パートナーシップ制度は「無縁社会」克服の鍵となるか

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2022年2月、東京都は「東京都パートナーシップ宣誓制度」を同年秋までに創設することを発表しました。2015年渋谷区を皮切りに、現在では全国147自治体でパートナーシップを公的に認証する制度が創設されています(2022年1月4日現在。渋谷区・認定NPO法人虹色ダイバーシティ調べ)。

パートナーシップ制度が広がりを見せているのは、同性パートナー同士の婚姻制度や法的保証がなく、それゆえ社会的な承認が得られないことに対する当事者の悲痛な叫びが、共感をもって受け止められている証左です。社会保険の被扶養者になれない、公営住宅の申し込みが認められない、一方が救急搬送されても個人情報保護を理由に搬送先すら教えてもらえない、長年連れ添ったパートナーの葬儀への参列を断られる等、最も親密な関係性にあるにもかかわらず男女間の内縁関係にも劣る他人同然の扱いも珍しくありません。こうした差別的な実態を政府・与党は放置し続けており、同性婚を認め差別を解消することを求める訴訟も各地で提起されています。

パートナーシップ制度は、同性パートナーが社会生活を営む上での不都合を一部でも解消することが目的で評価しうるものです。ただ現状では、LGBTQに関する社会への啓発的な意味合いにとどまるとも思います。

一方で、(男女間の)婚姻制度も時代にそぐわないものになってはいないでしょうか。いったん婚姻関係に入ると、家族関係の維持に関する意思の存否やその生活実態にかかわらず、一律に民法上の扶養義務を課されます。これは子を設け、親族を扶養することこそ家族の機能であるとする明治以来の家族観に深く根ざすものと考えられますが、このような前近代的な家族観を静かに拒絶する人々が増えているのではないかと思わせられるのが、ここ30年間の生涯未婚率(満50歳時の未婚の割合)の、その帰結としての単独(ひとり暮らし)世帯の増大です。婚姻による法的関係が堅固であるがゆえ、そこまでの堅固さを求めない人々の選択肢がない状況もまた、問題ではないかと思うのです。

他方、社会保障・社会福祉の世界では「自助・共助・公助」論が公然と主張され、地域住民同士の助け合いに過度に期待する「地域共生社会」の実現が目指されるなど、国家責任に基づく生存権保障が後景に退いて久しいところです。社会保障・社会福祉の国家責任を自助=自己責任と共助=地域住民の連帯責任に転嫁する考え方は非難に値すべきと考えますが、仮にこうした政策動向を少子高齢化や人口減少等の影響からやむを得ないものと考えるにしても、親密な人と人とのつながりの証しを望む人々に対して国が背を向け妨害するのは自家撞着であり、理解に苦しみます。

そこで、パートナーシップ制度を同性間の婚姻制度の代替として留め置くのではなく、同性婚を正面から認めるとともに、パートナーシップ制度は男女を問わず人と人との親密な関係性を証明するものとして再定義してはどうでしょうか。親密な人と人とがゆるくつながる制度の構築は、つながりを求める人々に安心感を与え、「無縁社会」(「地域や家族・親類との絆に加え、終身雇用が壊れ会社との絆までが失われている」社会を表す、NHKの造語)を克服する鍵になるのではと想像するのですが、みなさんはどう思いますか。

濵畑 芳和

1976年鹿児島県生まれ。専門は社会保障学。修士(法学)。自治体問題研究所理事、総合社会福祉研究所理事、特定非営利活動法人秋桜舎理事。共著に『雇用・生活の劣化と労働法・社会保障法 コロナ禍を生き方・働き方の転機に』(日本評論社、2021年)、『新版 基礎から学ぶ社会保障』(自治体研究社、2019年)など。

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