【論文】地方自治法「改正」案のもう一つの論点─指定地域共同活動団体制度について

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はじめに

地方自治法の一部改正法案(以下、法案)が6月19日、参議院本会議で可決、成立しました。この法案は第33次地方制度調査会(以下、地制調)の答申を踏まえて作成されたもので、最重点課題は地方自治体に対する国の「補充的指示権」の創設ですが、それと並行して指定地域共同活動団体制度(以下、制度)の創設が提起されています。その趣旨は、今後、人口減少や少子高齢化等に伴い様々な課題や資源制約が顕在化し、地域社会を取り巻く環境が一層厳しくなるとして、地域の多様な主体の連携と協働を推進し、これまで主に自治体が担ってきた住民生活に関わる事務(公共サービス)を地域の特定の団体に委ねていくものです。制度内容については、国会でも審議、検討されましたが、具体の中身は条例で定めるとされており詳細はまだ明らかになっていませんが、これは今後の公共サービス、自治体の行政運営、あり方にも関わる重要な問題であり、ここでは制度の概要と狙い、問題点、課題について検討します。

地制調答申と法案(制度)の概要

まず、地制調の答申ですが、このことに関わっては要旨次のように提言しています。

「地域社会を取り巻く環境は、今後ますます厳しい状況となっていく。こうした環境変化によって生じる、人手不足や複雑化する課題に対応するためには、これまで主に行政が担ってきた様々な機能について、コミュニティ組織、NPO、企業といった地域社会の多様な主体が連携・協働し、サービスの提供や課題解決の担い手として、より一層、主体的に関わっていく環境を整備することが必要である。」「多様な主体が参画し、連携・協働を図りつつ、それぞれの強みを活かした活動を行っていく枠組み(プラットホーム)を市町村が構築し、その活動を下支えすることにより、人々が快適で安心な暮らしを営むことができる地域社会を形成する取組は、今後、重要性を増していくと考えられる。」

「これらの課題を解決していくためには、自主的な取組を行えるような環境を構築することに主眼を置きつつも、活動資金の助成、活動拠点や情報共有の場の提供、他団体との連絡・調整など、必要に応じ市町村が支援を行っていくことが考えられる。」「地域課題の解決に取り組む主体については、法律上も、市町村の判断で、その位置付けを明確にすることができるようにする選択肢を用意して、活動環境を整備していくことが考えられる。」

法案は、この趣旨を踏まえて作成されたもので、その内容は、①市町村は地域の多様な主体と協力して住民の福祉の増進を図る、②地域住民の生活サービスの提供に資する活動を行う団体を市町村長が指定できる、指定要件の具体的な内容は条例で定める、③市町村は団体への支援を行い、団体の求めに応じて調整等を行う、④市町村は団体に対して行政財産の貸付、随意契約による関連する事務の委託ができる(総務省:地方自治法の一部を改正する法律案の概要)とされています。

法案の第260条の49第1項は「市町村は、…その事務を処理するに当たり、地域の多様な主体の自主性を尊重しつつ、これらの主体と協力して、住民の福祉の増進を効率的かつ効果的に図るようにしなければならない」と定め、第2項で「前項の規定の趣旨を達成するため必要があると認められるときは、…指定地域共同活動団体として指定することができる」としています。

制度を使うかどうかは自治体の自主的な判断に委ねられていますが、実際の運用となれば、第1項を踏まえて、公の施設の指定管理者制度がそうであったように、それを率先してやることが原則であるかのように進める可能性があり、注意が必要です。

指定地域共同活動団体(以下、指定団体)については、法案では、を行う団体のうち、地縁による団体その他の団体(当該市町村内の一定の区域に住所を有する者を主たる構成員とするものに限る。)又は当該団体を主たる構成員とする団体で、かつ特定地域共同活動を地域の多様な主体との連携その他の方法により効率的、効果的に行うと認められること、民主的で透明性の高い運営その他適正な運営を確保するために必要なものとして条例で定める要件を備えること、総務省令で定める事項を内容とする定款、規約その他これに準ずるものを定めていること、その他条例で定める要件を備えることとされています。なお、特定地域共同活動とは、「良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動であって、地域において住民が日常生活を営むために必要な環境の持続的な確保に資するものとして条例で定めるもの」とされています。

その意味では、この制度に関わる具体的な事項は条例で定めるとされており、それを策定、審議、議決する自治体、地方議会の役割、責任は大きく、その姿勢、力量が問われます。

