【論文】全国アンケートから見えた自治体職場における会計年度任用職員制度の問題点

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 「官製ワーキングプア」と社会問題化した非正規公務員の実態、その処遇改善策を目的のひとつとして制度設計されたはずの会計年度任用職員制度。自治労連がとりくむ「つながる・つづける・たちあがる 誇りと怒りの〝3T〟アクション」の進捗と、初の全国規模のアンケートとなった「ほこイカアンケート」結果からみえた「おかしなこと」、アクションで動かしはじめた情勢などを紹介します。

つながることで動かしはじめた情勢、施政方針演説にも大きな変化が

 岸田首相は、2023年1月23日の通常国会にあたっての施政方針演説の中で、①公的セクターで働く方の賃上げ、②希望する非正規雇用の方の正規化、③出産を契機に女性が非正規雇用化する「L字カーブ」の解消、④喫緊の課題である男女間の賃金格差の是正に言及しました。抜粋した施政方針の内容は、このレポートで紹介する自治労連「ほこイカアンケート」結果から見えた会計年度任用職員制度の「おかしなこと」を変えていくポイントと多くの点で合致した内容となっており、政府に確実な施策の実施と対応を求めていかなくてはなりません。自治労連のアクションが政府をも動かしはじめています。

地域別最賃以下NO! 年末の「総務省通知」が持つ大きな意味

 2022年12月23日、総務省は「会計年度任用職員制度の適正な運用等について(通知)」を発出しました。この通知は、①「空白期間」の適正化、②適切な給与決定、③適切な勤務時間の設定、④再度の任用について、⑤その他(勤勉手当の支給検討状況)を柱としています。そのうち、②適切な給与決定に係り、総務省は「地域の実情等を踏まえ、適切に決定する必要があること。その際、地域の実情等には、最低賃金が含まれることに留意すること」と言及しました。これにより、最低賃金法の適用除外を理由に少なくない地方自治体で地域別最賃を下回る雇用が横行するもと、行政による「最低賃金以下での雇用」を改めさせることに道を開きました。

④再度の任用に係っても、地域の実情に応じた対応が示されたこと、総務省マニュアルにある国の取扱い例示の表現が、従前の「2回まで」が「連続2回を限度とするよう努める」へと改められたことが特徴です。これにより、今年度末での雇い止めによる公務の継続性の危機、いわゆる「3年目の壁」問題の解決に向けた糸口をつかむこととなりました。

通常国会に法案提出 24年にも「勤勉手当」が支給可能に

総務省からの通知や地方自治法の壁に阻まれ続けてきた「勤勉手当(相当額)の支給」についても、この通常国会に関連規定を盛り込んだ地方自治法改正案が提出される見通しとなりました。2年にわたる要求署名の提出、職場での運動の推進、幾度にもわたる記者発表での当事者による訴えなど、アクションで切り開いた確かな一歩です。物価高騰が続くもと、一日も早い地方自治体での反映に向けたとりくみをすすめていかなくてはなりません。

わたしたち自治労連のとりくみと、声をあげた当事者の思い、マスコミ等による発信など、「おかしなこと」を変えるための大きな一歩を踏み出しました。

声をあつめて!誇りと怒りの“3T”アクション

自治労連では、2022年春から会計年度任用職員の雇用の安定と処遇の改善をめざし、「つながる・つづける・たちあがる 誇りと怒りの“3T”アクション」にとりくんでいます。きっかけは、まったく期待外れだった会計年度任用職員制度の前に、「声をあげたくても、あげる場所がない!」「雇用が心配で声もあげられない!」といった、当事者からの不安と不満の声でした。

そこで、制度運用から3年目を迎えた今年度、総務省がマニュアルで示した公募によらない再度の任用の上限、全国の自治体で「3年目の壁」の集中が予想されるもと、会計年度任用職員の声をきちんと受け止めたい!つながって理不尽な制度を変えていこう!そんな思いを込めて、全国の会計年度任用職員を対象とする「全国アンケート」から、このアクションをスタートさせました。

ゆがめられる「公共」、女性労働に依存するいびつな「制度」

地方自治体ではこの30年余りの間に、正規職員が55万人余りも削減されました。それに反比例するように、置き換えられたのが非正規公務員です。そもそも、人件費削減を目的としているので、劣悪な処遇は、「官製ワーキングプア」と指摘され社会問題化しました。そのうえ、行政がその低い処遇に押し込めたのは、主に女性労働者でした。

