【論文】マイナンバーカードの有無で保育・教育に差別を持ち込む政策を許さないたたかい

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はじめに

備前市は岡山県の南東部に位置し、東は兵庫県に接し、南は瀬戸内海に面した温暖な気候に恵まれた市です。備前市の人口は、約3万2000人、高齢化率は39・7%(2020年国勢調査)です。耐火物の製造をはじめ多様な産業の展開の中で昼夜間人口比率は県内3位、製造品出荷高も県内4位、水産業ではカキ養殖も県内1位にある産業のまちです。また、国宝の閑谷学校や備前焼、瀬戸内海と小高い山々に囲まれた観光のまちでもあります。平成の合併以降人口は急劇に減り、人口増をめざして子育て支援、定住、移住に力を入れてきました。学校給食費(表1)、教材費、こどもの医療費の無料化(表2)や、保育料金の無料化(表3)など子育てに手厚い施策を行ってきました。ところが今回の事態は真逆となりました。

 

  

突然の通知にびっくり

備前市教育庁が昨年12月16日に「園児及びその世帯員がマイナンバーカードを取得している場合、申請により保育料が納付免除となります」とした通知文を保護者に送りました。学用品費、給食費についても同様の通知文を送付しました。目的は「マイナンバーカードはオンライン上で安全かつ確実に本人であることを証明できることから、デジタル社会の構築に必要なツールであり、市においてもマイナンバーカードを全市民が取得することをめざしているため」としていました。

同日、備前市議会厚生文教委員会にも報告されました。7人の委員中3人から「これは教育庁が出す通知ではない」「マイナンバーカードの全世帯員の取得と無料化は関係がない」「即刻通知を撤回せよ」と意見が続出しました。しかし教育庁の態度は終始かたくなな答弁を繰り返しました。

紛糾した委員会を終えて帰宅後、元教員の方から「通知文」が保護者に配られたこと、現場の先生は何も知らされずに通知文を子ども、生徒から保護者に渡したことがわかりました。

子ども達に平等な教育・保育を求める実行委員会の闘い

びぜん子育てほっとスペース(市民団体)を中心に抗議と署名活動を行うことを決めて1月15日「子ども達に平等な教育・保育を求める実行委員会」を立ち上げました。

私たちが重視してきたことは第1に短期決戦であり、署名活動はネット署名を取り入れることでした。すでにツイッターやフェイスブックでも炎上しているので広範に呼びかけることとしました。また署名の呼びかけ人には教育関係者や元校長先生、元市職員の方になっていただきました。5万795筆集めることができました。

第2にマスコミの方に丁寧に、平等に案内をすることでした。会の申し入れ活動や、スタンディング、議会日程などを市政記者クラブ、個人の記者に案内しました。備前市に来るのが初めての方もおられましたが熱心に取材をされ報道していただきました。報道記事やビデオは署名実行委員会のライングループで共有をしながら大いに励みとしていました。

第3に今回の措置はばかばかしい話と笑っていられません、法的には問題はないのかが悩みでした。この点では社会保障法や行政法の研究者の方のご助言をいただくことができました。私の反論の根拠は①「子どもの権利条約」、②教育基本法、③子ども・子育て支援法、④地方自治法、⑤差別の問題、⑥不当連結、⑦不利益処分、⑧日本共産党宮本岳志衆議院議員の衆議院でのやり取りで、国は、自治体にお任せと責任逃れをしていますが、それでも、「住民の意見、議会の意見」を聞くなどの手続きが必要と言ってます。通知文を出しただけで住民や、保護者の意見を聞くことや説明会も行っていません。最後に岡山弁護士会は3月13日マイナンバーカード取得を保育料、学用品及び給食費の免除の要件とする岡山県備前市の施策について再考を求める会長声明を発表しました。