*地域的な共同活動:清掃・美化活動、防犯・防災活動、集会所の管理運営など一般的な町会活動のことである。

地域の多様な主体の現状と課題

この制度の柱となる地域の多様な主体については、地制調答申ではコミュニティ組織、NPO、企業等が例示され、事務局からは自治会・町内会・その連合組織や認可地縁団体、地域運営組織等が提示されています。地縁団体の核である自治会・町内会等については、国も昨今は地域の繋がりの希薄化から加入率が低下し、担い手不足等により活動の持続可能性の低下が課題になっていると指摘しています。他方、地縁団体やその連合組織等が母体となる形で組織され、各種の地域団体が参画する地域運営組織については、地域課題の解決に向けた様々な活動を行っていると一定の評価をしています。地域運営組織は国の重点施策であり、設置数も853市区町村、7207団体(2022年度)と年々増加しており、その中には指定団体の受け皿になる団体も多いと考えられます。

しかし組織形態を見れば、法人格を持たない任意団体が91%であり、法人格を持つNPO法人は4%、認可地縁団体は2%に過ぎず、組織的に脆弱です。総務省調査(2022年度)によれば、同組織の活動上の課題では、担い手不足が76%で最も多く、以下、役員・スタッフの高齢化56%、次のリーダー人材不足56%、活動資金不足36%等となっています。また、持続的運営を確保していくために行政側として必要な支援では、助成金等の活動資金支援71%、研修会等の人材育成55%、職員全体の地域コミュニティ施策への意識改革40%等となっています。これが地域の多様な主体の実態です。制度を安定的、継続的に運営していくには、こうしたことへの的確な対応が求められます。なお、地域運営組織に対する財政支援では、2016年度以降、市町村、都道府県に対して交付税措置がされており、2022年度からは住民共助事業にも適用されています。

なお、この制度に類似する先行事例では、地制調は条例等により特定の地域運営組織を指定・認定する仕組みを設けている自治体(名張市、明石市、豊中市、茅ヶ崎市)の活動を紹介しており、そこでは助成金の交付、助言、情報提供や行政側への意見具申等も位置付けられています。また、関連する事例では、雲南市等での小規模多機能自治の取り組みや陸前高田市などで導入された包括業務委託制度等もあり、こうしたことも視野に入ってくると思われます。

制度運営を巡る問題点、課題

法案の成立に伴い制度実施に向けた作業が本格化しますが、それに向けては更なる調査、解明、検証が求められます。以下では国会での質疑答弁等も踏まえて検討します。

1つは、指定団体は法的には条例で明確な位置付けがされ、自治体から様々な支援や行政財産の貸付、随意契約等の特例措置を受けて公共サービスを担うことから、その適格性、妥当性が問われます。基本的な要件は法案の通りですが、具体的な要件は「地域の実情に応じて」条例で定めるとされており、実際には各自治体の考え方や地域の実情、資源状況等を踏まえて自治体ごとにかなり異なる要件設定がされると考えられます。問題はそれで指定に相応しい団体がきちんと確保されるかであり、内容の精査が必要です。例えば、法人格の有無は問わないとされていますが、それは対象団体に任意団体が多いためと思われますが、それでいいのか検討が必要です。また、指定団体の要件には「個人」という限定はなく、「主たる構成員」とされていることから法人も構成員になり得るとされています。その中で民間企業の参入のあり方も課題になります。

2つ目は、当該団体の指定をどのように行うかです。それは制度運用上の基礎になるもので、手続き的な民主主義と厳密性が求められます。地域の多様な主体と言っても実態は様々であり、多くは組織的、財政的、人的に脆弱なところが多く、指定団体に相応しい団体を的確、安定的に選定、確保できるかが課題になります。例えば、公の施設の指定管理者制度では、それを条例で定め、基準の設定、選定委員会の設置・審査、議会の議決等が行われていますが、それでも制度の本格実施以来15年間で1万2千件以上の指定取り消し等が発生し、その結果、3割程度の施設が直営に戻され、過半数の施設は休止・廃止、民間譲渡に追い込まれています。これは由々しき事態です。

3つ目は、指定団体に対する支援の中身です。このことでは、政府側は「活動資金の助成や情報提供、研修、他団体との交流機会の提供などが想定される」と答弁していますが、実際にどのようなものになるのか、見極めが必要です。なお、人材確保・育成については、答弁では何の言及もされていませんが、地制調答申では民間企業との連携によるブリッジ人材の活用、必要なスキルを習得する場の提供等が考えられると述べています。

