地域からの請願
1.請願書の内容
「飯高地域の風力発電所建設計画反対に関する請願」
2022年6月議会に提出された請願書(請願第1号)は、議会途中で、請願者(住民自治協議会)が、請願項目を一部変更し、請願第2号として、再度提出しましたが、上程は議会運営委員会で認められず、9月議会で審議することとなりました。請願第2号の概要を次に記します。
(前文省略)事業概要は、陸上風力発電で国内最大規模であり、1基4200キロ㍗から5500キロ㍗級の風力発電機を最大60基設置する計画で、事業実施区域内には香肌峡県立自然公園、奥伊勢宮川峡県立自然公園、室生赤目青山国定公園などを配し、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の政令指定種等の希少な野生動植物等が生息する生態系の存続する地域であり、一級河川櫛田川の源流部に位置しています。当該計画により次の事項が懸念されます。
① 自然環境の破壊・景観の破壊等、②健康被害・暮らしへの影響の危惧、③災害発生・残土処理問題、④地域社会の持続可能性の損失等であります。
(中文省略)発電所建設工事に伴う広範囲の森林伐採では「二酸化炭素の吸収源の大幅減少」という皮肉な事態を生み、それと共に発生する多量の残土処理による災害発生の懸念も明確な方策が示されておらず、1959年の伊勢湾台風のときの災害を経験した地域住民の不安は払拭されていません。
一企業の利益のために先代から受け継いできた自然環境やすばらしい人や自然に囲まれた生活環境を犠牲にする風力発電事業の社会的必要性や社会的価値は見当たりません。価値ある自然環境を失い、土砂災害のリスクを負うのは、市民であります。(後文省略)
請願項目
1.事業者による(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電所事業計画に反対し、地域住民の合意なしに事業を進めることがないよう国と県に対し、意見書を提出すること。
2.当該事業計画に係る官地の使用を一切認めないこと。
請願の審議
当請願を審査するにあたり、所管である環境福祉委員会より、利害関係人(事業者)や学識経験者から意見を聴き、審査の参考としたいとの要望に従い、参考人として委員会への出席を求め、口頭陳述及び質疑を行いました。
1.参考人質疑(事業者)
9月26日、参考人(事業者)に対して質疑が行われました。
委員からの①「知事意見に、風力発電機設置想定範囲については、県立自然公園の特別地域が含まれており、重大な影響が懸念されることから、事業実施想定区域から除外するとともに事業計画全体の見直しを行うこととあるが、見解は?」との質疑に対し、参考人(事業者)からは、「国や県に相談を行いつつ策定している方法書の事業計画について、配慮書の事業実施想定区域から、県立自然公園特別地域を外した計画となるよう検討している」との答弁がありました。
② 「大臣意見に、風力発電設備等の配置等の再検討、実施区域の見直し及び基数の削減を含むあらゆる環境保全措置を講じてもなお、重大な(環境への)影響を十分低減できない場合は、取りやめも含めた事業計画の抜本的な見直しを行うこととある。また知事意見に、科学的な知見に基づいた調査・予測を実施し、影響を回避又は十分に低減できない場合は、規模の縮小を含めた事業計画の見直しを行うこととあるが見解は?」との質疑に対し、「国や県にご相談を行いながら計画を策定しております方法書にて、我々がいただいた配慮書に対する意見をきちんと考慮した上で新たに事業計画というものを策定しているかどうかという審査がなされると考えている」との答弁がありました。
③「地域住民は、安心して暮らせず、環境も守れない本事業に対して、反対の意思を表明する方が多いが、どのように受け止めているか?」との質疑に対し、「より多くの地域の皆さまと直接的にかつ入念に意見交換をさせていただきたいと考えている。また、各行政機関、飯高地域の住民の皆さまからの批判や賛成も全部含めて意見として真摯に受け止め、不安解消等の対応については、ルールにのっとり、方法書でお示ししていく」との事業者の答弁がありました。
2.請願者質疑(地域住民)
10月5日、午前、請願者に対して質疑が行われました。
委員からの①「請願項目2に示されている、官地の意味は?」との質疑に対し、「基本的には、風力発電事業に関する開発行為を行う範囲にある官地と考えている」との答弁がありました。
「官地の解釈について、読み手によって意味が変わるのは望ましくないと考える。また、環境アセスメントの法律がある以上、自治体は、アセスメントを進めていくことに協力せねばならない。我々議会としては、地域の皆様の思いや不安を解消できるような最大限の手だてを踏まえるため、議会の意思としてまとまっていく最良の方法を検討する必要がある」との意見がありました。
