行政のあり方について真摯に考えるのであれば、「市民の参加」は避けて通れません。門戸を開くだけではなく、積極的に未来を語る人の育て方について語り合います。
中山◎お忙しいところインタビューに応じていただき、今日はありがとうございます。さっそくですが、岸本さんがヨーロッパで水道の民営化とか、再公営化の調査をずっとされてきて、そういう中で今市民に何を問いかけたいのかから、お話しいただけますか?
直営か民営かといったシンプルな分け方をしない
岸本◎私が働いていた「トランスナショナル研究所(以下、TNI)」は市民運動のためのシンクタンクなんですけども、そこでは環境や民主主義、人権、開発、政治、経済、平和などさまざまな問題に取り組んでいます。私が主に10年以上費やしてきたのが、公共財と公共サービスの所有・管理・運営についてで、市民と自治体を含めた公的機関との関係性、その民主化に注目してきました。公共性を担う仕事や役割を、営利の民間企業に任せていこうという世界的な流れの中で、実は日本はヨーロッパなどに比べると、民営化の中には社会福祉法人だとか、共同組合だとか、企業の中でも小規模な地域の企業も入っていたりするので、良い意味でかなりマイルドな方です。
ヨーロッパですと、誰に任せるかと言えばグローバル企業で、介護とか福祉とか、学校の給食サービスなども担っています。ヨーロッパは市場開放されていて、E加盟国27カ国すべてに開かなければならないから、競争入札をすると、やはり大きな会社で、いろいろな経験値も高い会社が入札に勝っていきます。逆に日本では、そのようにグローバル化されていない部分が自治体では多い。そのような中でなんとか公共性が保たれていると私は思っていまして、ヨーロッパや南米では、公共財を営利目的の私企業が運営して、悲鳴が上がっているのを数多く見てきました。
私は特に水の公共性という分かりやすいテーマを中心に据えて10年以上働いていましたが、TNIは、インフラ、地域公共交通なども含め、地域医療や福祉、介護、保育、ゴミやさまざまな行政サービス、警備や清掃を含む公共施設の管理という所まで見て、そういった研究と住民運動を両立させるような組織でしたので、私も運動の現場からもらった情報に基づいて研究をし、その研究の成果を運動に戻していくというような相互作用の中で、お互いを強めていくようなことをやってきました。
中山◎それこそグローバルな大きい企業への民営化と、保育所を社会福祉法人に委託していくような小さな動きまでがあって、それらを全部同じように捉えない。その場その場で判断するという、そのあたりをもう少し教えていただけますか。
岸本◎「直営か民営か」というシンプルすぎる分け方はおかしいと思っていまして、「公益って何か」ということをそれぞれの国・自治体・地域で議論したうえで線引きするべきだと思うんですね。その線引きの仕方は、今のところ日本だと、包括的な民間委託としての指定管理者制度があり、部分的なものとして業務委託。もっと大きくやろうとするとインフラへの資金調達や投資を含む30年といったレベルで管理運営するコンセッションであったりPFIとなります。コンセッションのような民営化は世界中で進んでいますが、自治体にとっては財政的、社会的なリスクが高く、日本は慎重にそこを進めていて、それはむしろ利点だと思います。
乱暴な前提で進められる民営化
岸本◎民営化が自治体にとってリスクが高いということは、区民・市民にとっても高いということですし、かつ地球環境にとっても非常に不安です。だから国際的に民営化に対する見直しが始まっている時に、日本がそれに対して批判的な思考をもっていないのが非常に心配です。なぜなら、基礎自治体は国や都の政策に縛られるところがあるので、私たちが自律的で丁寧な検証をしたり、地域にとってどうしたいのかといった時に、規定や圧力を感じることがある。保育園の民営化を例にみると、「このぐらいは公営でやって、このぐらいは民営で」と、自治体としては経験を重ねながら徐々に進んでいくものですよね。でも、民営にすれば80%くらいの整備費補助が出る一方で、公営だったら100%自治体が費用負担しなきゃいけない、という誘導的な政策を国が取っています。こうなると、自治体は事実上選択肢がなくなり、保育園の民営化について考えたり、地域の声を聞いたりする意欲が薄れてしまいます。
自治体が、自分達の地域の中で何が一番合っているやり方なのかを選択できない。民営化さえすればうまくいく、効率的になる、コストも削減できる、という乱暴とも言える前提が押し付けられていて、しかも線引きについても全然議論できなくなってしまっていると私は思っています。
