【論文】経済発展のために自然が犠牲にされない社会を作りたい

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自然が私たちに与えてくれるものは、たくさんあります。しかしそのほとんどは、目に見えるものではありません。だから、目に見える価値や利益を生むために、度々自然は経済発展の犠牲になります。今の日本社会、特に東京では、このような犠牲がたくさん生まれています。学生団体Amamoは、このような社会を変えようと声を上げています。

今、東京の神宮外苑という場所で、再開発が行われようとしています。神宮外苑の4列のいちょう並木は、テレビで見たことがある人もいるかもしれません。この再開発では、スポーツ施設の改修工事や185メートルを超える商業オフィスビル建設のために、3000本以上の樹木が伐採、多くの樹木が移植され、その生存の危機にさらされます。さらに、この伐採により多くの野鳥たちも居場所を失います。

私がこの再開発を知ったのは昨年2月で、私はそれからこの1年以上計画内容の見直しを求めて活動してきました。きっかけは、イタリアに住む私の叔母がこの再開発の情報を見つけ、オンライン署名を立ち上げて私に連絡をくれたことでした。私は、東京からたくさんの樹木が失われてしまうこと、そしてそれが都民にも全く知らされていない間に行われようとしていることに問題意識を感じ、「GreenWatchプロジェクト」として声を上げることを決意しました。そして今年3月にそのプロジェクトメンバーの学生たちで「Amamo」を設立したのです。

昨年から約1年間、近隣住民の方々や友人たちと神宮外苑の街頭で署名活動をしたり、1万筆以上の署名を企業や東京都に提出したり、できる限りいろいろなことをしました。同じ思いを持つ仲間たちと何度も声を上げて、たくさんの人の声を届けて、活動を続けました。その活動はテレビや新聞などのメディアにも取り上げられましたが、たくさんの人が必死に上げた声に、小池百合子都知事も企業も耳を傾けてはくれませんでした。

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▲神宮外苑の銀杏並木と一緒に活動をする仲間たち

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▲署名活動の様子

ですが私たちは、今も諦めずに活動を続けています。それは、私たち人間はこれから、「自然保護と経済発展をどう両立させていくか」という課題に、どうしても向き合わざるを得なくなるからです。今、世界中で脱炭素や自然保護が進められている中で、日本では今回のような樹木を大量に伐採する再開発を行い、さらにセメントや鉄鋼で大量のCO2を排出する超高層ビルまで建設しようとしているのです。時代に逆行していると私は思います。あらゆる大企業や政治家は近年、SDGsや共存というワードを用いて地球温暖化に向き合っていくと言っています。しかし、その言葉と行動は、残念ながら一致していません。今回の再開発も「自然を保護しながら行う」と言われていましたが、自然は保護されるどころか破壊され、「植樹をして緑を増やす」とアピールしているけれど、3000本以上の樹木を伐採して0から植樹すること、それは本当に自然保護なのかという疑問を覚えます。本当の自然保護とは、今ある緑を残し続けることで、再開発などのたびに数合わせや建築スペース確保のために樹木を切ったり植えたりすることではないと私は思います。

自然が度々公共事業の犠牲になってしまうのは、「自然には価値がない」と考えられてしまっているからだと私は活動を通して気づきました。自然の価値が経済的に可視化されていないため、どんどん破壊してもいいと考えられているのです。そこで私たちは、昨年から3カ月かけて、ある調査を行いました。それは、環境経済学の分野の「環境評価」という調査手法で、市場価値のついていない自然環境に貨幣価値をつけて、見えない自然の価値を可視化するというものです。この手法は、アメリカなどで公共事業を行う際に使われていて、利益だけでなく自然の価値も考慮して計画を進めるために用いられています。私はこれを大学の授業で知り、これを神宮外苑に適用しようと思い立ち、教授に協力してもらい調査を始めることになりました。調査結果として、神宮外苑の環境価値が284億円以上であること、そして同時に行なった3000人へのアンケート調査から、神宮外苑再開発計画の認知度がとても低いこと、そして反対している人がとても多いことがわかりました(図)。

図1.計画の認知度

▲計画の認知度

図2.計画への賛否

▲計画への賛否

神宮外苑再開発は、まだあらゆる面で議論が尽くされていないのです。

今私たちは、「地球温暖化を止める」という何よりも重要な課題に向き合おうとしています。そんな時代だからこそ、「経済発展と自然保護を両立させる社会のあり方」を皆で考えていくべきです。もし東京から自然がなくなって、次の世代を生きる子どもたちが自然の価値を知らない世代になっていったら、誰が地球のために立ちあがろうと思えるでしょうか。身近な自然を守ることは、地球を守ることにもつながると私は思います。

私たちはこれからも、ただ反対するのではなく、あらゆるアプローチで行政や企業に対して声を上げ、声を届けて、自然が本当の意味で保護され未来に残されていく社会を作っていきたいと思っています。私たちの未来に、高層ビルだらけの窮屈な東京ではなく、人々の生活と健やかで豊かな緑が共存する東京を残すために。

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