「平成の合併」から25年目を迎えて


私は日本自治体労働組合総連合(自治労連)の役員を務めていたこともあり、現在でも会議に出席したり、学習会でお話ししたり、大阪でも自治体の行財政分析など共同研究の場でお話を聞く機会が多くあります。

いま公務公共の職場で働いている仲間たちは、住民のくらしが日々大変になっていることを、肌身で感じていると思います。その一方で、今担っている仕事が「住民のくらしや権利を守る」という自治体や公務公共の本来の役割を果たせているか、言い換えれば、働きがいある仕事や職場なのかについて、なかなか確信が持てない状況があるのではないでしょうか。

新自由主義による「自治体構造改革」が本格化して30年が経過しました。多くの自治体では正規職員が非正規職員に置き換えられ、さらには「業務委託」「指定管理者制度」「PFI」などさまざまなツールを「活用」して、自治体が直接担ってきた公務・公共業務を民間の営利事業者が収益を競い合う「市場」にかえてしまう動きが強まっています。

その多くが、保育所や学童保育、学校給食、清掃、公共施設などを始め、住民と密接につながる職場・現場であり、結果として自治体職員からは住民の姿が見えなくなり、同時に住民からは自治体の姿が見えにくくなっているのではないでしょうか。

一方で、平常からギリギリの職員配置の中で、仕事の負担は大きくなるばかり。ひとたび災害などが起きると、たちまち職場や仕事が回らなくなり、超長時間・過密労働が発生することは、この間の地震や大雨被害、コロナパンデミックでも明らかです。

また、「公務能率向上」や「頑張る者が報われる」などとして、人事評価制度による「できる者・できない者」のレッテル貼りが進む中で、職場のチームワークに支障がでたり、短期的な目標達成ばかりが追求されて、本来の自治体の仕事で重要な中長期的な目標設定が敬遠される事態が進んでいます。

こうした状況は、自治体・公務公共職場に働く者はもちろん、住民にとっても大きな不幸ではないでしょうか。

自然災害やパンデミックを経験した住民は、自治体や公務公共の仕事への願いや期待を高めています。そして住民と自治体・公務公共職場に働く者とが学び行動する中で、変化や展望が生まれています。

会計年度任用職員の仲間が、担っている仕事の重要性と誇りを広く発信する中で、賃金・労働条件の改善が、不十分とはいえ、前進を始めています。愛知から始まった「子どもたちにもう一人保育士を」の共同運動は、たちまち全国に広がり、実に76年ぶりに保育士の配置基準の見直しが行われます。

さらに今、「ミュニシパリズム」と言われる実践が始まっています。住民の直接的な政治参加、行政運営の透明性確保、公共サービスの再公営化、公営住宅の拡大、地産の再生可能エネルギー開発などが、各地で取り組まれています。

いずれを見ても、「自治体構造改革」がもたらした地域や自治体のゆがみを、主権者である住民の力と地方自治の力で正そうとするものに他なりません。こうした運動は、地域における自治研運動や、自治体問題研究所が一貫して追求してきたものではないでしょうか。大いに自信を持って、自治体問題研究所の運動と組織を広げましょう。

平岡 和久
  • 平岡 和久(ひらおか かずひさ)
  • 立命館大学教授・自治体問題研究所副理事長・全国小さくても輝く自治体フォーラムの会顧問

1960年広島県生まれ。専門は財政学・地方財政論。著書に『<人口減少と危機のなかの地方行財政―自治拡充型福祉国家を求めて>』(自治体研究社、2020年)、共著に『「自治体戦略2040構想」と地方自治』(自治体研究社、2019年)、『新型コロナ対策と自治体財政 緊急アンケートから考える』(自治体研究社、2020年)など。