はじめに─緑地を根こそぎつぶした、ある都営団地建て替えから考える
〝樹木・緑地つぶし〟といえば、最近では、神宮外苑再開発が真っ先に思い浮かびますが、ここで紹介する東京都北区の都営桐ヶ丘団地の再整備では、それをはるかにしのぐスケールで進められているのです。それは、図1によって確かめることができます。同図は、同団地の再整備計画図(白線部分)と従前の団地の空中写真を重ねたものです。従前とは、まったく配置の異なる住宅棟が建設され、さらに、団地内・都市計画公園内を通る新たな道路が計画されているのがわかります。これでは、樹木が邪魔と無視され、切り倒されるのは必然です。
では、なぜ、このような乱暴な団地再開発がなされているのでしょうか。それは、図1に示されている「創設用地」(縦じま部分)を生み出すために他なりません。既存の都営住宅を高層化し、敷地面積を減らすことによって、創設用地をひねり出すのです。創設用地は、商業・医療・福祉等の施設用地として、企業に定期借地で貸し出されます。それにより得られた収入を、建て替え費用にまわし、財政負担を軽減するというもくろみなのです。
実は、このような団地建て替えが計画されたのは最近ではありません。1990年代末です。財政支出をできるだけ抑え建て替えようとすれば、自ずと企業のように、利益を稼ぎながら開発するという手法に行きつかざるを得ないことを、この事例は示しています。
この事例では、稼ぐ主体は「自治体」です。しかし、今世紀初頭に開始された都市再生では、企業に稼がせることによって、財政負担を減らしながら公共施設を整備するという民間活力(民活)による公共施設整備が、強力に追求されていくのです。
本稿の目的は、公園づくりにおける民活について、その実態と問題を明らかにすることですが、それに先立って、まず、この四半世紀の都市再生の中で、民活による公園づくりの政策がどのように展開してきたのか、簡単にふりかえっておきたいと思います。
都市再生四半世紀にみる民活公園づくり
都市再生特別措置法(以下、都市再生法)が制定されたのは2002年ですが、早くも03年、「社会資本整備重点計画法」の施行によって、による社会資本の整備や、NPOや民間企業等による社会資本の管理が目指されます。さらに04年には、立体都市公園制度が創設されますが、以後の10年間には、目新しい政策はみられません。公園政策に大きな転換がなされるのは、第2次安倍内閣のもと、ローカルアベノミクスとしての地方創生が打ち出され、都市再生が新たな段階に移行してからです。14年、立地適正化計画と公共施設等総合管理計画が制度化され、都市のコンパクト化が目指されます。これに伴い、それまでは、曲がりなりにも公園の増加が目指されていましたが、公園の縮小的再編、ストックの活用という方向に軌道修正されるのです。また、総務省は地方創生のスローガンとして、「稼げるまちづくり」を掲げますが、公園も「稼げる」公園づくりが目指されるのです。16年に発表された、「新たなステージに向けた緑とオープンスペース政策の展開について」(「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」答申)では、そうした新たな方向が、明確に示されています。
「ストック効果をより高める」「官民連携による緑とオープンスペースの整備、管理運営の流れを一層加速する」「都市公園を一層柔軟に使いこなす」「都市公園の配置と機能の再編等による都市の活性化」といった点が指摘されています。併せて公募設置管理制度(Park─PFI)の創設、占用物件への保育所等の追加が提言されましたが、いずれも、翌年の17年には、都市公園法の改正により、制度化されています。
24年に施行された、改正都市緑地法では、国主導による戦略的な都市緑地の確保がうたわれるとともに、民間事業者等による良質な緑地確保の取り組みや都市の脱炭素化に資する都市開発事業の認定制度が新たにつくられ、緑の都市環境整備への民間投資の呼び込みが目指されました。
政府の民活公園政策の流れは、以上のとおりですが、自治体独自の取り組みもなされています。もっとも熱心に取り組んだのは東京都です。早くも06年、東京都は、「みどりの新戦略ガイドライン」で、民設公園制度の創設や都市計画公園等の特許事業の積極的活用を打ち出しています。11年改訂の「都市計画公園・緑地の整備方針」では、神宮外苑再開発で適用され注目をあびた「公園まちづくり制度」の創設を目指し、13年に制度化しています。