中山◎保育園の民営化が日本で進み出したのは20年ほど前、小泉構造改革のころからなんですね。民営化には大きな理由が二つあって、一つは民間の方がコストが安い、コストというのは人件費ですね。岸本さんも、あるインタビューで、ケア労働をもっと大事にしなければならないとおっしゃってましたが、残念ながら保育で言うと民間の方が賃金が安くなっていて、それでコスト削減から民営化することが多かったんですね。ですから本来は、保育や介護で働いている人の賃金をどう上げていくか考えないといけないんですが、今は制度がそうなってしまっているので、どうしても安い方向に流れて行くことが多かったんだと思います。
岸本◎その結果としてのコスト削減、それを選んできた国民・市民がいるのも事実なんですよね。 でも気が付いてみたら、自分の子どもの保育環境に跳ね返ってきている。そして自分にも労働者として、保育士として、低賃金や仕事の環境の過酷さといったかたちで跳ね返ってきている。ケアワークはそれが本当に如実ですよね。だからケアする人のケアも含めて、ケアワークを社会の中でどう位置付けていくのか、社会にとっての優先順位を、今のこの時代に考えなければいけないと思います。
中山◎自治体問題研究所では「社会保障の経済効果」を問う出版もしていまして、いわゆる高齢者福祉とか保育など社会保障分野は、普通に考えるよりもはるかに経済効果が高いことが計算上明らかです。ですからもっとそこにお金を使って、そのお金を地域で回すような経済構造を地域で作っていけば、生活も経済にとってもいいと思います。
岸本◎まさに「これだけの投資に対して、地域社会や労働者、そして子ども、高齢者、障害者がどれだけの便益を受けるのか」という経済効果などを数字で出して、それを政治家に渡して政策にしていってもらうという根気のいる作業が必要ですよね。
再公営化を成功させる条件は区民の関わり
中山◎岸本さんは、「再公営化するための条件を端的に言うと、それを求める民主的な運動の力だ」と書かれていたと思うんです。
岸本◎「再公営化を成功させる条件」ということになると思いますが、再公営化は行政判断でできることなんですね。シンプルに契約期間が切れたときに、やっぱり役所自らやったほうが良かったんじゃないかと判断すればいいわけです。しかし、実際にそれをやろうとすると非常に難しくて、なぜなら、その時にはそこにそれを担う職員がいないからです。公共政策に関わる仕事や、過去の調整が必要な仕事、長期的な戦略が必要な仕事というのは、それを部分部分で人に任せてしまうと、自治体の専門性も政策調整能力も政策立案能力も落ちていきます。ですから、杉並区くらいの職員が6000人もいる自治体だったら、自分たちは法定業務を粛々とやっていれば良いんだというところを越えて、戦略的な思考、シンクタンク的な機能を持つべきだと思うし、そういう能力のある職員はたくさんいます。でも、そういう仕事をどんどん外注していけば、職員が育つことはできません。
そして、公共サービスというのは、役所の内部だけで、コストが安い・高いとか、質が良い・悪いとか評価するべきものではありません。実際にサービスを受けるのは区民、市民で、しかもそこで働く人たち、公務員であったり民間の労働者であったりがいるわけで、そういう人たちにちゃんと開かれていて、声を聴かせてもらって、それをさまざまな評価軸で検証できるようなシステムを持っていなければならないと思います。区民等の声が入ってこないと、公共サービスとしての正当性がないし、そうでなければ行政としての判断もできません。つまり成功する再公営化というのは、できるだけ多くの多様な人たちからボトムアップされたコレクティブ(集合的)なニーズと、そのあとにサービスを住民が一緒に作っていこうというコミットメントが必要だと思います。そうした力があって、はじめて再公営化という困難な試みにチャレンジできるのです。
地域サービスは市民が協力しながら作っていく
中山◎例えば物を買うという場合、市民は店を自由に選べると思うんですが、公共サービスというのは、図書館や学校とか保育所も普通はだいたい家の近くの所に行く人が多いと思うんです。ですから公共サービスというのは、ある意味、地域の独占的なもので選びにくい。そこで我々が言っているのは、参加することで直接ニーズを伝えていくしかないということです。だから、区でしたら区長とか区議を選挙で選ぶとか、陳情などを通じて区民の考え方を直接伝えていく参加を保障すべきであって、行政が市民ニーズにちゃんと応えられていないのは、参加の仕組みがきちんとできていないからだろうと私たちはずっと主張してきたんです。先ほど再公営化を成功させるためには民主的な手続きが重要だと言われましたが、行政が区民の声を反映させていく仕組みがきちんとできていないと、民間に任せようという方向に流れかねないという気がしますね。
