商業施設と化す公園
そもそも都市公園は、「本来、屋外における休息、レクリエーション活動を行う場であり、ヒートアイランド現象の緩和等の都市環境の改善、生物多様性の確保等に大きな効用を発揮する緑地を確保するとともに、地震等災害時における避難地等としての機能を目的とする施設であることから、原則として建築物によって建蔽されない公共オープンスペースとしての基本的性格を有するものである」と定義され、これにより「建蔽率は2%を超えてはならない」としています。
一方で国は2017年の都市公園法改定に際して、①ストック効果をより高める→公園管理者も資産運用を考える時代、②民間のビジネスチャンスの拡大→民がつくる、民に任せる公園があってもいい、③都市公園を一層柔軟に使いこなす→公園のポテンシャルを柔軟な発想で引き出す、という三つの観点を打ち出しました。ここでいう「民」は市民ではなく民間事業者を指すことは言うまでもありません。都市公園という公共空間を民間事業者のビジネスチャンス拡大に活用すべき、という都市公園の基本的性格とは相容れない観点で法律が改定されました。
この改定で公募設置管理制度(Park─PFI)が創設され、建蔽率の特例(2%→12%)、設置管理許可期間の特例(10年→20年)を設けて、民間事業者の参入促進を図り、あちこちの公園にレストラン、カフェなどとその集客のための駐車場が設置され、公園は市民の憩いの場から飲食店街へと姿を変えてしまったのです。
市民運動が公園の環境を守った
吹田市立桃山公園は千里ニュータウンの南端、大阪市の大動脈である地下鉄御堂筋線に乗り入れる北大阪急行桃山台駅前に位置する、1971年に開設された6万平方メートルの公園です。農業用ため池であった春日大池を中心とした、ニュータウン開発前の千里丘陵の風景を思わせる緑あふれる豊かな自然の空間です。2020年11月に吹田市が公表した、Park─PFI制度を活用した「魅力向上計画」は、池に浮かぶ東屋を撤去してレストランに、カブトムシが生息するクヌギ林を伐採して60台の駐車場とコンビニエンスストアなどというものでした。
これに対して地元住民はすぐさま「桃山公園の自然と環境を守る会」(以下、守る会)を立ち上げ、2021年1月に市長に要望書を提出、同3月から署名活動を始め、同時に「守る会だより」を毎月4~5000部発行し、2~3日でこれを配り切るほどに運動が一気に広がりました。要望書や署名活動にとどまらず、守る会立上げ当初から説明会やパブリックコメントへの参加、当局との協議、学習会やイベントの開催、など旺盛に集中的に活動しました。「守る会だより」の広がりにより、近隣住民に計画が広く知られ、たとえば「駐車場60台」に対してはこれまで表だって関心を示していなかった、隣接する民間マンション住民が子どもの通学時の危険性と渋滞を危惧して反対の声を上げ、位置を変えて30台に減らした変更案には、周辺から「ラクウショウ(落羽松)30本伐採大反対」の声が上がるなど、計画に合理性がないこともあって多様な市民が声を上げ、最終的には、イートインコーナーを含むパークセンターと駐車場5台に大幅縮小された形で指定管理者が公募されました。現在はこれらの工事が完了し、社会資本整備総合交付金の関係からか、東屋の建て替えや健康遊具設置など、必要のない工事も含まれていますが、公園全体の環境は守られました。
守る会は所期の目的をおおむね達成しましたが、現在も毎月の定例会とボランティア活動を続けています。当初から、のちに公園協議会に参画することを想定し、吹田市にボランティア団体として登録して、2022年1月から清掃活動を中心に毎月ボランティア活動を行っています。現在は予定通り公園協議会の構成員となって、指定管理の実施状況をチェックし、環境保全、ボランティア活動やイベント開催に関わっています。また活動を始めた当初からブログでの情報発信を続けており、活動報告のほか、桃山公園の豊かな自然を切り取った写真が投稿され公園の魅力を伝えています。守る会は、一過性の反対運動だけではなく、継続的に公園に関わり、情報を発信し続けることで地域住民の支持を得ています。このような持続的な運動によって、公園を守り続けていくことが可能になると思います。
強硬姿勢で市民の要望を無視する行政
大阪市は「市民の安心安全に影響する」として、2018年から公園の樹木や街路樹計約1万9000本を伐採する事業を進めています。しかし、市民や専門家は「切る必要のない木も切っている」、「樹木の維持管理コスト削減が目的ではないか」と疑問を持ち、「大阪市の街路樹撤去を考える会」(以下、考える会)を立ち上げて、市内の公園や街路樹の調査、伐採反対署名、公園管理者や行政当局への申し入れ活動などを行っています。考える会が取り組んでいる運動の中で、特に扇町公園の樹木伐採が、極めて悪質な事例として注目されます。
大阪市中心部にある扇町公園は1923年に開園し、かつては競技用プール(大阪プール)を備えた地下鉄駅直結の7万3000平方メートルの都市公園です。すでにPark─PFIによる収益施設建設工事が進んでおり、7月26日のパークセンターオープンに始まり、8月から12月にかけて、水遊び塲やレストラン、カフェがオープンする予定です。
市はこのパークセンターのオープンに間に合わせるかのように、市民の抗議を無視して次々と伐採を進めました。考える会が今年5月に、独自に樹木医に依頼して「伐採措置は不要」、「保全を推奨する」という診断書を添えて保存を要望しましたが、「公園管理者の観点から総合的に判断して」伐採する、市民の要望は一切受け入れない、伐採日時は通知しないという、強硬なゼロ回答で、6月17日から伐採が始まりました。次々と伐採が続く中でシンボルツリーのケヤキだけは何とか守ろうと、メンバーが毎日ケヤキの〝木守り〟活動を続けていましたが、6月26日の夜に、見守る市民がいなくなるのを見計らって伐採されてしまいました。前代未聞の〝闇討ち〟ですが、見方を変えると強硬策しかないほど市民に追い詰められた状態であり、市民運動の力が大きくなっていると言えるのではないでしょうか。
消費喚起型「にぎわい」に惑わされない意識改革の運動を
公園緑地をめぐっては、先に述べた2017年の都市公園法改定以前に、立体都市公園制度が創設(2004年)され、都市公園を商業ビルの屋上庭園にして、集客装置に使うことが可能になり、さらに先日成立した都市緑地法の改定では、民間事業者による緑地確保の取り組みに対して民間都市開発推進機構が金融支援することが可能になりました。すなわち商業ビルの屋上庭園や中庭などの集客装置としての緑を公共緑地として認めて資金援助するのです。このように公園、緑地を市民の憩いの場として維持保全、整備を推進するのではなく、民間事業者が稼ぐために関連法制度を連動させて改定、創設されているのです。しかし、その制度によって出現するレストランやカフェは繁盛しており、今のところ稼げる公園は国や民間事業者の狙い通りに推移しているように見えます。
本来の公園を守り育てるためには、公園は都市の中で自然を享受する豊かな空間であるという基本的性格を再認識し、レストランやカフェという「にぎわい」に惑わされない、すなわち消費型の豊かさから、環境とコミュニティの豊かさへ、私たちの暮らしに対する価値観の転換が必要なのです。そのことを訴え、幅広い市民と専門家がともに運動を広げていくことが求められています。
【注】
- 都市公園法運用指針(第4版)平成30年3月国土交通省都市局から抜粋。