9月に入り、多くの地方自治体では、「予算編成方針」が財政主管部局から示され、年末から年始に行われる首長査定に向けた予算編成作業が本格化します。
その際によく言われるのが「政策目標・指標の達成度」「スクラップ&ビルド」「PDCAサイクル」「政策の費用対効果」であり、税収や地方交付税、国庫補助金など限られた財源を、住民ニーズに応え住民福祉の向上にいかに有効に使うか、事業担当部局と財政主管部局が、首長の掲げる政策を柱にしながら協議が繰り広げられます。
ごく一部の富裕団体を除けば地方自治体は厳しい財政運営を強いられ、予算編成作業は、人員配置にかかる人件費確保も含め厳しいものがあります。国庫補助金や特別地方交付税が配分される政府主導の事業以外は、地方自治体独自の自主的自立的な事業をすすめる財源は乏しく、税や保険料、各種料金など住民に新たな負担を課すこともなかなかできないなか、地域住民のマンパワーや民間資金など「地域のちから」を最大限活用し、新規事業を展開していかざるを得ない状況があります。
こうした地方自治体の厳しい予算編成作業の実態から見ると、政府が予算をつけ地方自治体に求めてくる政策や事業は、あまりにも陳腐で無駄が多いと感じることが多く見られます。
医療保険制度ではマイナ保険証への切替えが行われ、新規加入や紛失時には2024年12月2日以降、そうでない場合は現行の紙の保険証の有効期限経過後は、マイナ保険証あるいは「資格確認証」に切り替わります。マイナ保険証に新たに連動する自治体の重度障がい者や小児医療などの福祉医療制度を含めさまざまなシステムの改修が行われ、マイナ保険証利用率促進のための誘導策が「保険者努力支援制度」「診療報酬改定」等によって行われています。
これらのシステム改修や誘導策には膨大な国費や医療保険加入者の保険料が投入されていますが、地方自治体の予算編成では当たり前のことは議論されず、この「マイナ保険証」を普及する「政策目標」「目標を達成するために進める手段」「政策目標の達成見込み」など、いつのまにか「マイナ保険証の普及」が「政策目標」に変えられているように見えます。
医療機関窓口などに掲出されている厚生労働省の広報物には「データに基づくより良い医療」「高額療養費限度額超の支払い免除」「医療費控除手続きの簡素化」「医療現場で働く人の負担を軽減」が「マイナ保険証」のメリットとして挙げられています。
これが「マイナ保険証」の政策目標と考えられますが、実は、これらの政策目標の達成は「紙の保険証」でも可能で、そのことは台風10号の災害時に「マイナ保険証」や「紙の保険証」なしに「データ連携」が可能となったことを見ても明らかです。これは「マイナ保険証」のベースとなる「オンライン資格確認システム」が、「マイナ保険証」と「紙の保険証」が併存することを前提に設計されたためです。
こうした「陳腐で無駄な政策」は今後も展開されることが想定されます。政策が実行される現場にいて、その効果を直接検証することができるのは自治体の職員、議員、関係者です。厳しい予算編成作業を強いられている地方自治体の立場から、「陳腐で無駄な政策」の暴走を止める声をあげていくことが求められています。