岸本◎おっしゃる通りだと思います。先ほど言ったコンセッションのような民営化は、最後の最後の選択であるべきで、よほどそれが素晴らしいという確証がないとやってはいけない。その前に民主化という選択肢があるわけですね。この民主化というのは、お任せじゃなくてみんなでやらなきゃいけない分、難しい。けれど、そこはめんどくさがってはいけないところだと思うんです。公共サービスって、地域独占でありながら税金を使うという正当性が認められているわけですから、これは情報公開をして、みんなで意見を出して、時には手足を動かしてより良くしていくということが必要で、そのやり方の選択肢は無限にあります。
競争がない独占状態の民間の反応の悪さは如実ですが、もっとも恐ろしいのは、問題が起きた時に情報公開すら求められないケースが生じることです。企業というのは、情報公開することを必ずしも最優先としていませんし、それが市民の権利だと言っても、大きな関心を払うわけでもありません。問題が起きて「これ、どうなってるんですか」と聴いたときに、私たちに何の強制力もないということが起こり得ます。これが区民に説明責任を担保できないリスクです。
ケアワークなどが特にそうで、例えば保育とか介護の現場で、虐待などの事件が起きた時に、それを解明しようにも、独立した事業者なので公権力が及ぶ範囲は限られてしまいます。行政との関係性が良好に保たれている介護施設などの事業体は良いと思うんですが、オーナーが誰だか分からないような国際的な投資ファンドだったりすることもあります。すると、何か問題が起きた時に住民も行政も顔の見えない法人とやり合わなければいけないという事態が生じ得ます。国際弁護士を立てなきゃいけないみたいなことになっていくんです。日本ではまだ起きていないのかもしれませんが、ヨーロッパではすでにそういうことが多々起きています。民営化の延長線にはそうしたリスクがあることを考えると、その前に民主化の道、地域でのサービスをみんなで協力しながら持続可能な方向で作っていく、そこで行政がリーダーシップを発揮する、そんな道を探った方が、私は絶対に幸せだと思っています。
「市民の参加」は避けて通れない
中山◎私は専門が都市計画で、都市計画というと「ビルを造ったり道路を通したり」を連想するでしょうが、我々都市計画をやっている者が最終的に目指しているのは「人づくり」なんです。地域に関心を持ち地域をよくするためにがんばろうという人をどれだけ作れるか、それが我々の最終目標なんですね。ではどうやったらそういう人が作れるかというと、人間って関わらないと関心を持たないし、そのためには行政が市民の参加を保障していくことがどうしても必要です。行政が市民の参加を促して、市民がまちづくりに参加する、そしていろいろな情報が出てくるので議論する、その中で市民が関心をもって主体的にまちづくりで動いていくとかね、そういう関係があると思うんです。
だから行政が「参加して欲しいのは賛成している人だけでいい」とか言い出すと、なかなかまちづくりの主体としての市民が成長しないという気がしていましてね。そこに住んでいる市民の自治能力を高めることが、行政の最終的な目的じゃないかなと思うんです。そのためには参加というのは不可欠で、それは避けて通れないと考えています。
岸本◎私も共通の問題認識で、実際に区長になってからこの半年間、私なりに先生のおっしゃった市民・区民の交わるインターフェースの仕組み、それを参加と言っても良いのですが、それをどういうかたちにするか、それが重要だなと思ってきました。議会という最重要なチャンネルはもちろん必要です。しかしそれ一辺倒ではなく、多様性があっていい。まちづくりで言えば、杉並区は大きく分けて7地域あるんですが、そのそれぞれで区民の主体性を発掘していく、アクティブな人を増やしていく、そんな仕組みづくりですね。自分達の関心事について十分にものが言える、言ったことが響いて反応が返ってくる、そのやりとりが半永久的に続いていって、そうした中で政策が作られていく。学生さん、子育て中の人、仕事をリタイヤした人など、ライフステージに合わせてそれぞれのチャンネルを作るといったデザインも必要です。
国も最近、公民連携でのプラットフォームづくりといったことを打ち出していますが、それは住民ニーズがあまりにも多様化して、行政だけで計画一辺倒のやりかたで解決しようとしても限界があるからです。「公」を行政だけが担うものとしてとらえず、もっと広くとらえて、そうした力をまちづくりや地域の課題解決に生かすことを前提にデザインしていく、そういうことなのかなと思います。
「市民参加型予算」と「地域化」
中山◎「市民参加型予算」を検討されているそうですが、どういった内容でしょうか?
