【論文】FOCUS 第33次地制調と地方自治法「改正」案

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第33次地方制度調査会が昨年12月21日に答申を提出、その内容を具体化する地方自治法「改正」案が3月1日に閣議決定され、国会に提出されました。その主要な内容は、「DXの進展を踏まえた対応」、「地域の多様な主体の連携及び協働の推進」と「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」の三つです。最大の問題点は、最後の「特例」にある補充的指示権です。

はじめに

大きく三つの点にかかわって、地方自治法改正案(以下、法案)の主要と思われる条文を紹介し、その特徴や問題点を確認します。特に補充的指示権に関しては、第33次地方制度調査会の答申(以下、答申)段階で研究者から疑問が出されています。また、日本弁護士連合会は答申だけではなく法案に対して、自由法曹団は法案に対して厳しい批判を行っています。これらの批判もみながら、検討を行います。

一 DXの進展を踏まえた対応

法案は、「第11章 情報システム」を新設し、244条の5で「情報システムの利用に係る基本原則」、244条の6で「サイバーセキュリティを確保するための方針等」を規定しています。また、243条の2の7で、収納事務に地方公共団体が地方税共同機構を利用できる規定を新設しました。突然、従来とは異質の新しい章が設けられた印象を受けます。以下、244条の5についてのみ簡単に触れます。

同条1項は、「普通地方公共団体は、その事務を処理するに当たって、事務の種類および内容に応じ、第2条第14項及び第15項の規定の趣旨を達成するため必要があると認めるときは、情報システムを有効に利用するとともに、他の普通地方公共団体又は国と協力して当該事務の処理に係る情報システムの利用の最適化を図るよう努めなければならない。」と規定しています。2条14項は事務処理に当たって「最少の経費で最大の効果を挙げる」こと、同15項は「組織及び運営の合理化に努め」、「規模の適正化を図」ることを求めるものです。つまり、デジタル化の最大の目的と考えられる「効率化」が目指されているものと考えられます。また、「最適化」は地方自治法では初めて使用されるものですが、この間、地方公共団体ごとの「個別最適化」ではなく、「全体最適化」が強調されており、「他の普通地方公共団体又は国と協力して」という規定からも、後者の「最適化」が意図されていると考えられます。また、同2項は、「普通地方公共団体は、その事務の処理に係る情報システムの利用に当たって、サイバーセキュリティ…(中略)…の確保、個人情報の保護その他の当該情報システムの適正な利用を図るために必要な措置を講じなければならない。」と規定しています。個人情報保護法の改正によって、地方公共団体の個人情報保護条例の独自規定が原則として否定されたことを踏まえると、「必要な措置」として、実質的には統一化が求められていくでしょう。全体として、情報システムにかかわって、さらなる標準化・共通化・画一化を進めるものと思われます。反対に、デジタル化に伴う透明性や説明責任の低下の懸念や、住民参加促進を具体化する規定は存在しないことにも関心を向ける必要があります。

二 地域の多様な主体の連携及び協働の推進

1 「指定地域共同活動団体」・「特定地域共同活動」と随意契約による関連する事務の委託・行政財産の貸付

法案は、「第16章 補則」に260条の49を新設し、1項は、「市町村は、基礎的な地方公共団体として、その事務を処理するに当たり、地域の多様な主体の自主性を尊重しつつ、これらの主体と協力して、住民の福祉の増進を効率的かつ効果的に図るようにしなければならない。」としています。市町村が独自に行政サービス・公共サービスを提供するのではなく、民間営利企業も含む他の団体と協力してこれらのサービスを提供すれば足りるという考えが前提となっています。もっとも、協力したくても、そのような団体が存在するのか、どのような性格の団体かは地域ごとに相違があり、他の団体に期待すべきかも当然に問題となり得ます。

同2項以降は、「指定地域共同活動団体」や「特定地域共同活動」といったものを規定します。2項は、「市町村長は、前項の規定の趣旨を達成するため必要があると認めるときは、地域的な共同活動を行う団体のうち、地縁による団体その他の団体(当該市町村内の一定の区域に住所を有する者を主たる構成員とするものに限る。)又は当該団体を主たる構成員とする団体であって、次に掲げる要件を備えるものを、その申請による、指定地域共同活動団体として指定することができる。」とし、次の四つの要件を規定しています。1号は「良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動であって、地域において住民が日常生活を営むために必要な環境の持続的な確保に資するものとして条例で定めるもの(以下この条において「特定地域共同活動」という。)を、地域の多様な主体との連携その他の方法により効率的かつ効果的に行うと認められること。」、2号は「民主的で透明性の高い運営その他適正な運営を確保するために必要なものとして条例で定める要件を備えること。」、3号は「目的、名称、主としてその活動を行う区域その他の総務省令で定める事項を内容とする定款、規約その他これらに準ずるものを定めていること。」、4号は「前三号に掲げるもののほか、条例で定める要件を備えること。」です。

2 地方公共団体の条例・地域ごとの状況の相違

まず、「指定地域共同活動団体」であるためには、「地縁による団体その他の団体(当該市町村内の一定の区域に住所を有する者を主たる構成員とするものに限る。)」であることがわかります。地方自治法10条1項は、「市町村の区域内に住所を有する者」を住民としていますが、これには、のみならず、法人も含むと理解されています。また、「地縁による団体」を規定する260条の2第2項3号は、「その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができる」といった規定の仕方をしています。「指定地域共同活動団体」の場合、「個人」という限定はなく、「主たる構成員」という規定からも、法人も構成員になり得ると思われます。法人が構成員となった場合、その影響力は大きいものとなることが予想されます。次に、「特定地域共同活動」や、「民主的で透明性の高い運営」の確保などの要件を「条例」で定めることになっていることから、地方公共団体ごとにかなり異なる要件となることが考えられます。地域運営組織も地域ごとの相違があることから一律に規定できないことも確かですが、法的性格がより多様であることをどのように評価するのかが問題です。

