分権改革30年と地方自治研究を振り返って

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1993年に地方分権の推進に関する国会決議が満場一致で可決されてから30年になります。戦後の分権と自治をめぐっては、戦後改革、革新自治体の高揚期、分権改革の3つの時期に分けることができますが、地方自治や地方財政から30年間の動きをみると「集権」的側面が強いことが明らかになってきます。2022年12月に閣議決定された「安保3文書」の改定による軍事費倍増計画、経済安全保障推進法、原子力発電所60年以上の稼働を可能にするGX脱炭素電源法、基地や原発などの監視を強める土地利用規制法などの動きをみても、軍事的色彩がつよく、中央集権体制を強化している側面があります。地方自治法改正をめぐる動きも、それはまさに自治の形骸化を招く内容になっており、民主主義の危機といえます。

私は学部から大学院博士課程まで宮本憲一先生の下で学んできました。先生は「歴史に学び、現場に聞き、理論を構築する」をモットーに、社会資本・国家・都市・環境という新しい経済学の領域を切り開き、独自の学問体系を作り上げられただけでなく、自治体問題研究所、地方自治学会などの設立にも主導的に関わってこられました。地方自治学会の設立が遅かったのは「地方自治が住民自治を基礎にした分権であり、民主主義は住民の自治権の確立がなければ実現しないということが、学界で認められるには時間がかかった」ためとされています(宮本憲一他『われら自身の希望の未来ー戦争・公害・自治を語る』かもがわ出版、2024)。

自治体問題研究所が設立されたのは1963年で、初代理事長は田村英元茨木市長、2代目は島恭彦先生、3代目は宮本憲一先生でした。私自身は宮本理事長の時に理事になりました。1990年に静岡大学に助教授として赴任し、1993年に次男を出産した直後からの理事ですので、ずいぶん長くなります。4代目加茂利男先生、5代目岡田知弘先生、6代目中山徹先生に至るまで30余年にわたって、市町村合併や震災復興などの共同研究にも関わってきました。

現在、異常気象は「社会的災害」となり、新自由主義グローバリズムのもとで、東京一極集中がさらにすすみ、企業の集積利益が極大化される一方、公害や災害などの集積不利益が拡大し、地方圏の相対的衰退も顕著になっています。市町村合併によって広域的な地域に再編された自治体では、コンパクトシティ化によって、周辺部がさらに衰退する傾向も顕著にみられます。また、辺野古新基地建設やリニア中央新幹線開発など、環境破壊型・資源浪費型の大規模事業も進行しています。今年1月1日に発生した能登半島地震では、政府の対応が遅いうえに、市町村合併によって職員数が減少して初期対応が遅れたことが問題となっています。東日本大震災では7市町村が広域合併した石巻市を事例に、何度も現地調査を行い、著書等にも書かせていただきましたが、生活者からみた「人間の復興」やコミュニティの再生、住民の合意形成などの点において大きな課題が残されました(拙著『集権型システムと自治体財政』自治体研究社、2022等参照)。

いま世界的にミュニシパリズム運動が広がり、ヨーロッパを中心に公共性、コモンズ(コモン)を取り戻そうとする動きが活発化しています。住民共同学習によって、新しい希望の未来を切り開くような、ボトムアップ型のシステム構築が求められています。

川瀬 憲子

専門は財政学、地方財政。地方自治学会理事、自治体問題研究所副理事長。著書に『集権型システムと自治体財政』自治体研究社、『「分権改革」と地方財政』自治体研究社、『アメリカの補助金と州・地方財政』勁草書房など多数。

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