また23年6月、東京都公園審議会から出された答申、「東京の活力と魅力を高め、まちづくりの核になる公園」では、「民間事業者等のノウハウを生かした官民連携の推進」によって、「地域とともに賑わいを創出しまちの価値を高める」とする方向が再確認されています。
以上、きわめて簡単な整理ですが、民活公園づくりの流れが、一貫して強められてきたことがわかります。では、民活公園づくりには、どのような問題が危惧されるのか。以下、具体的事例を踏まえながら、考察したいと思います。
公園を企業に貢ぐ
民活公園まちづくり手法は、大きく、三つの類型に分類することができます。①公園を企業に貢ぐ、②公園を稼ぐ場に変える、③企業による公園づくり、の三つです。
まず、「公園を企業に貢ぐ」について、見てみましょう。この例として、立体都市公園の活用、並びに、企業による公園効果の無償活用を紹介します。
立体都市公園の活用
立体都市公園制度とは、公園の区域を立体的に限定し、残りの空間を民間が活用できるようにした制度です。東京都・渋谷駅に近い宮下公園の開発プロジェクトは、よく知られた事例ですが、ここでは、ヒューリックと清水建設が進めている、「都市再生ステップアップ・プロジェクト」(都有地を核に民間の都市開発を促進することを目指した東京都独自の制度)で活用された東京都渋谷区・美竹公園一帯の事例を紹介したいと思います。
事業用地は、図2のように、美竹都市公園(区有地)、児童会館跡地(都有地)、旧分庁舎(区有地)の三つの公有地から成り立っています。美竹公園に立体都市公園制度が適用されるわけですが、そのしかたは、先の宮下公園とは異なります。宮下公園では、公園が上空に持ち上げられ、その下が企業に提供される格好になりましたが、美竹公園の場合は、公園は動かさず、その地下空間を、民設・民営の多目的ホールとして活用する計画になっています。公園地下をふくむ事業用地約1ヘクタールには、70年間の定期借地権が設定され、オフィスビルが建設されます。
ここで注意すべきは、美竹公園で立体都市公園制度が用いられたのは、単に公園の地下空間を有効利用するためだけではなく、むしろ最大の狙いは、容積の引き上げにあったという点です。地下空間の取得により、容積率の算定の基礎となる建築敷地の面積は増大し、したがって、その分、建設できるオフィスの床面積は、増える計算になるからです。ちなみに、この地区の容積率は400%なので、増加する床面積は1万1200平方メートルにも上ります。
ビル価値の引き上げのために公園を差し出す
もう一つ、まさに公園を企業に貢ぐという表現がピッタリの例を紹介したいと思います。企業の開発ビルの価値を引き上げるために、企業に、無償で公園の活用を認める事例です。
一つは、防衛庁跡地(東京都港区赤坂)の払い下げによって誕生した東京ミッドタウンです。このプロジェクトの区域規模は10ヘクタール強、緑地面積は約4ヘクタールですが、その中に、約1・6ヘクタールの港区立檜町公園も含まれています。つまり、公園を自らの付属施設のように活用しているのです。公園の維持管理のために、ボランティア活動も行われています。
もう一つ、日比谷公園に隣接する地域で、三井不動産をはじめ10社によって進められている開発プロジェクトを紹介します。これは、ビルの延べ床面積110ヘクタールという、未曽有の巨大開発ですが、ビルと公園の間に、「道路上空公園」が架けられ、公園はあたかもビルの庭のようにデザインされています。これにより、企業が建造するビルの価値が引き上げられ、莫大な利潤がもたらされることはまちがいありません。
公園を稼ぐ場にかえる
いま、「稼げる公園づくり」として、政府が力を入れているのが、Park─PFIと「スタジアム・アリーナ改革」です。
Park─PFIは、2017年、都市公園法の改正によって創設された制度です。カフェやレストラン、ショップなど、民間に公園の商業的活用をみとめ、その稼ぎの一部で公園整備をおこなわせるのです。稼ぎを大きくするために、施設の建ぺい率は、これまでの2%から12%に、設置管理許可期間も、10年から20年に引き上げられています。「福岡市に『稼ぐ公園』続々 西鉄や東京建物、一等地再生」(『日本経済新聞』2023年11月24日付)といった記事に見られるように、現在、かなりの都市で活用され、その数は、全国100カ所に上っています。しかし、Park─PFIによって、樹木の大量伐採等、さまざまな問題が引き起こされ、各地で、これに抗議する住民運動が高まりをみせています。
