北陸新幹線の敦賀以西の延伸京都ルート建設について、2022年末になって与党整備新幹線推進プロジェクトチーム(与党PT)の中心メンバーである西田昌司・参議院議員(京都選挙区)が、工事の遅れを挽回し、大深度地下利用より事業費を抑制でき、駅周辺開発も見込める、とトンネル区間の一部を地上に出す「明かり区間」を南丹市美山町周辺に設け、新駅をつくる新たな提案を行ったと新聞で報じられました。これに対してルート上の南丹市の西村良平市長は、新たな提案で市域に新駅ができれば「利益がある京都府と南丹市に負担金が及ぶことになる。市がつぶれてしまう」という見解を表明しました(『京都新聞』2023年2月9日付)。新幹線工事実施計画が何の権限もない与党PTによって自治体や住民の意向等を顧慮されることなく事実上左右されており、その結果自治体が要望してきたわけでもない新幹線建設の費用負担義務が自治体に対して課されることで自治体が破綻させられてしまうかもしれないという地方自治否定・蹂躙の不条理を告発したものです
北陸新幹線を福井県敦賀へさらにその先大阪へもつなぐという延伸構想は関西広域連合で検討され、2013年に米原まで延伸し東海道新幹線に乗り入れるという米原ルート案が示されました。しかし、2015年に与党PTが発足し、これを却けて、米原ルート案より1兆2000億円余計にかかり、工期も5年間伸び、ルートの80%を京都府の大深度地下トンネルとし敦賀から京田辺を経て新大阪まで延伸する京都ルートを採択したとされました。与党PTがなぜ京都ルートを採択したのか理由は不明ですが、この案に基づく予備調査が始まりました。しかし、この京都ルート案に対しては、掘削によって出る大量の土砂の処分の困難性、地下水を利用してきた和菓子業界関係者から出された水源枯渇の懸念などの問題を解消できないほか、環境影響評価が住民により拒否されて実施できていない部分もあるなどの課題があり、国土交通大臣も工事実施計画を認可できずに着工できない状況です。
そんななか、西田氏が打開策として提起したのが、冒頭に触れた一部地上化、新駅建設案です。が、これは関係地方自治体の自治を顧慮せず、市長の言葉どおり市を破綻させかねない、地方自治を否定し、破壊する提案です。そもそも一切権限をもちえない与党PTの一構成員の提案が意味あるかのように振る舞ってきた背景には、全国新幹線鉄道整備法が、国交大臣による工事実施計画の認可の要件を定めていないことをはじめ、整備に係る情報の開示や手続を規制する十分な規律を定めてこなかったことがあります。特に、新幹線鉄道の建設工事に要する費用は、国と都道府県が負担するものとされ、さらに都道府県は、その区域内の市町村に対し負担金の一部を負担させることができます。ところが、このような義務の賦課に対し自治体には防御の主張を行う機会が十分には保障されていません。これは、憲法95条が、特定自治体が特別の義務を課され自治を侵害されるについて住民投票による防御手続の機会を保障している趣旨に反するものです。住民と自治体の意向をないがしろにした新幹線建設で地方自治と地方自治体を蹂躙することは許されません。