コロナ禍を経て考える、教育旅行の新たな方向性

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 2020年5月4日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、社会経済活動の継続と感染拡大予防の両立を図るために、さまざまな業種の感染拡大予防ガイドラインに関する留意点が示され、観光業界においても、観光庁や感染症専門医の指導のもとに旅行業ガイドライン等が作成されました。とりわけ、『国内修学旅行の手引き』(2020年6月3日作成)を見てみると、第7版まで改訂されていることからも、他業種と比べてさまざまなニーズや個別具体的な課題への対応に苦労したことがうかがえます。

 また、しばらくの間、小中高の教育旅行は感染対策上の観点から中止や行先の変更を余儀なくされました。公益財団法人日本修学旅行協会の『教育旅行年報データブック2022─新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査まとめ』によると、国内への実施状況は、2020年度比で2021年度の実施率は飛躍的に回復しましたが、依然として海外への再開は難しく、2021年度時点ではほとんどの学校が予定通りには実行せず、中止となったことがわかります。

 他にも、新型コロナの影響による経済的負担は大きく、教育旅行の大幅な変更が必要な場合、旅行会社の企画料金が別途発生し、直前の中止によって高額なキャンセル料が発生することもありました。こうした課題に対して、取消料や変更手数料を都道府県や市区町村などで負担する特別措置が取られ、長野県では「県立学校修学旅行取消料等支援事業」という補助金が活用されました。この補助金は、「探究的な学び」推進事業の予算から割り当てられ、2022年度には高校61校と中学2校に対して約6,800万円が支払われたといいます。ただし、県内公立学校全体に対する支援が十分だったかどうかについては、別途検証が必要でしょう。

 さて、新型コロナの影響は決して悪い側面だけではなく、と呼ばれる旅行形態の台頭も追い風となり、身近な地域への移動によって滞在時間が増え、滞在先での時間の過ごし方の幅も広がったといえます。そこでは、物見遊山の観光から滞在型・体験型の要素を強調したプログラムが注目され、現地ガイドや地域住民との「密」なかかわりの中で、観光を軸とした学びを通じて地域活性化にも貢献する可能性が見えてきました。日本修学旅行協会の調査報告によると、教育旅行の内容にも変化が見られ、例えば「博物館の見学」「美術館の見学」「水族館や動物園、自然・科学系の博物館の訪問」が増加するなど、天気に左右されず、安全で収容十分な社会教育施設への期待が高まっています。

 最後になりますが、このコロナ禍は、感染症や自然災害などのリスクへの対応が充実しただけでなく、教育旅行の在り方を再考する機会になりました。マイクロツーリズムは、児童生徒の成長を促進するだけでなく、地域資源の価値を再評価し、新たな地域振興の手段ともなります。教育旅行がより充実した学びの体験をもたらすためには、感染症対策と教育の双方を考慮に入れつつ、誰一人取り残すことのない、全ての児童生徒に有意義な経験を提供するための条件整備が求められているのではないでしょうか。

田開 寛太郎

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