大規模な公園破壊をもたらすアリーナ計画
いま、アリーナ建設による公園破壊が全国的に問題になっています。「スタジアム・アリーナ改革」により打ち出されたアリーナのあり方が、公園破壊を加速させているのです。同改革は、「スポーツだけでなく、音楽イベントや健康づくりなど、賑わいやコミュニティ創出の拠点とする」ことを狙ったものです。施設の整備も、「効率的な整備や収益力のある運営のため、コンセッションをはじめとした/の活用、都市公園法の改正による制度の活用等、民間活力の導入」がはかられます(「2025年までの新たなスタジアム・アリーナ20拠点の実現に向けて」スポーツ庁、2018年)。スタジアム等を、純粋にスポーツを楽しむ場から、「稼ぎの場」「賑わいの拠点」に変え、地域の活性化につなげようというのが、「改革」の趣旨です。こうした新たな装いのアリーナの建設場所として、公園が狙われる場合も多く、公園破壊という問題が引き起こされているわけです。現在、全国で、100カ所ほどで、動きがみられますが、そこには、神宮外苑再開発で計画されているドーム型の新ラグビー場、ホテル棟付きの新野球場も含まれています。
では、公園でアリーナが建設される場合、どのような問題が引き起こされるのでしょうか。さいたま市中央区の与野中央公園でのアリーナ整備計画の例で、見てみましょう。
この公園は、1987年に都市計画決定され、整備が進められてきました。図4(上)に、その構想イメージが示されています。公園エリアは、浸水地域・液状化の危険もある地域で、地形は平たんです。しかし、小山をつくり、池を掘る等、地形に、豊かな変化を創出し、見るからに楽しそうな公園計画になっています。地域マスタープランでも、「地域による公園管理・運営の参画」も確認され、住民の支持を得ていました。ところが、昨年、市は、突如としてアリーナ計画を持ち出してきたのです。それは、5000人収容のアリーナと市民体育館を一体化したものですが、すぐ近くには、3万7000人収容の、さいたまスーパーアリーナがありますので、この点からも多くの住民は疑問視しています。また、計画では、同図(下)に見るように、草原や池は、片隅に追いやられています。にぎわいづくりのために、市民の公園が犠牲にされることになるのです。
はじめに─緑地を根こそぎつぶした、ある都営団地建て替えから考える
〝樹木・緑地つぶし〟といえば、最近では、神宮外苑再開発が真っ先に思い浮かびますが、ここで紹介する東京都北区の都営桐ヶ丘団地の再整備では、それをはるかにしのぐスケールで進められているのです。それは、図1によって確かめることができます。同図は、同団地の再整備計画図(白線部分)と従前の団地の空中写真を重ねたものです。従前とは、まったく配置の異なる住宅棟が建設され、さらに、団地内・都市計画公園内を通る新たな道路が計画されているのがわかります。これでは、樹木が邪魔と無視され、切り倒されるのは必然です。
このアリーナ計画で、もう一つ大きな問題といえるのは、PFI手法が使われるという点です。は、財政負担の軽減、住民サービスの向上、地域企業の新たなビジネスチャンス創出といった、「三方よし」の手法であると喧伝されていますが、まったくのまやかしです。PFIをつかうことにより、アリーナ建設費は割安になるとしていますが、計算根拠はブラックボックスになっています。はっきりしているのは、市の財政を使ってアリーナを建設し、管理運営まで負担し、PFI事業者にアリーナの経営を行わせるというのにすぎないということです。人口減少傾向の中、期待した観客を動員できず、赤字に陥る危険性も高くなることが危惧されています。このアリーナの建設は、「稼げるまちづくり」どころか、「損するまちづくり」になりかねないのです。ちなみに、この制度の本家イギリスでは、PFIの効果は認められなかったとして、2018年、PFI終了宣言が出されています。
企業による公園づくり
