地方自治法改正に反対する


今回の通常国会で地方自治法改正が議論されています。今回の改正案では、どのような事態であれば、国が自治体に対して「指示」を出すことができるかを書き込もうとしています。「指示」というのは、地方自治法第245条の3第6項にあるように、従わなければならないものです。

今回の改正には大きく4つの問題があります。一つ目は、国と自治体の関係が主従関係になることです。確かに国による「指示」が必要な場合があるかもしれません。災害対策基本法の第28条の6、感染症予防法の第51条の5では、各々緊急災害対策本部長(内閣総理大臣)、厚生労働大臣は「指示」をすることができると定めています。また、家畜伝染病予防法第47条にも「指示」が書かれています。しかしこれらは個別法です。今回は地方自治法という一般法に「指示」を入れようとしているわけで、このようなことをすると、国と自治体は対等という関係が一般論として主従関係に代わるのではないかと懸念します。

二つ目は、戦時体制づくりにつながる改正だということです。国が「指示」を出せるのは、「大規模な災害」「感染症のまん延」「その他」において「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生」または「発生する恐れがある場合」です。問題はこの「その他」です。地方制度調査会では途中まで、「非平時」という呼び方を使い、「非平時」には「自然災害」「感染症」「武力攻撃」の3類型を想定していました。これが地方自治法改正案では、「非平時」を「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に変更し、「武力攻撃」を削除して「その他」にしたわけです。「その他」にするとどのような事態にでも適用でき、そのこと自体大きな問題ですが、「その他」の中心は「武力攻撃」だと考えるべきです。

三つめは、規制がかからないということです。今回の改正案では、閣議決定を経れば「指示」が出せます。そのため外部のチェックが働きません。感染症予防法に基づいて「指示」を出す場合は、厚生科学審議会の意見を聴かなければなりませんし、その余裕がなかった場合は、事後に厚生科学審議会に報告しなければなりません(第51条の5)。地方自治法に基づいた「指示」にもかかわらず閣議決定だけで可能にするのであれば、内閣の思惑通りにできます。さらに「指示」が妥当であったかどうかを検証する仕組みもありません。

四つ目は、関係団体が改正に懸念を示している点です。全国知事会は2024年3月1日に「地方自治法改正案の閣議決定を受けて」を発表し、「指示が地方自治の本旨に反し」ないように求めています。東京都杉並区長が幹事を務める自治体スクラム支援会議(9市区町村長で構成)は2024年5月11日に「地方自治法改正案に対する声明」を発表し、「指示」が安易に行使されないように求めています。そして日本弁護士連合会は、2024年3月11日に「地方自治法改正に反対する会長声明」を発表しています。

少なくとも現時点では改正が必要な立法事実が示されていないため、改正する必要は全くありません。不十分ではありますがこの間進んできた地方分権の流れに逆行し、戦争できる国づくりにつながるような今回の改正は阻止すべきだと思います。

中山 徹
  • 中山 徹(なかやま とおる)
  • 奈良女子大学名誉教授・自治体問題研究所理事長

1959年大阪生まれ。京都大学大学院博士課程修了。工学博士、一級建築士。主な著書に『人口減少と大規模開発』2017年、『人口減少と公共施設の展望』『人口減少時代の自治体政策』2018年、いずれも自治体研究社。