行政の窓口で相談する住民から見れば、目の前にいる職員が正規か非正規かは全く関係ありません。児童相談所やひとり親支援の相談窓口で働いてきた経験から、正規と非正規の格差と分断を無くすことの重要性をお伝えします。
非正規に支えられる現場
私はこれまで、2カ所の自治体の職場で臨時職員、の身分で、困難を抱えた子どもやひとり親の支援に関わる職員として働いてきました。
最初の職場では、警察や児童相談所からの児童虐待の通告や情報提供を受け、他の課との関わりを早急に確認して担当の正規職員に報告するという短期間の臨時職員で入職しました。管理職は全員に「笑うな、無駄口はいらない」と厳しく指導をするので、必要な言葉以外を発せない職場でした。
3カ月後、ひとり親相談員の増加に伴い、母子父子自立支援員兼ひとり親自立支援プログラム策定員となり、全相談のワンストップ窓口としてあらゆる相談を一人で受け、事務作業も担いました。他市でもひとり親相談員は1名という環境が多いので、精神的に疲弊していましたが、仕事量の軽減の相談をあきらめて黙々とこなすしかない孤独な状況でした。
前任者が担っていたからという理由だけで、本来正規職員が担当する要綱改定や予算の仕事も任され、なんだかおかしいと思いつつ仕事に追われていました。
時折、職場で正規職員と臨時職員の間の目に見えない何かについてささやく声を耳にしたり、感じたりすることはありましたが、それが身分差別だと気づいたのは、会計年度任用制度が運用されるのを機会に、孤独からの救いを求めて、安心して自分の話を聞いてもらえる組合に加入してからです。
組合で委員長・書記長・書記局、他の組合員と少しずつ対話を重ねることで、不思議と安心感が生まれました。会計年度任用職員制度の理解が深まるにつれ、仕事に対して、担当者としての意見を落ち着いて言えるという変化も自分の中にありました。
しかし、職場を分断する身分差別の雰囲気は重く、閉塞感はますます強くなりました。組合に加入した仲間は1名しかいませんでした。誘い方が足りなかったのでしょう。組合未加入の同僚たちの「正規職員に気に入られなければ次の雇用に影響が出る」という本来の仕事のあり方とは別次元の閉塞感を払拭することができず退職することになりました。
現在働いている市の職場には会計年度任用職員として入職し、組合にも加入し、配偶者間・家族間のトラブル解消の相談支援専門員として勤めて3年目になります。
相談者の求める自立支援にはどれひとつとして同じ方法や手順はなく、仕事の内容をよく把握した豊かな経験が必要とされます。生命を脅かす危険度を測り、秘匿性の高い相談者のプライバシーを守りながら、一刻を争う支援をする必要があり、困難を極めます。相談者に実施するインテーク(情報提供や信頼関係の構築を目的とした初回面接)が、長時間に及ぶこともあります。さらに緊急一時避難から安全な自立までの長期間の道のりに立ちはだかる問題は様々で、思うように進まないことのほうが多く「もう、無理。いや、何か他に方法はないか」の繰り返しです。この繰り返しを、正規職員と同様に担っています。
正規・非正規が対等な立場で
関わる「チーム体制」の意義
今日まで相談支援専門員を辞めることなく継続できているのは、組合活動から得る知識に伴う安心感に支えられてきたからなのは間違いありません。それと同時に、相談者との対話を重ねることで相談者を理解することの重要性が分かるようになったことがあります。相談者を理解することで、その家族の感情の機微を汲み取り、意向に沿った自立支援計画が立てられることに気づきました。その結果、自立支援の最終目的地に無事にたどり着いた時に、相談者や家族の前向きな微笑みに触れ、やり遂げたという充実感に包まれます。
しかし、支援終着の際のやりがいだけでは、ここまで精神的身体的に負荷の大きい相談支援専門員の職務を続けることはできません。
仕事を続けることを可能にしてくれたもう一つの理由は、相談支援専門員が相談者の問題を一人で抱え込み、孤独にならないよう所属課が組織的な配慮をしてくれたおかげです。
その組織的な配慮とは、持ちつ持たれつの対等な関係で複数名の正規職員と会計年度任用職員がチームで支援にあたる体制を徹底することです。
通常、緊急を要さない相談内容はシステムで時間をかけて共有することが多いのですが、緊急対応が必要な場合は、瞬時に相談内容や支援計画、そして問題解決の方向性を共有し、すぐに手分けをして必要なネゴシエーションにあたり、相談者の意向に沿った支援を形にします。