開発企業による公園づくりの制度としては、都市計画公園特許事業、容積率の緩和と引き換えに公開空地を設けさせる制度等がありますが、東京都の場合、さらに民設公園を創設しました。これは、都市計画公園区域内にある企業のグランドなどで、マンション等の建設を認める代わりに、公園的空間をもうけ、それを35年以上、無償で一般に提供することを義務付ける制度です。しかし、事例はまだ数例に止まっています。この民設公園制度にくらべ、圧倒的に企業に有利な制度として、新たにつくられたのが、神宮外苑の再開発で注目をあびた、「公園まちづくり制度」です。
公園まちづくり制度は、簡単にいえば、都市計画公園の未供用区域を公園区域からはずす代わりに、再開発等促進区を定める地区計画をつかって、削除区域内の土地利用の高度化をはかり、できるかぎり、緑地空間の確保を求めるというものです。この制度については、すでに神宮外苑再開発を例に説明しましたが、ここでは、同制度の第一号となったホテルオークラ(東京都港区)の事例を紹介したいと思います。公園まちづくり制度の本質を端的に示しているからです。
本制度の対象となったのは、ホテルオークラの所有地である3ヘクタール弱の都市計画公園です。公園として残されたのは、一割弱、約3500平方メートルに過ぎず、残り、すべてを都市計画公園区域から削除、容積率を従前の400%強から700%弱に緩和し、ホテルの建て替えを行いました。まさに、都市計画公園はずし、容積率緩和の制度という他ありません。
企業による公園づくりとして、最近、脚光を浴びているのは、大きな緑地空間を合わせて整備している大規模再開発の事例です。
たとえば、最近完成した麻布台ヒルズ(東京都港区)では、敷地面積8・1ヘクタールの内、緑地・広場面積は2・4ヘクタールとなっています。森ビルは、その開発コンセプトとして、「Modern Urban Village」を掲げ、「圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で多様な人々が集い、より人間らしく生きられる新たなコミュニティの形成を目指」すと述べています。しかし、この麻布台ヒルズは、30年かけて、既存のコミュニティと緑の破壊の上につくられたもので、「豊かな緑」を享受するのは、そこに暮らし、働く超富裕階層なのです。それは、まさしく、フランスの作家、美術批判家のミシェル・ラゴンが指摘するように、「富裕な社会層のため緑の空間を占領すること」(『巨大なる過ち』)でしかなく、しかも、そのうたい文句の「緑の空間」は、単に、「緑のまねごと」でしかないのです。
政府は、国際競争にうちかつためには、こうした緑ゆたかな都市開発は不可欠と考えており、その後押しのため、2024年、都市緑地法の改正により、都市開発で緑地創出や生態系保全を評価する認証制度まで創設しました。
むすび
最近、森ビルや「大手町の森」をつくった、東京建物のような、開発の中で、緑地を合わせて整備する開発企業を、あたかも緑の救世主であるかのようにみなす論調が高まっています。しかし、それは幻想にすぎません。理由は次のとおりです。
1.企業による公園づくりは、企業が、稼げる限りでしか実行されません。それは、前述したように、緑地空間を破壊し、エセ緑地づくりの横行をもたらすのです。
2.企業による公園管理は、公園の本質である、公衆の自由なアクセス、多様な活動、交わりを阻害します。こうした本質が発揮されるには、行政の継続的な管理と結びついた住民参加による管理運営が不可欠なのです。
3.民活公園づくりで企業が狙うのは、わずかの緑地提供と引き換えに、容積率の緩和をはじめとする都市計画の規制緩和を引き出すことです。それでは、結局、開発による、緑地破壊が加速されていくことになります。そして、その行きつく先は、都市の崩壊、地球環境の破壊に他なりません。企業による緑地空間の私的専有化を食い止め、として再創造していくことは、いま、まさに差し迫った緊急の課題となっています。
「現代の非合理性と絶滅の危機に対抗する運動を起こすために、われわれは心の傷を癒してくれる自然の秩序に今一度歩み寄って、これを人間的な計画によって修正して行かなければならない」(ルイス・マンフォード『現代都市の展望』)のです。
*PFI:公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う。
*PPP:公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図る。
*コモン:だれもがアクセスでき、利用・享受できる、市民の共有財産。