批判を受けた国も、地方自治体に働く非正規公務員の処遇の改善を行うことに着手します。そうした背景のもとで、地方公務員法および地方自治法を改正して生まれたのが「会計年度任用職員制度」のはずでした。

当初、「非正規公務員にもボーナスが支給されるようになる」「安定した雇用のもとで住民のために安心して働きつづけられる」との期待の声があがりました。

しかし、「会計年度ごと」の任用がことさら強調されたことで、年度末のたびに寄せられる「雇い止め」の相談、業務に見合わない低い賃金水準、意図的に15分だけ勤務時間を短くする脱法的な運用など、制度が始まって3年を迎えようとしている今、その期待は見事なまでに裏切られています。

このような制度の不備を是正する抜本的な見直しを、国や自治体に求めるためには、全国的な「基礎データ」が必要となります。同時に当事者の“不安と不満”の声もきちんと受け止める必要もあると考えました。声をあげたくてもあげられない!不安定な雇用に怯えながら住民と向かい合っている!なくてはならない存在となっている会計年度任用職員の皆さんに、一人ずつ声を掛ける思いでアンケートにとりくみました。

大きな反響と寄せられた2万2401もの思い

アンケートでは、これまでの労働組合の運動ではつながることがかなわなかった皆さんからも、「職場では声をあげられないけど、オンラインアンケートならわたしにもできる」など、想像できなかったつながりとドラマを実感することになりました。その結果、9月30日の締め切りまでに寄せられたアンケートの回答は2万2401件にものぼり、当事者である会計年度任用職員のアクションへの期待と関心の高さを実感しました。会計年度任用職員は声をあげる機会を待っていたのです。

86%が女性 6割が年収200万円未満

アンケート結果が詳らかにしたものは、なんといっても、この制度が女性労働を前提にした、いびつな制度であることです。正規職員の男女比が6対4であるのに対し、なんとアンケート回答者の約86%を女性が占めています。

アンケート回答者

回答者の職種は多岐にわたります。なかでも知識と経験の蓄積が欠かせない保育士や図書館司書、消費生活相談員などといった職種にまで会計年度任用職員が従事していることがわかります。それゆえ、全体の6割近くが5年以上継続して働いていると回答しています。このことから、地方自治体で働く職員には、そもそも「会計年度ごと」の任用がミスマッチであることがわかります。

そのうえ、回答者の6割が年収200万円未満と回答しています。重ね合わせてみると、経験が給料に全く反映されない制度的欠陥が浮かびあがります。

アンケート回答者の勤続年数

行政が「ワーキングプア」の労働者と家族をうみだす制度(勤続1年以上の方への質問)

私たちが、特に注目したのは「単独で生計を維持している方」が、全体の4分の1もいたことです。さらに、その内、約半数の方が年収200万円未満の「ワーキングプアの水準」であることもわかりました。行政が、地域にワーキングプアの労働者とその家族をうみだしています。看過することができない結果です。

2021年1月~12月の収入(年収)は?
主たる生計維持者は?
主たる生計維持者を「自分」と答えた方の2021年1月~12月の収入(年収)は?

行政による「やりがい搾取」の象徴

約9割の人が、住民と日々接する仕事にやりがいと誇りを感じながら働いていると回答しています。その一方で、改善を求める項目の1位から4位までを、賃金を上げてほしい、一時金、経験の反映、退職金がしめました。物価高騰がすすみ生活が苦しくなる中、まさに行政による「やりがい搾取」ともいえる状況が浮き彫りとなっています。

仕事のやりがい・誇り
あなたが改善してほしいことは何ですか?(3つまで)

「3年目の壁」…雇用に怯える実態

 今回のアンケートでは、誇りや怒り、不安や不満を自由記述で集めることとしました。

回答用紙にもぎっしり、オンラインでも多くの書き込みが予想以上に集まりました。

なかでも多かったのが、「雇い止め」に対する怯えと、不安定な雇用を前に「声もあげられない」不安や怯えについてでした。とりわけ、安定した行政サービスを住民に提供し続けるためには、「3年目の壁」問題への対応は待ったなしだと確信する結果となりました。アンケート結果と寄せられた声を見れば、会計年度任用職員制度は「おかしなこと」ばかりの制度であることが一目瞭然です。

