「むら」をなくす!?ー“土から離れては生きられない”

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 カーラジオで国会中継をたまたま聞き流していると「むらをなくす」という言葉が飛び込んできた。ああ、とうとうここまで行きついたのかという少しの衝撃と、やっぱりという感情が沸き起こった。しかしその後の討論に耳を傾けると、脈絡がなく話がつながらない。結局のところ「むらをなくす」は、「政策のムラをなくす」だったか、はたまた「財政のムダをなくす」の聞き違いだったか。

 しかしこの「空耳」は、根拠のないことではない。平成の大合併以前には600近くあった「村」は、いまや全国で183自治体にまで減った。ほとんどが農山漁村地域である島根県でさえも、隠岐諸島の知夫村が唯一となってしまった(ちなみに今、知夫村は、人口が増えつつあり、活気にあふれている)。

 行政上の村が急減しても、農山漁村としての「むら」はそう簡単になくならない。農林水産省によれば、平地以外の中山間地域だけでも、全国の耕地面積の38.2%、総農家数の44.6%、農業産出額の40%を占め、私たちの食生活を支えている。「むら」で展開しているさまざまな営みなしに、私たちの生活は成り立たない。

 その「むら」は今年、大きな異変に直面している。猛暑による高温障害で1等米比率が全国平均59.6%と過去最低になったのだ。例えば島根県52%、鳥取県36%と、経験したことのないほどの急激な落ち込みである。自然と向き合う農山漁村は、こうした気候変動による異変にだれよりもいち早く気づき、強い危機感をもって対応しようとしている。

 重油を使ってハウス栽培をし、季節外れの野菜を高く売ろうとしたり、化学肥料と農薬を大量に使うような「工業的農業」を克服し、多少収量が減ったとしても安心・安全な生産にこだわって消費者とつながり、誇りをもって農作物をつくる。こうした有機農業やアグロエコロジー(生態系を生かした持続可能な農業)の取り組みが広がっているのだ。

 しかし、これらの動きは「むら」だけで完結しない。労働者・都市住民が農民たちとつながって「食」を転換することが不可欠である。冬にきゅうりやトマトを食べて喜んでいないで、生態系の論理に従い、旬のものを食べる、本来的な食への転換が求められている。

 ようやく動き始めたこの流れに水を差しているのが食料・農業・農村基本法改正問題である。食料自給率38%(種子や肥料、家畜飼料などを勘案した実態は10%程度といわれている)だというのに、「食料自給率の向上」を目標から外すことが狙われている。

 宮崎駿のアニメ作品『天空の城ラピュタ』は、かつて高度文明を築いて天空から世界を支配していた古代の王国をめぐる物語である。その王国復活を図ろうとする末裔が現れ、しかし最後には破滅する。この物語に次のような一節が出てくる。「なぜ滅びたのか…よく分かる。…“土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう”…どんなに恐ろしい武器を持っても、土から離れては生きられない」。

 都市だけではなく、「工業的農業」が当たり前となってしまった農山漁村でさえも、長らく生態系や土から離れて生きてきた。もう一度、そして一刻も早く、私たちは「土から離れては生きられない」という真実と向き合わねばならない。

関 耕平

1978年秋田県生まれ。博士(経済学)(一橋大学)。日本地方財政学会理事。財政学・地方財政論担当。主著は、『三江線の過去・現在・未来』今井出版、2017年4月(共著)、『地域から考える環境と経済』有斐閣、2019年3月刊行予定、(共著)など。

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