「地域住民が最も不安とする点として、中央構造線の破砕帯に位置することとある。企業側は中央構造線から3キロメートル離れていると示しているが、見解は?」との質疑に対し、「地域の山々は、中央構造線の破砕帯に位置しており、山域全体として中央構造線の破砕帯が位置している。事業実施想定区域内に上る林道は、大崩林道と呼ばれており、地名からしても、実際に現場に行っても崩落が起きているような場所であり、当地域全体には、崩れやすいところが至るところに存在している」との答弁がありました。
④「『風力発電事業の社会的必要性や社会的価値は見当たらない』とあるが、社会的必要性や社会的価値についての見解は?」との質疑に対し、「当地の計画においては、犠牲にしてまで行う風力発電事業の社会的必要性、価値は見当たらないと考える」との答弁がありました。
3.参考人質疑(学識経験者)
次に、同日、午後、参考人である自然保護団体(学識経験者)1名の方からの説明の後、質疑が行われました。
委員からの①「風力発電機設置想定範囲の現地調査を踏まえ、事業計画等に対して『全国5指に入るまずさ』とのご指摘があったが、特筆される懸念事項は?」との質疑に対し、「絶滅のリスクが非常に高いイヌワシやクマタカが生息している可能性があるというようなエリアでの計画であること、また、エリアの西側には植生自然度9という自然林が広がっており、一度壊されてしまうと、戻るまでに数百年間かかってしまうということ。そして、室生赤目青山国定公園と香肌峡県立自然公園での計画であるということ。さらに、環境省からの意見として『本事業の取り止めも含めた事業計画の抜本的な見直しを行うこと』とされていること自体が非常に異例であり、環境影響評価自体は手続き法であるため、本来、取り止めるかどうかというような判断をする場ではないが、そこを超越しての意見であるという点では、環境省の方でもかなり問題としていると考えられる。なお、この計画が方法書に進んだとしたら、全国初の例となる」との答弁がありました。
②「風力発電事業は、中山間地域における持続可能性と相反するものとなるか?」との質疑に対し、「持続可能性な再エネというのは、住民が主体となってエネルギーを作り、地域で使うというのが本来の姿である。また、自然を使っているが、地域の住民のために使われないのであれば、持続可能性とは全くかけ離れたものである。この計画は、ゴルフ場の開発やリゾート開発とほぼ同義であると考えられ、地域自体の持続可能性が失われるというような住民の懸念も理解できる」との答弁がありました。
4.討議・討論
続いて、議員間討議に入り、委員より①請願項目2番目の、当該事業計画に係る官地の使用を一切認めないことというのは、これは市有地をさしていると判断でき、市有地の事業用地としての使用を認めてほしくないと理解する」との意見。また、②「議会は請願を採択したら、それを一言一句そのまま意見にする訳ではなく、議会の意思としてまとめる作業がある。その中で、この議論したことを反映させていくことができれば良いと考える」との意見がありました。
続いて、討論に入り、委員より①「事業についての見解と請願内容の中に齟齬が多く、この事業に対し、主観的な捉え方が散見されおり、配慮書を提出した段階での請願であるため、事業の具体的な計画も現地の調査も行われておらず、全て推測でしか考慮が出来ない。また、当該事業計画に係る官地の使用を一切認めないことに関し、官地の具体的な内容が得られず、取手側の取り方で内容が変わるような文言であり、法に対して何の抵触もない民間企業に対して当てはめることができず、委員としての賛同が出来ないことから、反対する」との発言。
②「請願の趣旨にある、『先代から受け継いできた自然環境やすばらしい人や自然に囲まれた生活環境を犠牲にする風力発電事業の社会的必要性や社会的価値は見当たりません』という部分に、この請願者が言いたい気持ちは尽きるのではないかと思い、その思いに寄り添い、賛成する」との発言があり、 また、③「飯高住民の7割を超える方々の反対や、3万7000余の署名者の民意を受け、それを反映しないということは考えられない。出していただいた請願に私たちは寄り添う必要があると考え、賛成する」との発言がありました。そして、採決の結果、挙手多数、採択すべきものと決定し、委員会を終えました。
本会議での採択
後日、本会議にて委員長報告を終え、議事に入り、本請願の採択にきたところで、議員より「議長」との声があり、本請願に対し、一部採択の動議が出されました。議員2名以上の賛成者により動議は成立され、動議成立により「一部採択」、「採択」、「不採択」について、討論がそれぞれ行われました。一部採択討論1名、反対討論2名、賛成討論4名による討論の後、多数の傍聴者が見守る中、本請願の採択が行われました。結果、本請願は挙手多数にて採択されました。
その瞬間、傍聴席から歓声と拍手が沸き起こり、長く激しい議論に終止符が打たれました。
討論の言葉にあった「地域住民の民意が当たり前に認められる松阪市議会であってほしい」。その市議会であって良かった瞬間でもありました。