4つ目は、委託する事務の範囲、中身です。総務省は「関連する事務」としていますが、特定地域共同活動に限定される事務なのか、実際にはかなり幅広いものになるのか、行政処分に係る事務も含まれるのか。また、委託はなぜ随意契約なのかです。政府側は「具体的な活動内容は市町村の条例で定めるとされているが、例えば、高齢者等の生活支援や子ども・子育て支援、環境美化などの活動が想定される」と述べています。今後、各自治体が条例で定める特定地域共同活動の内容も踏まえて具体の検討が必要です。

5つ目は、行政財産の貸付です。それも民法、借地借家法の賃貸借、借地権の存続期間の適用はされず無期限となっています。具体の内容では、地制調答申では活動拠点の提供(空き庁舎の活用)等が例示されていますが、実際には何をどこまで想定しているか。特定の団体との癒着等も懸念されます。また、委託業務の拡大等で陸前高田市(包括業務委託)のように団体の職員が自治体の窓口で直接事務を行うことなども考えられます。

6つ目は、制度実施(事務の委託)に伴う低賃金の非正規労働者、官製ワーキングプアの拡大です。このことは指定管理者制度では現実化しており、それを主導してきた総務省自身が「今日までの自治体のこの制度の利用状況を見ると、コストカットのツールとして使ってきたきらいがある」と指摘し、「自治体が非正規化をどんどん進め、官製ワーキングプアを大量につくってしまった」(2011年1月片山総務大臣記者会見)と自戒し、是正通知を出しています。実施する場合は、こうしたことが生じないよう適切な制度運用、委託費の確保、対策が求められます。

7つ目は、適正な実施を確保するためのチェック体制と是正措置です。政府側は「団体の活動状況や団体への支援状況の公表、市町村による報告徴収や措置命令の規定を設けることにより適正な運用を確保する」「市町村による支援は、予算、決算における議会の審議や監査などを通じて的確なチェック機能が果たされる」と述べていますが、それで十分なのか、これも見極めが必要です。

8つ目は、指定を受けない(受けられない)団体の取り扱いです。これまで通り地域共同活動を実施していけるか。制度実施となれば指定団体基本の運営となり、実際にも指定団体とは明確な格差があり、厳しい運営が強いられます。政府側は「指定はあくまで団体からの申請に基づき行うもの」「団体の自主性は最大限尊重する」と述べていますが、特定団体を指定するというのは選別であり、他団体の「排除」に繋がります。活動を安定的に実施しようとすれば、行政からの支援や特例措置がある指定団体への申請が事実上迫られます。これは実質的には行政の下請け化、官製団体化であり、自主的な地域共同活動が阻害されかねません。

最後は、基礎的自治体の行財政基盤、実施体制の維持・強化、地域再生に係る問題です。これも国会で議論されましたが、政府側の答弁は「各市町村が地域の実情や行政課題に応じて、市町村間の広域連携や都道府県による補完、自主的な市町村合併など、多様な手法の中から最も適したものを自ら選択することが最適である」、「あわせてデジタル技術の活用が進みつつあり、その力を最大限に活用してサービスの維持強化や地域の活性化を図ることが重要になっている」、「地方創生の取組も一定の成果を上げてきた」と言うものです。そこには基礎的自治体そのものの充実、強化策はなく、基本は圏域行政、広域連携、市町村合併の推進であり、行政のデジタル化への過度の期待です。地方創生も実態的には破綻しており、最重点課題であった合計特殊出生率の向上も改善どころか2023年は史上最低の1.20まで下がり、東京一極集中も解消されていません。その中で改めて「自治体消滅論」が提起されています。地方創生施策の抜本的な見直し、再構築は喫緊の課題です。

また、自治体の実施体制では人員不足は深刻であり、職員数の維持・増加、職員の半数近くを占める非正規の会計年度任用職員配置の見直しも急務です。

この制度の狙いと本質

それでは、この制度の本質、狙いをどう捉えるか、そこにはもう1つの重要な側面があります。この間、政府は「自治体戦略2040構想」を軸にして人口の大幅減少、資源制約を前提に自治体の徹底したスリム化、デジタル化、職員の半減化、公務の外部化・民間化を推進してきました。行政運営でも新たな公共私の役割分担を提起し、公の撤退(公助の限定)、自助、共助、互助を基本とした公共サービス提供の受け皿、担い手づくりを進めています。この間の地制調の議論、答申もそれに沿ったものであり、その背後には地方分権から中央集権化、地方自治から地方統治構造への転換を進める政府・財界の自治体戦略があります。

