が目の当たりにするなどして、遅々として進まないようでした。しかし、実はこれがごみ問題の土台を築き、ごみをゼロにすること、焼却しないことが共通理解となったのです。これは、「1.ごみ総量の減量・資源循環型社会の構築 2.燃やして処理するとの考え方からの脱却」という検討委員会の根本課題にまとめられました。

検討委員会は1998年10月、ごみの発生源からなくすという課題への解決にはならないが、リサイクルを大きく拡大するために生ごみをたい肥化し、焼却炉を60トン/日にするとの最終答申を出し、解散しました。国が焼却炉の大型化、広域化を進める中で、この答申は貴重でした。

この間、私たち、組合の現場職員の労働組合は、この委員会を傍聴し、またごみ減量に進むように情報を提供し、委員との意見交換も行ってきました。また、私たちのごみが最終処分場のある県外地域住民に不安をもたらしていることも紹介したところ、この声を発生元の久喜市、宮代町の住民に知らせるべきだとして、1998年12月、搬出先住民を招いての「埋め立てシンポ」を団地自治会の住民と労組の共同で開催しました。120人の参加で盛り上がり、最終処分をできるだけ減らすことが搬出元の責任で、検討委員会の根本課題が正しいとの確信にもなりました。

〈生ごみたい肥化を計画・実証へ〉

さらに、生ごみたい肥化の成功のために労働組合と団地自治会で、生ごみたい肥化先進地見学を行い、1998年12月には団地自治会の住民と労働組合の共催で、農業者、環境団体等の協力も得て「家庭系生ゴミたい肥で有機農業を育てるシンポジウム」を開催。160人が参加し、多くの農家の方がパネリストとして発言し、生ごみたい肥を早くとの声が相次ぎました。それを報告書にして管理者、副管理者に手渡し報告しました。これを受けて管理者は生ごみたい肥化のために、2001年5月から2年間任期で、生ごみたい肥化推進委員会が開始されます。

先の新設炉検討委員会の答申は2001年11月に久喜宮代衛生組合のごみ処理基本計画として「2006年までの生ごみ全量たい肥化」「70トン/日の焼却炉」として結実しました。

生ごみたい肥化推進委員会では、生ごみをきちんと住民が分別できるか、という疑問も出ましたが、ごみの組成分析結果、現場職員である私たちの実態の声で、委員は「それならできる」との確信となり、討議を前進させました。2003年1月から全世帯の25%にあたる約9000世帯がモデル地区として実証に入り、たい肥化推進委員会は解散しました。

一部事務組合であっても、焼却炉建設は関係する地元住民の同意なしにできないので、地元住民の力が方針に影響を与えることができます。また、環境を守る方向での対案も組合職員や学者の情報提供や協力で前進しました。

しかし、2010年に合併し、その後、市長が変わり、2018年をもって生ごみたい肥化の実証は終了しました。現在、ごみ焼却炉を1カ所に統合する建設計画によって、プラスチック、生ごみの分別収集をやめ可燃ごみに一括し、混合焼却の計画が進められています。

疑惑の広域焼却炉建設を止めた住民運動

行田市・鴻巣市の2市による彩北広域清掃組合は、2013年11月、行田市長、鴻巣市長、北本市長がごみ処理広域化に関する協定書の締結、同年12月議会で「鴻巣行田北本環境資源組合」(共同処理する事務の変更及び規約の変更)が賛成多数で可決され、新たな組合議員も各自治体から選出されました。

しかし、建設費が約248億円と莫大なことから、市民は「ごみ処理施設問題を考える会」をつくり、本当に必要なのかを調べていきます。その中で、以下の問題点が明らかになり、宣伝行動を取り組んできました。

①用地選定が不透明 53カ所あった候補地が1カ所削除され52カ所になっていた。

②最初から本命の候補地(鴻巣市内)が決まっていた。「本命よりも点数がよさそうなところについては…評価基準を落とすとか…」などの音声データが見つかった。

③洪水時の浸水深度が考慮されていない。利根川洪水のハザードマップによれば浸水深度が2~5メートルと危険性が高い(図参照)。後背湿地で軟弱地盤。地盤改良、杭打ちなど費用の増加。

図 利根川洪水ハザードマップ(鴻巣市)

▶建設予定地は、消された候補地より浸水が深くなっている(ごみ処理施設問題を考える会チラシより)。

〈行田市長選で計画の見直しを掲げた市長に変わる〉

行田市内では、すでに焼却炉建て替えの用地が確保されていたことから、鴻巣市内への広域焼却炉建設に疑義が出ていました。2018年4月21日に投開票が行われた市長選挙では、広域ごみ処理施設建設計画の見直しなどを掲げていた新人市長が誕生しました。それ以降、建設地などの問題から構成市間で方向性が一致しない状況が続き、2019年12月の正副管理者会議において、2013年5月の基本合意書を白紙とし事業を解消することが合意されました。

現在、行田市では、2021年12月に「行田羽生資源環境組合の設立に関する協議書」が締結され、新ごみ処理施設建設の計画が進められていますが、ごみ減量化の視点から小型化・単独処理をめざす住民の運動もあります。

処理施設建設問題の住民運動は一部事務組合の方針も変える

ごみ処理施設建設は一部事務組合であっても首長を変えるほどの大問題です。広域化によって一見、運動の対象地域が広くなったように見えても、これまでの経験は建設予定地やその自治体住民の反対・改善運動によって方針そのものを変えることができることを示しています。

また、長期間ごみ分野に関っているという組合職員の専門性の潜在力を生かせるなら、ごみ問題の解決の可能性もあります。住民の視点と運動と、組合職員の経験と情報が結合すれば、環境を守るごみ処理が実現できます。

いま、組合業務が民間委託や指定管理になって、職員が管理するという体制が進んでいます。現場と政策部門が分断され、専門性が生かされなくなってきています。現場の経験・情報はブラックボックスとなり、住民に情報が届かなくなってきています。

一部事務組合の持っている力を生かすのか、それとも主体性の発揮できない一部事務組合に終わるのか、事務当局、議会、労働組合、住民の力にかかっています。

木村 芳裕

1971年久喜宮代衛生組合に現場職員として入職し、ごみ・し尿収集職員として働く。1973年、同労働組合結成。 元自治労埼玉県本部の現業担当中央執行委員。 2009年から埼玉自治体問題研究所研究員。 杉戸町環境審議会委員、埼玉県温暖化防止活動推進員、「すぎと環境会議」代表。

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