岸本◎まさにそれが「参加」というチャンネルの一つです。人って先生がおっしゃったように、「参加してください」と言えば「わかりました」とすんなり参加してくれるわけではありません。自分がエネルギーを使ったことに対する結果が見えて、人は初めて参加するわけで、その分かりやすいやり方の一つが、参加型予算です。元々、貧困をなくすための投資予算のあり方をめぐってブラジルの自治体から始まったものです。一般的には市が大きな計画を立てて進めるんですが、貧困問題というのは地区によって事情がそれぞれ違うので、画一的な政策に限界がありました。「自分の地区で何をやるのが一番解決につながるのか、そこに住む人が一番よく知っている」という考えで、ポルト・アレグレ市で提案を募ったわけです。それで住民から考案された小規模な貧困対策を実行していったら、そっちのほうが成果があがった。これがルーツになり、いろいろな分野に広がって、例えば貧困対策だけじゃなくて、ここの道路を直したいとか、小さな公園の遊具を追加したいとか、地域の人だから知っている、地域の人だから解決したいというところまで提案をもらうようになりました。仮に提案が500出てきたとして、その中で明らかに公益に反するものは除いて、予算を考えて100に絞っていこうと投票をするんですね。そうするとそこで選ばれた事業は、より多くの人が賛同することで正当性が高まっていく。それらについて投資予算のごく一部を割り当てて執行しようというのが参加型予算です。
この重要なところは、予算の大きさよりも、提案する、選ぶ、そして執行される、それが地域に戻ってくるという、そうした体験をすることによって、住民の地域に対するオーナーシップだとか、自治体に対する信頼が高まっていくというところです。
中山◎「自分が提案したら地域が変わる」という可能性が分かってくるだけでも全然違いますよね。岸本さんがおっしゃった、「小学校区単位にたくさんの公共施設があるのが杉並の良さの一つだ」というのが記憶に残っているんですが、特に地域に公共施設があるというのが私たちまちづくりの専門家から見ると極めて重要だと思うんですけども、そういう杉並の強み、歴史的な良さ、そこに着目していろいろなことを考えるのは良いなという印象を持ちましたね。
岸本◎各小学校区にほぼ児童館があり、それに近い間隔で高齢者の居場所があるというかたちが、昭和40年代から杉並に作られ、今に引き継がれてきました。とは言え、確かにニーズとか人口構成も変わり、そのままでいいというわけではないと思います。公共施設は、私は重要な役割を担っていると考えていますが、人によっては「使う人だけお金を払えばいい」とか「施設が多すぎる」といった意見を持っています。維持、更新のための費用が決して安くないから、「公共施設は無駄だからできるだけ削減した方がいい」とか、床面積を小さくしたり、公務員を減らしていったりというような力学になっていきます。しかし、それはとても不幸なことだと思います。もっと使いやすくするとか、運営を地域社会に開いていくとか、いろいろな改革があると思います。建物を建て替えるなら、ただ安いものをつくるといったことではなくて、最先端の、例えばゼロカーボンの建築をつくってデータの収集や情報の発信、教育のツールにしていくというような戦略的な考えを持つことも重要です。杉並区では、公共施設は“自治のゆりかご”だと思っている人が多くいます。しかし、それは割と高齢の方の感覚で、現役で働いている世代にはあまり受け継がれていないと思います。だからそこは新しい魅力を発信していかないといけません。
それから、スポーツ施設も非常に重要です。現代社会において心身の健康ということを考えるのであれば、自治体が積極的にこれに投資をしていくのは、私は時代の要請だと思います。市民の健康寿命が延びて、仲間がいて孤独に陥る人が少なくて、病院に行く回数が減るような地域をつくる。そのための手段として公共施設を位置づける。そんなふうに政策を考えていきたいと思いますね。
中山◎そうですね、ヨーロッパに行くと、家の近くで気軽にサッカーをする場所がちゃんとありますもんね。日本では、スポーツをしようと思ったらどこかを予約して借りなくてはいけないですから。
今のお話を聞いていて、むしろまちづくりの立場から言うと、民営化よりも私は「地域化」と呼んでいるんですが、公共の機能をもっと地域に分散させてゆくような改革、杉並だったらさっきの7つのブロックとか、さらにできれば小学校区くらいに行政のいろいろな権限を分散させていって、市民のニーズを把握して、それにピタッと合った政策をする、それが「地域化」だろうと言っているんですね。
