新型コロナ感染症拡大以降、全国で地方公務員の長時間労働が報道されています。時間外労働を命じるためには、労働基準法(以下、労基法)第36条で定められている協定(いわゆる36(サブロク)協定)を結ぶ必要があります。しかしながら、多くの公務労働の職場では協定を結ぶことなく時間外労働が行われています。「地方公務員に対して労基法は適用されないのでは」と誤解されることもありますが、一部を除き労基法は適用されており、第36条も適用されています。
なぜ、このような事態が起こっているのでしょうか。それは、第33条「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」の第3項に「公務のために臨時の必要がある場合においては…地方公務員については…労働時間を延長し、又は…休日に労働させることができる」と定められており、これを根拠に時間外勤務が命じられています。
確かに、2年前の新型コロナ感染症発生の初期であれば「臨時」と言えるかもしれません。しかし、すでに2年以上が経過し、この間7度の感染拡大の波も経験しています。にもかかわらず、相変わらず保健所では長時間労働がまん延し、体調を崩したり休職する職員や退職を選ぶ職員が後を絶ちません。地域住民の命と暮らしを守るべき地方公務員の命と暮らしが脅かされる現状です。
実は、地方公務員の長時間労働はコロナで始まったものではありません。1948年の厚生省(当時)労働基準局長の通達では「『公務のために臨時の必要がある』か否かについての認定は、一応使用者たる当該行政官庁に委ねられており、広く公務のための臨時の必要を含むものである」とされています。終戦直後の混乱期であれば百歩譲ってやむを得なかったかもしれません。しかしながら、すでに戦後77年が経過し社会情勢は大きく変化しています。このカビが生えたような通達を根拠に36協定なしに時間外労働が命じられており、そのほとんどは「通常業務」です。
この時間外労働青天井問題は、地方公務員の長時間労働を生むだけでなく、さまざまな問題を発生させています。無制限の時間外労働は、本来必要な人員が配置されないばかりか、過度な人員削減を容認することにつながります。「臨調行革」以降、自治体では「少数精鋭」「最小のコストで最大の効果」が叫ばれ、さまざまな市民サービスの廃止や極端な民間委託の推進が行われてきたのは周知の事実です。最近の自治体DXのための業務の標準化は、地域の特性にそった地方自治を破壊するものです。中には「行かなくても良い役場に」などというスローガンを掲げる自治体が出てくるなど、密接であるべき住民と自治体の距離が広がろうとしています。
この問題を解決しようという動きも出ています。各地方自治体では人員増による長時間過密労働の解消を求める取り組みを進めています。また、京都、大阪の自治体労組では問題の根幹である労基法第33条の改正や解釈の変更を国に求める「33キャンペーン」に取り組んでいます。地方公務員も公務員である前に一人の市民であり、住民サービスの向上や地方自治の発展のためにも、地方公務員の長時間労働の解消が不可欠です。