東京から全国へ
この原稿を2022年9月15日に書いています。9月10日に東京の映画館ポレポレ東中野で公開が始まった本作は、初日、2日目満席札止め。6日目の今日まで75%超えの大入り状態が続いており、みなさんがこの原稿を読む頃には各地でロードショーされています。
よって、原発の運転は許されない。
2014年。関西電力大飯原発の運転停止命令を下した樋口英明・福井地裁元裁判長は、日本の全原発に共通する危険性を社会に広める活動をはじめた。それは原発が頻発する地震に耐えられないことを指摘する通称・“樋口理論”の啓発である。そして原発差止訴訟の先頭に立つ弁護士・河合弘之は、樋口理論を軸に新たな裁判を開始した。逆襲弁護士河合と元裁判長樋口が挑む訴訟の行方はいかに!
一方、福島では放射能汚染によって廃業した農業者・近藤恵が農地上で太陽光発電をするソーラーシェアリングに復活の道を見出す。近藤は反骨の環境学者・飯田哲也の協力を得て東京ドームの面積超の営農型太陽光発電を始動させる。原発をとめるために!
脱原発への確かな理論と不屈の魂、そして若き農業者たちの故郷への思い。原発事故11年目、真実と希望の映画が誕生した!
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本作の目的はタイトル通り、原発をとめることにあります。たいがいのドキュメンタリー映画は世の中で起きている事象を伝えることが目的ですが、本作はその先の目的があるのです。
「映画には社会を変える力がある」僕は大学時代にそう教わりました。今は劇場でそれを実践しているということです。公開初日と2日目にご来場くださったお客様の多くは脱原発志向の方々でしたが、映画の目的を叶えるためには、原発推進派の方々、エネルギー問題に関心がない方々、3・11原発事故が記憶にないような若い方々にご覧いただく必要があります。マーケティングの世界では世論が100万集まれば政治が動き出すと言われているので並のヒットではそれに達しません。超大ヒットさせる必要があるのです。
僕は本作では監督だけではなく、企画、製作、脚本、撮影、編集、主題歌の作詞、ナレーションを担い、さらに宣伝と配給をも担っています。配給とは映画館への営業活動のことで、僕自身が全国の劇場の支配人さんに電話をして本作の公開をお願いしています。9月15日時点で全国21館の公開が決まっていますが、まだまだ増やさなければ動員100万人には達しない。毎日々々SNSの発信や劇場でお客様と触れ合うことで宣伝を強化し、先に述べたような客層を得るための工夫を凝らしています。
ご覧いただければ簡単にわかる樋口元裁判長の脱原発理論。福島の農家さんたちが被災から立ち上がる復活劇。そして農業と自然エネルギーの豊かな共存。反原発映画というと暗く難しい印象がありますが、本作の持つ分かりやすさとユーモアと明るさは、そのままこの国の希望であることがお客様に伝わっていることを僕は今、劇場で感じています。
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本作の公開を決定してくださった劇場からのメッセージをご紹介しましょう。
・素晴らしかったです。樋口裁判官の判決文のごとく理路整然とした語り口で、主張をまっすぐに受け止めることができました。また、時折挟まれる判決文が感動的なまでに清々しく、理不尽な世の中を明るく照らす一筋の光のようでした。
(映画館グループ番組編成担当 女性)
・希望にあふれててうれしくなりました。独立の気概、そして中村哲さんの話。主題歌素敵!ギターソロ最高!「よって、当館は『原発をとめた裁判長』を公開する」。
(映画館主 男性)
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劇場が公開決定の連絡をくださる場合は、たいがい「○月○日から公開させていただきます」というドライなメールでお知らせが来るのですが、本作の場合、先の2つの例のような熱いメールや直接電話で支配人さんが感動の声と共に公開決定をお知らせくださる場合が多いです。
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ところで、どうして僕が何から何までやってこの映画を牽引しているのかというと、資金が潤沢ではないからです。宣伝配給費はクラウドファンディングでご支援を募りました。目標金額を大きく上回る結果でしたが、配給会社に委託できるほどではないので、監督自らが動くことにしたのです。
そもそもの制作資金はプロデューサーでもある河合弁護士が私費を投じています。高級車を買えるほどの金額ですが、それでも足りないので文化庁の支援事業に企画を応募して総制作費の半額を得ました。
国策である原発推進にNOを突きつける映画に支援金を出すとは、文化庁もなかなかのものです。
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原発推進にNOを突きつける元裁判長、弁護士たち。そして太陽光発電農場で原発をとめようとする農家の方々。いわば国策に反するならず者たち総主演、しかも国費で作られたこの映画は本物のパンクムービーだと言えましょう。本当にカッコいい大人たち、本物の不屈の魂をぜひスクリーンで目撃してください。
日本は大丈夫だと確信を持てます。