備前市でのたたかいの特徴は

① SNSの活用(ツイッター、フェイスブック、ネット署名等)です。

② マスコミの方に丁寧に案内してきました。

③ 法的な問題について研究者の沢山の助言をいただきました。

④ 地方議員団と国会議員団との連携を行いました。

大平よしのぶ元衆議院議員と一緒にオンラインでの政府交渉(1月19日)。

宮本岳志衆議院議員(2月8日)聞き取り、(2月14日)国会質問。

⑤ 5万795筆の署名を集めました。

⑥ 岡山弁護士会が「憲法違反を指摘し、再考を求める」会長声明を発表されました。

議会での審議

市は保育料について条例改正をして、減免規定に「特に市長が認めるとき」を追加し、施行規則でマイナンバーカードを世帯全員が取得している場合は、減免をおこなうとしました。給食費、学用品費については、新たに条例を制定して減免規定を設け、施行規則でマイナンバーカードを世帯全員が取得することで減免をするとしました。一度、有料化にして、減免規定をつくり、規則でマイナンバーカードをひもづけるというやり方です。減免の理由に、マイナンバーカードの取得を条件とすれば、違う制度との「不当連結」となります。またこれまで無料であったものが有料になれば制度の後退で、不利益処分となります。議会審議の中で、教育庁は不利益を受けるということを全く予想していませんでした。

運動の力で取得要件の撤回!

市は3月23日の本会議最終日、マイナンバーカードの取得を条件に、保護者負担と記されている給食費のほか保育料、学用品費などを免除する条例案を8対7の僅差で可決しました。よくぞ僅差までと思っていましたが、4月5日、吉村武司市長は突然記者会見を開き「取得要件の撤回」を表明しました。市がマイナンバーカードの取得を条件としていたのは給食費や保育料、学用品費以外にも、18項目に及びました。理由は「新型コロナウイルス感染症地方創生臨時交付金約1億2000万円の通知があった」としています。同時に「反対運動を考慮したものではない」とも述べています。

今予算の中でマイナンバーカードの取得要件が残っているのは

デマンド交通運転委託料40,000千円、市バス補助金112,800千円、離島住民定期船利用補助金4,500千円です。

これは条例の中に取得が明記されていたため、条例を改正するいとまがなかったためです。逆に規則で取得要件を謳ったものは取得要件が無くなりました。しかし来年度はどうなるのか危惧されるところです。

取得要件がなくなったのは

スマートフォン配布委託事業111,435千円

諸島地区高齢者等介護支援渡航費補助金76千円

寺山地区高齢者等通院交通補助金60千円

生活交通利用補助金8,400千円

生ごみ処理容器購入費補助金424千円

ゼロ・カーボンシティ促進補助金10,000千円

出店補助金10,000千円

備前焼窯改築補助金10,000千円

若年者新築住宅補助金15,000千円

保育園・こども園給食費55,811千円

小中学校の昼食代209,315千円

小中学校の学用品41,423千円

新入学生通学カバン支給事業3,049千円

家庭育児応援事業90,000千円

備前緑陽高校入学生への支度補助金42,000千円

若者家賃補助金18,000千円

移住調査宿泊費補助金4000千円

結婚新生活支援事業補助金9,000千円

運動の力が政治を変えた

この教育と福祉を守る闘いは交通、環境、市民生活に大きくかかわる取得要件を撤回させることにもなりました。

このマイナンバーカードの取得要件の撤回運動は、「これはおかしいな」との素朴な疑問から発した運動でしたが、声をあげ闘うことで備前市当局に勝てることを実証しました。「私たちの声が届いてうれしい」と運動参加者の方が述べておられたのが印象的でした。本会議、所管委員会での取り組みは備前市当局を大きく追い詰めました。議会で1票差とはいえ負けたわけですが、当事者を中心とした住民の運動が今回の撤回の大きな原動力でした。また、専門家のタイムリーな助言も運動の心強い支えとして貴重でした。

住民の力を合わせた運動が教育・福祉の権利を守り政治を変え、同時に住民自治を守った闘いでした。

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