岸本◎すごく分かりやすいですね。先生から今日は何度もキーワードをいただいていますが、大学の先生にもっともっと地方自治体の政策立案にかかわっていただきたいと思いますね。
中山◎杉並であれば区内に大学もありますしね。
岸本◎本当にありがたいことで、区内に大学もいっぱいあるし、区内在住の大学の先生も多いんですよね。だから私が区長に就任してから、私の今までの仕事や考えに反応して、たくさんの大学の先生が本や論文を送ってくれたりしています。専門家としての知見は本当に重要で、区役所に学者がいるわけではないので、ぜひ、大学の先生などに助けていただきたい。「気候区民会議」はいい例で、区民が専門家の方に教育を受けて、知的な専門性に助けられながら地域での気候変動に対する政策を主体的に考えてゆく、そんな新しい作業になります。私にとってはこういうことが行政改革だと思っています。
中山◎行革でいうと、岸本さんご自身、女性の幹部や審議会のメンバーに女性を増やすとおっしゃって、パートナーシップ条例などいろいろな提案をされていると思いますが、そのあたりもご説明いただけますか。
岸本◎審議会の構成員に一つのジェンダーが40%を超えないということはすでにいろいろな自治体でやっていますが、審議会の委員は主に外部の方にお願いするので、新しく審議会を作る時やメンバーが変わる時にこうしたルールで構成することはできます。しかし、職員となると公務員なので、試験制度などのさまざまなルールがあって、区役所の女性の管理職なら15年くらいかかる仕事かなと思っているんです。
元鳥取県知事の片山善博さんから県庁のジェンダー平等を推進したときの経験をうかがいました。女性が仕事の場で与えられているチャンスは男性よりも少ないので、積極的にチャンスを提供する必要があります。チャンスというのは昇進という意味だけじゃなくて、キャリアを積むためのトレーニングのチャンス、いろいろな仕事をやるチャンスという意味で、当時、女性が少ない職場は企画とか総務、財政だったようですが、若いうちからそういったところで働くチャンスを持ってもらって、年数を重ねて自分はやってきたんだという自信をつけてもらわなきゃいけない、というお話でした。私は、そういう気の長い丁寧な取り組みの必要があるのが、区役所の中での管理職におけるジェンダー平等だと思います。それにこれは管理職の話だけではありません。杉並区は「ハラスメント・ゼロ宣言」をしたんですが、これにも関係していて、ハラスメントがない、物事が言いやすくて働きやすい環境をつくれば、女性がどんどん働きやすい職場になっていくと思います。
余裕があって創造力の生まれる公務員に
岸本◎パートナーシップに関しては今まさに渦中にあります。パブリックコメントをやっていまして、その募集期間中に説明会も2回やるんです。説明会は私も出席させてもらっています。
新しい未来志向の地方自治を考えた時に、私は「多様性×(かける)」という掛け算をしたいと思っているんです。「多様性×脱炭素×ケア×地域経済」みたいな。多様性というのは多様な人が生きやすい社会として、これは杉並区の基本構想でもうたっていることですし、これに反対する人は基本的にはいないと思いますので、そういう幸せを増やす作業はどんどんやっていきたいですね。
中山◎杉並も着実に変わっていってるんですね。
岸本◎いやいや、まだそこまでは。まだ発芽もしてない状態で、それこそ土づくりをしているところです。土づくりというのは、人づくりであり、行政と市民のエンパワーメントのループです。そしてその土づくりをしながら種を播いていく、その種を播く人がどんどん増えていく、みたいな地方自治だったり地域だったらいいなと思いますね。
中山◎最後に一つ、自治体問題研究所は自治体で働く人がたくさん会員に入っているんですが、自治体で働く職員に対して何かメッセージなどありますか。
岸本◎いっぱいあります(笑)。短くまとめると、自治体で働く方は土木分野などで働く人も含めて重要なケアワーカーだと思っています。というのは、地域社会で生きる人をケアするという共通の使命を持っているからです。公的なセクターが削減の対象となっている世界的な風潮の中ではありますが、誇りと自信を持ちながら、地域社会にどうなって欲しいのか、一人ひとり考えながら働いてほしいと思います。そして、そのための想像力やクリエイティビティ、戦略的な思考が生まれるような余裕を持った公務であってほしいと願っています。
中山◎まだまだうかがいたいことはありますが、またぜひ次の機会には地球環境の話など引き続きおうかがいできればと思います。今日は長時間ありがとうございました。
(2022年12月21日、オンラインにて)