その意味では、この制度はまさにその具体化と言えます。自治体が地域で自主的な共同活動を取り組む住民団体に法的な位置付けと様々な支援、特例措置を行い、指定団体として行政に代わって地域の課題解決、公共サービスを担わせていくものです。政府側は「市町村の事務処理と当該団体の活動を一体的に行うことにより効率的、効果的に地域のサービス提供を行える」と強調しますが、その内実は、公務の委託促進、地域共同活動団体の選別、行政の下請け化、官製団体化です。これで果たして的確、安定的な公共サービスが継続的、安定的に提供できるのか、自主的、多様な地域共同活動の活性化、発展に繋がるのか、検証が必要です。

行政基盤の強化でも、その重点は圏域行政、広域連携、市町村合併であり、基礎的自治体そのものの充実、強化は視野に入っていません。その中で、自治体の役割・機能の縮小限定、組織のスリム化、職員削減を進め、公共サービスの直接的な担い手としての責務、役割・機能を次々に外部化し、自治体の役割・機能を企画・立案、支援、調整等に特化していけば、地域の切実な課題に応えられないし、ましてや大規模災害等にも対処できません。能登半島地震の復旧・復興の実情を見れば、それが如実にわかります。自治体のあり方自体が問われます。

こうした中で、公共施設では公民館のあり方が1つの焦点になっています。公民館はこの間、政府の地域戦略、自治体改革の中でその役割や機能、位置付けの見直しが行われ、公共施設等総合管理計画等とも連動して統廃合・再編、集約化、首長部局移管、行政機関化・施設化、地域運営組織等との一体化が進められています。その中でこの制度が実施されれば、その人材やノウハウ、地域活動の蓄積等の活用も含め行政的な位置づけが更に強まり、こうした動きが加速するのではと危惧されます。しかし今、公民館に求められているのはそうした行政の下請け化や統廃合・再編ではなく、「住民の自主的な学びと活動を通して地域に自治を築く公共空間」としての本来的な役割機能の充実、強化であり、地域の自主的、自律的な住民団体との実質的な連携、協働の発展です。

おわりに

改定自治法は6月26日に公布され、7月2日に施行通知が発出されました。それに伴い、今後、必要な政省令改正やそれに係る留意事項が示され、制度の周知、徹底が図られます。自治体でも関連の条例や規則の制定、委託事務や支援内容、指定事務等の検討が始まります。しかしいま大事なのは、制度ありきで拙速、一律に具体化を図ることではなく、この制度をどう使うか、どんな内容にするかは各自治体の判断、裁量に委ねられており、まずは制度内容の精査、対象事務の実施状況、地域の実情や関連団体の活動状況等を踏まえ、その必要性や活用の是非、適用範囲、課題等を十分に検討、検証することです。実施するにしても一律、安易に導入するのではなく、どのような事務を対象にどう行うのか、それに相応しい指定団体はあるのか、地域全体をカバーできるのか、自治体独自の対応も含めて1つ1つ丁寧に検討していくことが必要です。

運動の側も住民、利用者、関係者(団体)、研究者、議員等と共同で制度内容の分析、検討、調査・研究を進め、具体の提言、要求を出していくことが急務です。また、自治体レベルでも小さくても輝く自治体フォーラムや杉並区(東京)のような、持続可能な地域づくり、公共性の再生、自治体の役割拡充を目指す実践もあり、こうした先進例に学び、発展させていくことも重要です。

最後に、岸田政権が改憲、戦争する国づくりへ大きく舵を切っている中で、地域的な共同活動を組織化、官製化していくこの制度が、市町村の「管理・統制」の下で戦前の“隣組“のような役割を担わされないかも危惧されます。注視が必要です。

なお、この小論は法案の成立を受けて「住民と自治」2024年7月号に掲載された拙稿「地方自治法「改正」案のもう1つの論点-指定地域共同活動団体制度について」を補強、書き直したものです。

角田 英昭

1944年生まれ。1967年に神奈川県庁入庁。退職後、自治労連・地方自治問題研究機構、自治体問題研究所で調査研究活動等に従事。

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