「財政危機」に備える

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「財政危機」に備える

コロナ禍に対する大型経済対策は、国の財政運営を大きく転換させました。

これまで抑えられてきた財政支出が一気に拡大し、ロシアのウクライナ侵攻を宣伝材料とした防衛費の大幅拡大までも進められています。

この防衛費のために安倍元首相らが国債による財源確保を主張するなど、日本が戦後維持してきた財政制度の規律が崩壊の危機に瀕ひんしています。

このような無節操な財政運営は必ず経済社会に大きな副作用をもたらします。

それはすでに急激に進む円安にも表れています。大量の国債買い入れを通じて円を市場に流し続ければ、円安が進むことになります。

いわゆるアベノミクスはそれを実行しました。

すでに円安は輸入物価の高騰を通じて人々の生活を苦しめています。日本以外の先進各国が金融引き締めを推し進めていますので、これからも円安は進む見通しです。

さらに重大なことに、円の価値の下落は外国人労働者の確保を困難にし、日本の農業、漁業、建設業、製造業、介護などにおける人手不足が深刻になるでしょう。

そうなれば、国は再び財政引き締めに舵かじを戻さざるを得なくなると考えられます。

その最大のターゲットは地方財政にほかなりません。

自治体への地方交付税はもちろんのこと、福祉、教育、公共事業などのあらゆる分野に対する国の補助金も抑えられていくことになります。

それはコロナ禍以前の国の財政運営の大きな方針であり、いずれその流れが戻ってくるのは間違いありません。

これは政治行政の問題ではなく、日本という国が現在おかれている客観的な状況だといえるものです。

このような中で、国民の暮らしを最前線で支える自治体はどうすればよいのでしょうか。

公共サービスや公共事業の削減に反対しても、国が自治体財政を締め付けてくる以上はそれに対応せざるをえません。

自治体財政の運営上の最大の原則は「赤字にならない」ことです。

自治体は赤字予算を組むことが認められていないため、赤字になることは、近い将来にその赤字を基金等で埋め合わせられない「財政破綻」の警告となります。

実質的に財政状況が悪化していく「財政危機」に対して、議会や住民は住民サービス削減への反発から「デマだ」という主張をしがちです。

しかし、それがきちんとした財政分析に基づいていなければ、自治体を「財政破綻」させてしまいかねないことになります。

「財政危機」に直面した自治体がとることのできる主な手段は、法定外税をつくるなどして独自の財源を確保するか、

相対的に不要な公共サービスや公共事業を削ることの二つです。

その中身は当該自治体の住民が決定するしかありません。

それに正しい・間違っているという解答が定まっているわけではありません。

家計危機の際に何を節約するかは、他人ではなく自分たちで決めるのと同じことです。

ここでどれだけ冷静にしっかりと議論して、自分たちの財政のあり方を決められるのか。

この財政民主主義の厳しい実践こそが、これから求められてくることになります。

森 裕之

1967年大阪府生まれ。1990年大阪市立大学商学部卒業。1993年高知大学助手、1997年大阪教育大学専任講師、2003年立命館大学助教授を経て、2009年から立命館大学教授。近著『市民と議会のための自治体財政』など。

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