法案同条の49の6項・7項は、市町村が指定地域共同活動団体との関係で、随意契約によることができることや、行政財産を貸し付けることができることを規定しています。このような優遇措置をとることができるとするわけですから、指定地域共同活動団体や特定地域共同活動をどのように規定するのかは重要です。特に都市部において、民間営利企業の利益を図ることが目的にならないかという懸念も残るところです。

*自然人:私法上の概念で、権利義務の主体となる個人のこと。法人に対する用語。

三 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例

1 補充的指示権等の具体化

法案は、「第14章 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を新設しました。そのため、245条の「関与の意義」を改正して、新設の252条の26の3第1項・第2項における行為が追加されています。252条の26の3第1項において、「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」を「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と総称することにしています。そして、252条の26の3~252条の26の9で、「資料及び意見の提出の要求」、「事務処理の調整の指示」、「生命等の保護の措置に関する指示」、「普通地方公共団体相互間の応援の要求」、「都道府県による応援の要求及び指示」、「国による応援の要求及び指示等」、「職員の派遣のあっせん」、「職員の派遣義務」を規定しています。

この中で、補充的指示権を具体化する252条の26の5の内容を確認しておきます。1項は、「各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるときは、…(中略)…閣議の決定を経て、その必要な限度において、普通地方公共団体に対し、当該普通地方公共団体の事務の処理について当該生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。」とし、2項は、各大臣が「あらかじめ」「地方公共団体に対する資料又は意見の提出の求めその他の適切な措置を講ずるように努めなければならない。」ことを規定し、3項は、市町村に対する指示は、「都道府県知事その他の都道府県の執行機関を通じてすることができる。」ことを規定しています。

2 地方分権・平和主義の危機と緊急事態条項としての補充的指示権

補充的指示権については、答申段階の問題点がそのまま継続していると考えられます。答申に対して意見書を出していた日本弁護士連合会は、法案に対して会長声明を出し、意見書に対するものと同様の問題点を指摘しています。補充的指示権の必要性を疑問とし、また、法定受託事務と自治事務の枠を取り払っていること、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」、「地域の状況その他の当該事態に関する状況を勘案して」など要件が曖昧であること、「緊急性」の要件を外してしまっていることによる濫用の懸念を述べ、いくつかの条文について修正や削除を要求しています。特に、252条の26の5を削除することを提案していることが注目されます。

また、自由法曹団の声明も、法案の要件が漠然としており濫用の危険が極めて大きいとし、コロナ対策としての「休校要請など」が「かえって自治体の業務や住民の生活に混乱を招いた」ことや、辺野古新基地建設問題のように、「指示権の拡大によって政府による自治体への不当な介入がエスカレートする傾向が強まることは容易に想像がつく」としています。さらに、他ではあまり指摘がみられない、答申や法案では意図的に「隠されている」と思われる平和主義や改憲との関係でも、批判的なコメントをしています。具体的には、「武力攻撃予測事態の認定すらできない段階」で、一般法である地方自治法を根拠として、自治事務全般に対して網羅的に指示権を行使する危険性を指摘し、国は有事において、自治体に対し、例えば侵害を排除するために出動する自衛隊のために通行路を空ける措置、武力攻撃に備えて施設・住戸に防護措置を施す措置や、自治体職員を市役所に配置させてミサイル攻撃に備える措置を講じるよう一方的に指示することなどが可能になる、と批判します。さらに、2012年の自由民主党「日本国憲法憲法改正草案」が、緊急事態条項の一つとしてあげていた地方自治体に対する指示権であり、憲法改正の先取りであると批判しています。

*自由民主党「日本国憲法改正草案」第九十九条:「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」

「特例」であるからといって、危険性が低いものではなく、「閣議決定」では濫用防止の歯止めにならず、地制調で議論となっていた国会の関与は、答申と同様、法案には規定されていません。また、事後的検証についても法案に規定されておらず、個別法改正の積極的インセンティブがない中で、検証が行われる保障もありません。

おわりに

答申には、地方自治法「改正」以外で実現される内容もあることから、それについても注目しなければなりませんが、法案は、総じて、地方分権改革を逆流させるものとなっています。答申でいう地方公共団体の自主性・自立性の尊重はリップサービスにすぎないでしょう。予想を超える人口減少を背景に、それを前提としたデジタル化等を通した画一的対応や民間団体に期待したサービス提供によって、基礎的自治体の存在意義はますます低下し、補充的指示権により平和主義等も危機に瀕しています。

【注】

  1. 金井利之「補充的指示権に見る集権型国家指向の体質」『自治実務セミナー』741号(2024年3月号)2~8ページ、今井 照「『国の補充的指示』権の法制化について」『自治総研』545号(2024年3月号)53~85ページ。
  2. 日本弁護士連合会「地方自治法改正案に反対する会長声明」(2024年3月13日)。
  3. 自由法曹団「国の地方公共団体に対する指示権を拡大する地方自治法改正案に反対する声明」(2024年3月11日)。
榊原 秀訓

1959年静岡県生まれ。主な著書に『行政サービスのインソーシング』『コロナ対応にみる法と民主主義』『辺野古裁判と沖縄の誇りある自治』(いずれも共著、自治体研究社刊)。

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