「おかしなこと」を変えてゆくため 自治労連の緊急提言

それでも、ほとんどの会計年度任用職員が口にするのは、「住民のためにいい仕事がしたい」「子どもたちの笑顔には代えられない」といった仕事へのやりがいと誇りです。その思いを実現できる制度に速やかに変えていかなくてはなりません。

直ちに変えなければならないことの一つは、最低賃金法の適用除外であることに悪乗りして、「地域別最賃」以下で会計年度任用職員を働かせている地方自治体の実態です。そういった対応を直ちに改めさせ、地域にワーキングプアの労働者と家族をうみださないようにすることが重要です。

二つ目は、会計年度任用職員の給与とボーナスの取り扱いについてです。昨年の臨時国会で国家公務員の給与法が改正されました。国の非常勤職員も「勤勉手当」分と月例給が引き上げられます。また、月例給は「4月にさかのぼって改善されるよう徹底したい」との河野大臣による国会答弁もされています。しかし、地方自治体では「勤勉手当」がないことを理由に、ボーナスを引上げない、月例給改善の実施時期を来年度からとする自治体がほとんどです。引き下げる時は国との均衡を持ち出し、引き上げは渋る、全くご都合主義の対応と言わざるを得ません。物価高騰は賃金水準の低い会計年度任用職員ほど深刻です。この実態を変えていかなくてはなりません。

三つ目は、国際的にもこの国の「男女の賃金格差」が指摘されています。自治労連は会計年度任用職員制度ほど、「ジェンダー不平等」の象徴のような制度はないと考えます。男女賃金格差の公表も、実態を正しく反映するとは思えません。やはり、行政が率先してこういった不平等な制度を「ジェンダー平等」の観点からも改めていくべきです。

まだまだ、これ以外にも変えていかなくてはならない「おかしなこと」がたくさんあります。動かしはじめた情勢に確信を抱きつつ、着実かつ確実に制度を改めさせていくためには、これまで以上に、つながること・つづけること・たちあがることが必要です。

自治労連がめざすその先の景色、それは誰もが安心してくらし続けられる地域を住民とともにつくることです。コロナ危機のもとで浮き彫りとなった自治体の脆弱さ、失われつつある「公共」を、もう一度、住民の手に取りもどすことです。

住民のいのちとくらしを守る自治体の役割を発揮するためにも、動かしはじめた情勢に確信をもって、持続性が求められる自治体の仕事にそぐわない会計年度ごとの任用を改め、自治体に働くすべての職員が、やりがいと誇りを感じながら安心して住民のために働きつづけられる制度をこれからもめざしていきます。

【緊急提言】会計年度任用職員の雇用の安定と処遇の改善で 安心して、もっと、ずっと、いい仕事を!

  • (1)会計年度任用職員の継続的任用を保障し、自治体業務の専門性・継続性・公平性・平等性が確保できるようにすること。
    ①再度の任用については本人希望を前提に、公募によらず勤務実績による能力実証で行うこと。
    ②継続して働き続けられるよう法整備をすること。
  • (2)会計年度任用職員の賃金について、常勤職員同様、「職務と責任にもとづく」ものとすること。現在、地域別最低賃金を下回る賃金で雇用している実態については直ちに是正すること。
  • (3)会計年度任用職員の手当、休暇制度、福利厚生や共済制度などについて常勤職員との均等待遇をはかること。
    ①諸手当について常勤職員との均等待遇をはかること。
    ②休暇制度、福利厚生や共済制度などについて常勤職員との均等待遇をはかること。
  • (4)会計年度任用職員について、フルタイムもパートタイムも常勤職員と同様な手当が支給できるようにすること。
  • (5)専門的・本格的業務に携わっている会計年度任用職員に常勤職員への採用の道を開くこと。
  • (6)地方自治体が行うべき業務は、本来どおり常勤職員が行うこと。会計年度任用職員の任用は期間の定められた業務など限定的な任用とすること。
  • (7)任期の定めのない短時間勤務公務員制度を創設すること。
  • (8)国は、会計年度任用職員の処遇改善に必要な財源を保障すること。
佐賀 達也

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