この体制が整っているおかげで、正規職員、会計年度任用職員の誰もがワンオペレーションに陥らずに済んでいます。チーム内で意思疎通を図ることでヒューマンエラーを防ぎ、相談者の生命の安全性を最優先にした支援ができています。
こうした組織的な配慮が職員の安心感につながります。働きやすく職場の人間関係も良好なので、人が辞めていく要因は少なくなりました。
実は、この良好な関係は、実績報告書なるものに計上こそできませんが、対人関係におびえる相談者がインテークをする際の安心できる雰囲気づくりに重要な一役を買っています。
正規と非正規の格差を解消してこそ住民の声に応えられる
相談者から見れば、目の前の支援員、電話で話を聞いてくれている支援員が正規職員か非正規職員かは全く関係ありません。誰にも話せなかった辛い話に耳を傾け、ひたすら耐えてきた苦境に寄り添い、失いかけている自己肯定感を緩やかに高めながら自信に変えて、不安しかない今後の人生に希望を持てるような解決策を一緒に探してくれる職員を求めているのです。
勇気を出してSOSを届けた担当部署の職員のなかに、正規とか非正規の区別があることなど知らないでしょう。たとえ知っていたとしても、どちらも相談するにふさわしい職員だからこそ、そこで働いているのだろうと思うはずです。格差は外側には見えない不要なものです。
外に見えない格差だから隠せばいいという流れに逆らって、見えないものはなくしましょう。
住民福祉を向上させるため、当たり前の公務労働を追求しようとすれば、どうあらがっても職員の絶対数が必要です。その上で、正規の定数が抑制されているならば、会計年度任用職員も絶対数必要なのです。だからこそ私たちは、会計年度任用職員であったとしても、市民のために働く公務労働者なのです。
正規・非正規、男性・女性、年齢などの職場の多様性をきちんと認め合い、もって生まれた個性や特性を受け入れ、率先して差別意識をなくすことが重要です。そして、職務にふさわしい必要数の職員がいて、市民に不利益や不快な想いを与えない公務労働の実現のために、外側から見えにくい様々な格差を解消していくことが必要です。不安定な任用の不安や、「同じ仕事をしているのになんで」といった賃金の差、休暇制度の不均衡の問題、当然の所用や体調不良なのに休めないなど、多くの格差は確実に存在しています。
おわりに
同じように会計年度任用職員として働く皆さんに呼びかけます。この格差解消に立ち向かう小さな一歩として、私たち会計年度任用職員の組合員同士が、これまでよりもう少しだけ、小さなテーマを決めて対話の機会を作りませんか。2人からでも始めてみませんか。お互いの立場や意見の違いを理解しながら、テーマに向かう対話を重ねて、違いをすり合わせて絆を深めませんか。
この対話はきっと組合員を今以上に元気にするでしょう。その元気は魅力となって、新たな組合員を引き寄せると思います。
2人から始まった対話が、大きな声となり、非正規に対する差別という大きな岩をも動かすと信じています。私自身の体験からも悔いのあることですが、やはり必要なのは、どこでも誰とでも対話を続けることだと思います。
自治体の窓口を利用される住民の皆さんにも呼びかけます。
お悩みや不安を、おひとりで抱えるのではなく、勇気を出して対話をしてください。おひとりのお悩みや不安を住民全体の意見として自治体に届けてください。その意見は、自治体が受け止め、職員の身分の差別なく協議し、必要であれば議会にかけ、住民の皆さんが安心して暮らせるまちづくりが実現するように取り組むことになります。
自治体は、住民の安心・安全なまちづくりのために継続性が求められます。継続的な運営のためには、職員の差別をなくし、優秀な人材流出に歯止めをかけて、住民と向き合って公務労働にまい進できる職員を確保することが大事なのです。今、自治体では、職員数の抑制と相まって非正規だけではなく委託化も進んでいます。安定性と継続性、災害などの有事の際への対応を含め、公務労働の必要性を訴えてください。地方自治が形骸化されていく中で、いまこそ「地方自治の本旨(団体自治と住民自治)」を住民と職員が協同して再生・発展させることを目指すことで、誰もが住み良いまちづくりになるのではないかと考えています。